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第一章
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「え?」
その告白にエメレンス自身も驚きを隠せない。あの兄が、リューディアの顔を嫌いなはずは無いのだが。
「わたくしにむかって、ブスとおっしゃいまして。その、わたくしの顔を見ると、モーゼフさまは胸が苦しくなるそうです。それで、顔を見せないようにと、おっしゃいまして。それで、その。どうしたらいいのかと……」
エメレンスは、このリューディアと兄が鈍感で良かったと心から安堵した。だからって、正直にそれを口にするほど、エメレンスもお人好しではない。自分だって、一目見た時から彼女のことが――。
「リューディア。その、きれいとかかわいいとか、そういった感覚って人によって異なるものだから。だから、兄上が君のことを、そのブスって思ったからって、みんながみんなブスって思うわけじゃないよ」
「ですが……。そのモーゼフさまは、わたくしの婚約者でいらっしゃいますから、モーゼフさまに嫌われたら……」
「リューディアは、兄上のことが好きなの?」
「え?」
突拍子もないエメレンスからの質問に、リューディアは正直にわからないと答えた。
「わたくしとモーゼフさまの結婚は、決められたことですから……」
「でも。どうせなら好きな人と結婚したいって思わない?」
「え?」
先ほどから、エメレンスの言っている言葉の意味が理解できない。
「好きな人と結婚、ですか?」
「そうだよ。君の両親は、好き合って結婚したって聞いている。ボクの両親も、出会ったきかっけは、その、政治的なものだったって聞いているけど。でも、二人は今では結婚して良かったって言ってる。リューディアは、兄上と結婚して、そういった気持ちになれる?」
「わたくしは……。モーゼフさまに嫌われておりますから……。あっ」
と、何かを思い出したかのようにリューディアの声が一際高くあがった。
「モーゼフさまに好かれる努力をしろと、レンさまはそうおっしゃっているわけですね?」
「え? あ、ああ、うん。そうだよ」
今さらそうじゃない、ともエメレンスは言えない。どちらかというと、モーゼフとの婚約をあきらめたら、ということを提案したかったのだが――。
「ですが、モーゼフさまは私のお顔が嫌いとおっしゃっているのです。どうしたらいいのでしょう……。あ、顔を、見せなければよろしいのでしょうか」
「あ、うん。そう、そうだね」
「そうなのですね、どうしましょう……」
またうっすらと目に涙を溜めたリューディアは困った様にそう呟いた。
そして、このモーゼフとのことがきっかけとなって、リューディアが人前に出ることを非常に恐れるようになってしまった。
両親が理由を問い質しても、人と会うのが怖いという始末。人にこの顔を見せたくない、と言うだけ。
後日。なぜかエメレンスからリューディア宛てに眼鏡が届いた。それには手紙が添えられて。
『このメガネは君の顔をかくしてくれます。ボク以外の男の前ではけしてこれを外さないでください。君の顔についてとやかく言う人がいるかもしれないから』
少し引きこもり気味になりつつあった彼女を外の世界へと誘う、そんな魅力を備えているのがその眼鏡だった。素顔を晒すことに自信を失っていたリューディアにとって、エメレンスから贈られた眼鏡は、彼女を勇気づけるものでもあった。
だからこそ、家族以外、そしてエメレンス以外の人の前ではこの眼鏡を外さないようにしようと、リューディアは誓うのだった――。
その告白にエメレンス自身も驚きを隠せない。あの兄が、リューディアの顔を嫌いなはずは無いのだが。
「わたくしにむかって、ブスとおっしゃいまして。その、わたくしの顔を見ると、モーゼフさまは胸が苦しくなるそうです。それで、顔を見せないようにと、おっしゃいまして。それで、その。どうしたらいいのかと……」
エメレンスは、このリューディアと兄が鈍感で良かったと心から安堵した。だからって、正直にそれを口にするほど、エメレンスもお人好しではない。自分だって、一目見た時から彼女のことが――。
「リューディア。その、きれいとかかわいいとか、そういった感覚って人によって異なるものだから。だから、兄上が君のことを、そのブスって思ったからって、みんながみんなブスって思うわけじゃないよ」
「ですが……。そのモーゼフさまは、わたくしの婚約者でいらっしゃいますから、モーゼフさまに嫌われたら……」
「リューディアは、兄上のことが好きなの?」
「え?」
突拍子もないエメレンスからの質問に、リューディアは正直にわからないと答えた。
「わたくしとモーゼフさまの結婚は、決められたことですから……」
「でも。どうせなら好きな人と結婚したいって思わない?」
「え?」
先ほどから、エメレンスの言っている言葉の意味が理解できない。
「好きな人と結婚、ですか?」
「そうだよ。君の両親は、好き合って結婚したって聞いている。ボクの両親も、出会ったきかっけは、その、政治的なものだったって聞いているけど。でも、二人は今では結婚して良かったって言ってる。リューディアは、兄上と結婚して、そういった気持ちになれる?」
「わたくしは……。モーゼフさまに嫌われておりますから……。あっ」
と、何かを思い出したかのようにリューディアの声が一際高くあがった。
「モーゼフさまに好かれる努力をしろと、レンさまはそうおっしゃっているわけですね?」
「え? あ、ああ、うん。そうだよ」
今さらそうじゃない、ともエメレンスは言えない。どちらかというと、モーゼフとの婚約をあきらめたら、ということを提案したかったのだが――。
「ですが、モーゼフさまは私のお顔が嫌いとおっしゃっているのです。どうしたらいいのでしょう……。あ、顔を、見せなければよろしいのでしょうか」
「あ、うん。そう、そうだね」
「そうなのですね、どうしましょう……」
またうっすらと目に涙を溜めたリューディアは困った様にそう呟いた。
そして、このモーゼフとのことがきっかけとなって、リューディアが人前に出ることを非常に恐れるようになってしまった。
両親が理由を問い質しても、人と会うのが怖いという始末。人にこの顔を見せたくない、と言うだけ。
後日。なぜかエメレンスからリューディア宛てに眼鏡が届いた。それには手紙が添えられて。
『このメガネは君の顔をかくしてくれます。ボク以外の男の前ではけしてこれを外さないでください。君の顔についてとやかく言う人がいるかもしれないから』
少し引きこもり気味になりつつあった彼女を外の世界へと誘う、そんな魅力を備えているのがその眼鏡だった。素顔を晒すことに自信を失っていたリューディアにとって、エメレンスから贈られた眼鏡は、彼女を勇気づけるものでもあった。
だからこそ、家族以外、そしてエメレンス以外の人の前ではこの眼鏡を外さないようにしようと、リューディアは誓うのだった――。
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