4 / 57
第一章
2
しおりを挟む
「お前たちの妹だぞ。ああ、娘を授かることは無いと思い込んでいたためか、感慨深いものがある……」
「お父さま、名前は?」
長男のヘイデンが尋ねた。
「なまえは?」
次男のミシェルも聞いてくる。
「なまえー」
三男のシオドリックも言う。
「そ、そうだ。名前だ。男の子とばかり思っていたからな。そうだな」
ううむ、と侯爵は唸る。
「リューディア、リューディアはどうだろうか。女神としてあがめられているリディア神から、名前をいただいた」
「リューディア。きっと、リディア神のように美しく、聡明な女性になることでしょう」
寝台の上のサフィーナが嬉しそうに呟くと、公爵の腕の中の赤ん坊がにたりと笑ったように見えた。
「おお、笑ったぞ。この名前が気に入ったんだな。よし、リューディアに決まりだ」
「リューディア」
ヘイデンが呼べば、もう一度赤ん坊がぴくりと笑う。
「リューディー」
「りゅー」
ミシェルもシオドリックも、生まれたての妹の名を呼ぶ。赤ん坊はぷくぷくとしたほっぺで、幸せそうに眠っていた。
◇◆◇◆
さて、コンラット魔法公爵家に待望の女児が誕生したという話は、他の二大魔法公爵家にも伝わり、さらに国王の耳にまで届くのに一日という時間も要さなかった。それだけ人々の関心を引くような内容だったのである。
そして、リューディアが生まれて十日後。早速、その他の二大魔法公爵家のうちの一つのカウジオ家が二人の息子まで引き連れてお祝いにかけつけてきた。この二人の息子、十歳と八歳。それでも、リューディアと婚約させてはどうか、とカウジオ公爵が持ち掛けてきたのは、コンラット公爵家と強いつながりを持ちたいからだろう。
その話を聞きつけたティセリウス公爵家がそれから三日後にお祝いに駆けつけてきた。こちらも、わざわざ四人の息子を引き連れて。こちらの息子たちは、上から十五歳、十歳、五歳、四歳。ティセリウス公爵は、年もそんなに離れていないから、一番下の息子とリューディアを婚約させてはどうかと、言い出した。
三大魔法公爵家のうちの二つの結びつきが強くなれれば、この力の均衡が崩れてしまうと思ったコンラット公爵は、二家からの申し込みをやんわりと断った。
だが、魔法公爵家であるコンラット家と繋がりを強めたいと思うのは、この二大公爵家だけにとどまらない。
なんと、このリンゼイ王国の国王が、息子のモーゼフと婚約させてはどうかと言い出した。このとき、モーゼフは二歳。二歳の年の差。
いいんじゃない、となぜかサフィーナの方が乗り気だった。それは恐らく、公爵と公爵夫人が二歳の年の差だからだろう。それに、相手は国王陛下。他の魔法公爵家からの申し出と違って、断ることのできない話であることを、コンラット公爵だってわかっている。リューディアの相手があのモーゼフとなれば、他の二大公爵家も納得してくれることだろう。
こうして、生後一か月にして、リューディアは生涯の伴侶とする相手が決まってしまったのである。
「お父さま、名前は?」
長男のヘイデンが尋ねた。
「なまえは?」
次男のミシェルも聞いてくる。
「なまえー」
三男のシオドリックも言う。
「そ、そうだ。名前だ。男の子とばかり思っていたからな。そうだな」
ううむ、と侯爵は唸る。
「リューディア、リューディアはどうだろうか。女神としてあがめられているリディア神から、名前をいただいた」
「リューディア。きっと、リディア神のように美しく、聡明な女性になることでしょう」
寝台の上のサフィーナが嬉しそうに呟くと、公爵の腕の中の赤ん坊がにたりと笑ったように見えた。
「おお、笑ったぞ。この名前が気に入ったんだな。よし、リューディアに決まりだ」
「リューディア」
ヘイデンが呼べば、もう一度赤ん坊がぴくりと笑う。
「リューディー」
「りゅー」
ミシェルもシオドリックも、生まれたての妹の名を呼ぶ。赤ん坊はぷくぷくとしたほっぺで、幸せそうに眠っていた。
◇◆◇◆
さて、コンラット魔法公爵家に待望の女児が誕生したという話は、他の二大魔法公爵家にも伝わり、さらに国王の耳にまで届くのに一日という時間も要さなかった。それだけ人々の関心を引くような内容だったのである。
そして、リューディアが生まれて十日後。早速、その他の二大魔法公爵家のうちの一つのカウジオ家が二人の息子まで引き連れてお祝いにかけつけてきた。この二人の息子、十歳と八歳。それでも、リューディアと婚約させてはどうか、とカウジオ公爵が持ち掛けてきたのは、コンラット公爵家と強いつながりを持ちたいからだろう。
その話を聞きつけたティセリウス公爵家がそれから三日後にお祝いに駆けつけてきた。こちらも、わざわざ四人の息子を引き連れて。こちらの息子たちは、上から十五歳、十歳、五歳、四歳。ティセリウス公爵は、年もそんなに離れていないから、一番下の息子とリューディアを婚約させてはどうかと、言い出した。
三大魔法公爵家のうちの二つの結びつきが強くなれれば、この力の均衡が崩れてしまうと思ったコンラット公爵は、二家からの申し込みをやんわりと断った。
だが、魔法公爵家であるコンラット家と繋がりを強めたいと思うのは、この二大公爵家だけにとどまらない。
なんと、このリンゼイ王国の国王が、息子のモーゼフと婚約させてはどうかと言い出した。このとき、モーゼフは二歳。二歳の年の差。
いいんじゃない、となぜかサフィーナの方が乗り気だった。それは恐らく、公爵と公爵夫人が二歳の年の差だからだろう。それに、相手は国王陛下。他の魔法公爵家からの申し出と違って、断ることのできない話であることを、コンラット公爵だってわかっている。リューディアの相手があのモーゼフとなれば、他の二大公爵家も納得してくれることだろう。
こうして、生後一か月にして、リューディアは生涯の伴侶とする相手が決まってしまったのである。
24
お気に入りに追加
1,076
あなたにおすすめの小説

