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17.語られる過去(2)
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「それで、プレール侯爵夫人……もう、侯爵夫人ではありませんね。プレール夫人はどうなったのですか?」
あれから十日が経ち、アーネストたちを襲ったトラゴス国の残党は、トラゴス国へと送られた。彼らの処遇はトラゴス国が決める。
プレール夫人は前王派の人間で、なんとかして前王派の者を王位に就けようと、残党たちと企んでいたようだ。前王派の人間はほとんどが処刑され、女性や子どもたちは修道院へと送られたのだが、プレール夫人は残党の手を借りてそこから逃げ出した。
残党たちがまず狙ったのはアーネストである。彼らからしてみれば、アーネストは恨みの対象だろう。彼が一人のところを襲えばなんとかなると思ったのか、残党らはアーネストをつけ回していた。しかし、アーネストもほとんどを支部棟で過ごすようなつまらない人間であったため、なかなか隙が生まれない。
それが最近になって、女性と街中を歩く姿がたびたび確認されるようになり、彼らは機会をさぐっていた。相手の女性をさらっておびき寄せるなどの案もあったようで、とにかくアーネストの動きを監視していたのである。
アーネストが連れ歩いている女性がオレリアだと知られたのは、彼女の髪の色が珍しいからだろう。
オレリアは前王の娘。となれば、王に相応しい身分を持つ。
プレール夫人は安易にそう考えたらしいが、正常な判断ができなくなるくらい、彼女も精神的に追い詰められていた。
そうやってアーネストを尾行してオレリアを手に入れようとしたが、アーネストのほうが一枚上手であった。
「今回の件は、大変でしたね」
白磁のカップをカチャリとテーブルに戻して、オレリアは他人ごとのように言う。あのとき、一番巻き込まれた張本人であるにもかかわらず、彼女にとっては大した問題ではないのだろう。
「まあ、これでようやく一息つけたところだな」
それでもオレリアの目の前で腕を組んでいるアーネストの表情は険しいままだった。
「アーネストさま。どうかされました?」
「……いや」
「アーネストさまのことですから、また、何かしら変なことをうだうだと考えていそうな気がするのですが。わたしとしましては、お父さまのこともお兄さまのことも、まったく気にしておりません。アーネストさまにはきちんとお伝えしていなかったかもしれませんが、わたしはトラゴスではいない者のように扱われていたのです」
母親が亡くなってからどのような扱いを受けていたのか、それを彼に伝えたことはない。
オレリアがハバリー国に来て、アーネストがガイロへ発つまでの間、そのような深い話をするような関係も築けなかったし、時間もなかった。まして、手紙で伝えるような内容でもない。
トラゴス国でどのように過ごしていたのかを、屈託なくさらりと話をするオレリアに対して、アーネストは眉間に深くしわを刻んでいく。
「そうだったのか」
まるで苦虫を潰したような顔をする。
あれから十日が経ち、アーネストたちを襲ったトラゴス国の残党は、トラゴス国へと送られた。彼らの処遇はトラゴス国が決める。
プレール夫人は前王派の人間で、なんとかして前王派の者を王位に就けようと、残党たちと企んでいたようだ。前王派の人間はほとんどが処刑され、女性や子どもたちは修道院へと送られたのだが、プレール夫人は残党の手を借りてそこから逃げ出した。
残党たちがまず狙ったのはアーネストである。彼らからしてみれば、アーネストは恨みの対象だろう。彼が一人のところを襲えばなんとかなると思ったのか、残党らはアーネストをつけ回していた。しかし、アーネストもほとんどを支部棟で過ごすようなつまらない人間であったため、なかなか隙が生まれない。
それが最近になって、女性と街中を歩く姿がたびたび確認されるようになり、彼らは機会をさぐっていた。相手の女性をさらっておびき寄せるなどの案もあったようで、とにかくアーネストの動きを監視していたのである。
アーネストが連れ歩いている女性がオレリアだと知られたのは、彼女の髪の色が珍しいからだろう。
オレリアは前王の娘。となれば、王に相応しい身分を持つ。
プレール夫人は安易にそう考えたらしいが、正常な判断ができなくなるくらい、彼女も精神的に追い詰められていた。
そうやってアーネストを尾行してオレリアを手に入れようとしたが、アーネストのほうが一枚上手であった。
「今回の件は、大変でしたね」
白磁のカップをカチャリとテーブルに戻して、オレリアは他人ごとのように言う。あのとき、一番巻き込まれた張本人であるにもかかわらず、彼女にとっては大した問題ではないのだろう。
「まあ、これでようやく一息つけたところだな」
それでもオレリアの目の前で腕を組んでいるアーネストの表情は険しいままだった。
「アーネストさま。どうかされました?」
「……いや」
「アーネストさまのことですから、また、何かしら変なことをうだうだと考えていそうな気がするのですが。わたしとしましては、お父さまのこともお兄さまのことも、まったく気にしておりません。アーネストさまにはきちんとお伝えしていなかったかもしれませんが、わたしはトラゴスではいない者のように扱われていたのです」
母親が亡くなってからどのような扱いを受けていたのか、それを彼に伝えたことはない。
オレリアがハバリー国に来て、アーネストがガイロへ発つまでの間、そのような深い話をするような関係も築けなかったし、時間もなかった。まして、手紙で伝えるような内容でもない。
トラゴス国でどのように過ごしていたのかを、屈託なくさらりと話をするオレリアに対して、アーネストは眉間に深くしわを刻んでいく。
「そうだったのか」
まるで苦虫を潰したような顔をする。
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