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29.まさしく無限大(1)

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 トラヴィスが寝室へとやってきた。レインはベッドの上で正座して、じっと母親からもらった回復薬を見つめていた。

「どうかしたのか?」

「いえ、お母様からいただいた回復薬。飲んでいいものか悪いのか」
 ふっと、そこでトラヴィスは笑みを漏らした。

「飲んでみたらいいんじゃないのか。せっかくニコラさんが作ってくれたんだ。それに、今だって魔力は安定していないし、いつ枯渇が起きてもおかしくない」

「でも。その、トラヴィス様と致せば、魔力は回復いたしますが?」

「だが、私がいないときはどうするのだ?」
 彼はいたずらを仕掛けた子供のように笑みを浮かべた。

「それは、困りますね。他の方と、というわけにはいきませんもの」

「君は、私を挑発しているのか?」
 トラヴィスがゆっくりとベッドに座った。そこが静かに沈む。そして彼が右手を広げてきたので、レインはその腕にすっぽりとおさまった。

「私が恐れているのは、君を誰かに奪われることと、君を失うことだ」
 言うと、トラヴィスは彼女の髪に口づけた。

「私も。トラヴィス様を失うことが怖いです。それと同時に、トラヴィス様の隣にふさわしいような魔導士になりたいとも思っています」

「君は、とても優秀な魔導士だ。むしろ、私が君の隣にいてもいいのかどうかと、不安になるときもある」
 トラヴィスはレインをふわりと抱き上げると、自分の膝の上に座らせた。そして、彼女が手にしていた小瓶を奪い取ると、勢いよく蓋をあけ、それを一気に口へと含む。
 あっけにとられて眺めているレインの唇に勢いよく自分のそれを重ねた。彼女の喉を、熱い何かが通り抜ける。

「ぷはっ、けほっ」

 あまりにも突然であったため、レインはむせてしまったらしい。

「けほっ。トラヴィス様」

「こうでもしないと、君はこの薬を飲まないだろう」
 残っているそれを舌で拭い取るように、彼は唇を舐め回した。

 レインの喉は、まだ焼けるように熱く、ヒリヒリとしている。この薬に言えることは、後味が悪いということだろうか。さらに言うと、その薬が駆け抜けていった胸、お腹の辺りもぽかぽかとしてくる。

「レイン。てもいいか」

 すっと両手をとられた。
 頷く。

「魔力鑑定」

 しばらくして、トラヴィスの目は大きく開かれた。

「レイン。君の魔力が戻っている。まさしく無限大」
 トラヴィスには見えた。彼女の魔力が九の六桁まで回復しているということが。

「レイン」
 なぜか彼女は彼の胸に頭を預けて、くたりとしている。
「レイン、どうかしたのか?」

 反応の無い彼女の名を必死で呼ぶ。もしかして、急激に魔力が戻ったから、反動がきたのか。

「と、トラヴィス、さま」

 彼女の顔が火照っている。まさか。

「熱があるのか?」
 トラヴィスが彼女の肌に触れようとすると。
「ん……。はっ」
 と苦しそうな声を出す。

「トラヴィス、さま。からだが、なんか、へん」

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