離婚しましょう、私達
光子
恋愛
「離婚しましょう、私達」
私と旦那様の関係は、歪だ。
旦那様は、私を愛していない。だってこの結婚は、私が無理矢理、お金の力を使って手に入れたもの。
だから私は、私から旦那様を解放しようと思った。
「貴女もしつこいですね、離婚はしないと言っているでしょう」
きっと、喜んで頷いてくれると思っていたのに、当の旦那様からは、まさかの拒否。
「私は、もう旦那様が好きじゃないんです」
「では、もう一度好きになって下さい」
私のことなんて好きじゃないはずなのに、どうして、離婚を拒むの? それどころか、どうして執着してくるの? どうして、私を離してくれないの?
「諦めて、俺の妻でいて下さい」
どんな手を使っても手に入れたいと思った旦那様。でも違う、それは違うの、そう思ったのは、私じゃないの。
貴方のことが好きだったのは、私じゃない。
私はただ、貴方の妻に転生してしまっただけなんです!
―――小説の中に転生、最推しヒロインと旦那様の恋を応援するために、喜んで身を引きます! っと思っていたのに、どうしてこんなことになってしまったのか……
不定期更新。
この作品は私の考えた世界の話です。魔法ありの世界です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
R15です。性的な表現があるので、苦手な方は注意して下さい。

