婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。

澤谷弥(さわたに わたる)

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第一章

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「お前たちの妹だぞ。ああ、娘を授かることは無いと思い込んでいたためか、感慨深いものがある……」

「お父さま、名前は?」
 長男のヘイデンが尋ねた。
「なまえは?」
 次男のミシェルも聞いてくる。
「なまえー」
 三男のシオドリックも言う。

「そ、そうだ。名前だ。男の子とばかり思っていたからな。そうだな」
 ううむ、と侯爵は唸る。
「リューディア、リューディアはどうだろうか。女神としてあがめられているリディア神から、名前をいただいた」

「リューディア。きっと、リディア神のように美しく、聡明な女性になることでしょう」
 寝台の上のサフィーナが嬉しそうに呟くと、公爵の腕の中の赤ん坊がにたりと笑ったように見えた。

「おお、笑ったぞ。この名前が気に入ったんだな。よし、リューディアに決まりだ」
「リューディア」
 ヘイデンが呼べば、もう一度赤ん坊がぴくりと笑う。
「リューディー」
「りゅー」
 ミシェルもシオドリックも、生まれたての妹の名を呼ぶ。赤ん坊はぷくぷくとしたほっぺで、幸せそうに眠っていた。

◇◆◇◆

 さて、コンラット魔法公爵家に待望の女児が誕生したという話は、他の二大魔法公爵家にも伝わり、さらに国王の耳にまで届くのに一日という時間も要さなかった。それだけ人々の関心を引くような内容だったのである。
 そして、リューディアが生まれて十日後。早速、その他の二大魔法公爵家のうちの一つのカウジオ家が二人の息子まで引き連れてお祝いにかけつけてきた。この二人の息子、十歳と八歳。それでも、リューディアと婚約させてはどうか、とカウジオ公爵が持ち掛けてきたのは、コンラット公爵家と強いつながりを持ちたいからだろう。
 その話を聞きつけたティセリウス公爵家がそれから三日後にお祝いに駆けつけてきた。こちらも、わざわざ四人の息子を引き連れて。こちらの息子たちは、上から十五歳、十歳、五歳、四歳。ティセリウス公爵は、年もそんなに離れていないから、一番下の息子とリューディアを婚約させてはどうかと、言い出した。

 三大魔法公爵家のうちの二つの結びつきが強くなれれば、この力の均衡が崩れてしまうと思ったコンラット公爵は、二家からの申し込みをやんわりと断った。
 だが、魔法公爵家であるコンラット家と繋がりを強めたいと思うのは、この二大公爵家だけにとどまらない。
 なんと、このリンゼイ王国の国王が、息子のモーゼフと婚約させてはどうかと言い出した。このとき、モーゼフは二歳。二歳の年の差。
 いいんじゃない、となぜかサフィーナの方が乗り気だった。それは恐らく、公爵と公爵夫人が二歳の年の差だからだろう。それに、相手は国王陛下。他の魔法公爵家からの申し出と違って、断ることのできない話であることを、コンラット公爵だってわかっている。リューディアの相手があのモーゼフとなれば、他の二大公爵家も納得してくれることだろう。

 こうして、生後一か月にして、リューディアは生涯の伴侶とする相手が決まってしまったのである。
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