【完結】真実の愛を見つけたから離婚に追放? ありがとうございます! 今すぐに出ていきます!
ゆうき
恋愛
婚約者が長を務める薬師ギルドに勤めていたエリシアは、とある日に婚約者に真実の愛を見つけたからと、婚約破棄とギルドの追放を突きつけられてしまう。
勤務態度と、新しい女性に嫉妬して嫌がらせをしていたという、偽りの理由をでっち上げられてしまったエリシア。
しかし、彼が学生時代から自分を所有物のように扱っていたことや、女癖が悪いこと、そして一人では処理するのは困難な量の仕事を押し付けられていたこともあり、彼を恨んでいたエリシアは、申し出を快く聞き入れた。
散々自分を苦しめてきた婚約者に、いつか復讐してやるという気持ちを胸に、実家に無事に帰ってきたのも束の間、エリシアの元に、とある連絡が届く。それは、学生時代で唯一交流があった、小さな薬師ギルドの長……サイラスからの連絡だった。
サイラスはエリシアを溺愛しており、離婚とギルドを追い出されたのを聞き、とあることを提案する。それは、一緒にギルドで働かないかというものであった。
これは、とある薬師の女性が、溺愛してくれる男性に振り回されながらも、彼と愛を育み、薬師としての目標を叶えるために奮闘する物語。
☆既に完結まで執筆、予約投稿済みです☆

私のことは愛さなくても結構です
毛蟹葵葉
恋愛
サブリナは、聖騎士ジークムントからの婚約の打診の手紙をもらって有頂天になった。
一緒になって喜ぶ父親の姿を見た瞬間に前世の記憶が蘇った。
彼女は、自分が本の世界の中に生まれ変わったことに気がついた。
サブリナは、ジークムントと愛のない結婚をした後に、彼の愛する聖女アルネを嫉妬心の末に殺害しようとする。
いわゆる悪女だった。
サブリナは、ジークムントに首を切り落とされて、彼女の家族は全員死刑となった。
全ての記憶を思い出した後、サブリナは熱を出して寝込んでしまった。
そして、サブリナの妹クラリスが代打としてジークムントの婚約者になってしまう。
主役は、いわゆる悪役の妹です
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

【完結】私のことが大好きな婚約者さま
咲雪
恋愛
私は、リアーナ・ムスカ侯爵令嬢。第二王子アレンディオ・ルーデンス殿下の婚約者です。アレンディオ殿下の5歳上の第一王子が病に倒れて3年経ちました。アレンディオ殿下を王太子にと推す声が大きくなってきました。王子妃として嫁ぐつもりで婚約したのに、王太子妃なんて聞いてません。悩ましく、鬱鬱した日々。私は一体どうなるの?
・sideリアーナは、王太子妃なんて聞いてない!と悩むところから始まります。
・sideアレンディオは、とにかくアレンディオが頑張る話です。
※番外編含め全28話完結、予約投稿済みです。
※ご都合展開ありです。

無気力系主人公の総受け小説のモブに本物の無気力人間が転生したら
7瀬
BL
むり。だるい。面倒くさい。
が口癖の俺は、気付いたら前世とは全く違う世界線の何処かの国の貴族の子どもに転生していた。貴族にしては貧乏らしいが、前世の生活とは比べものにならない贅沢な生活をダラダラ満喫していたある日、それなりに重大な事実に気づく。どうやらここは姉がご執心だったB小説の中らしい。とはいえモブに過ぎない俺にやることはないし、あったとしても面倒なのでやるはずがないし。そんなこんなで通常運転で無気力に生きていたら何故か主要キャラ達が集まってきて………。恋愛とか無理。だるい。面倒くさい。
✽主人公総受け。固カプあり。(予定)
✽誤字脱字が多く申し訳ありません。ご指摘とても助かります!
アズラエル家の次男は半魔
伊達きよ
BL
魔力の強い子どもが生まれやすいアズラエル家。9人兄弟の長男も三男も四男もその魔力を活かし誉れ高い聖騎士となり、その下の弟達もおそらく優秀な聖騎士になると目されていた。しかし次男のリンダだけは魔力がないため聖騎士となる事が出来ず、職業は家事手伝い。それでもリンダは、いつか聖騎士になり国を守る事を目標に掃除洗濯育児に励んでいた。しかしある時、兄弟の中で自分だけが養子である事を知ってしまう。そして、実の母は人間ではないという、とんでもない事実も。しかもなんと、その魔物とはまさかの「淫魔」。
半端な淫魔の力に目覚めてしまった苦労性のリンダの運命やいかに。
【作品書籍化のため12月13日取下げ予定です】

好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる