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18.あなたを忘れさせて(2)

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 こんな想いをするくらいなら、忘れた方が楽だろうと、何度も思ったことか。それでも、ついつい彼のことを心配している自分がいる。その矛盾する想い。

「ダメだ。許さない。俺のことを忘れるなんて許さない。許すわけがない」

 トラヴィスは怒っている。それは、レインから見てもはっきりとわかる。逃げなければ、と頭ではわかっているのに、身体が動かない。ゆっくりとトラヴィスが近づいてきて、彼女を再び抱きしめる。
 レインの身体がふわりと浮いたのは、トラヴィスに抱き上げられたから。

「トラヴィスさまっ。恥ずかしいですから、おろしてください」

「こんな辺鄙な場所に、人はこない。それに、おろすと君は逃げる」

「逃げませんから」
 トラヴィスの腕の中でレインは必死に抵抗する。

「いや、逃げる」

「逃げませんから」
 トラヴィスが思っていたよりも、レインは大きな声を出してしまったのだろう。普段の彼女からは想像できないような声だったらしい。トラヴィスはしぶしぶと彼女をおろした。

「あの、薬草をとってきてもいいですか? 先ほど、落としてしまったので」
 冷静になったレインはそう言った。

「だったら、一緒に行こう。逃げるかもしれないからな」

 まさかの監視状態。逃げませんってばと、心の中で呟いてから、レインはふぅっと肩で息をついた。先ほど、走ってきた道を戻り始めた。落としてしまった籠の周りには、薬草が散らばっていた。
 それを一つ一つ拾って、籠の中に戻す作業をしていると、トラヴィスも同じように手伝ってくれる。
 多分、トラヴィス本人は気付いていない。そういったさりげない行為が、レインにとって嬉しい、ということを。

「ほら、寄越せ」

 ひょいと、籠をトラヴィスに奪われた。

「こんなにたくさん、何に使うつもりだ?」

 いつものトラヴィスに戻ってきたようだ。

「回復薬を。それから、今は、解毒剤のほうも作れるようになったので、練習しています」

「回復薬か。君からもらった回復薬、あれは良かった」

「あれは、トラヴィス様のためにお作りしたものですから」

 自分のため、と言われてトラヴィスも悪い気はしない。そうか、とだけ言って、彼女の隣を歩く。

「トラヴィス様。こちらが、私がお世話になっている祖母の家です」
 だけど今、祖母は不在。帰ってきてから紹介すればいいか、と思ってトラヴィスを中に入れる。

「薬草の籠は、そちらにお願いできますか?」
 トラヴィスは黙って、そちらに籠を置く。

「あの、今。お茶の準備をいたします。その前に、ちょっと着替えてきますので、お待ちください」

 と、レインが自室へ入ろうとすると、素早くトラヴィスもその身体をすべりこませてきた。

 深く口づけをされる。

「ん……、と、トラ……ヴィスさま」
 おやめください、と言いたいのにその口を塞がれているため、言えない。

 いつの間にかレインはベッドに転がされていた。

「トラヴィスさま。おばあさまが帰ってきてしまいますから」

「大丈夫。今日は、帰ってこないから」

 何でトラヴィスはそのことまで知っているのか、とレインは思った。こういった状況であるのに、頭は冷静に働いている。
 いつの間にか衣類ははぎとられ、下着姿で転がされていた。
 トラヴィスもいつの間にか上半分だけ脱いでいるし。さらに、レインの顔の横に手をついたトラヴィスの顔が迫ってきているし。
 再び、深い口づけを交わす。

「君が子供ではないこと、私が証明してあげる」
 一度離れた唇は、首元から徐々に下へ下へと狙いを定めていく。

「トラヴィスさま、これ以上は」

「レイン。ごめんね。私ももう、止められそうにない。それに、君は私を受け入れてくれないと死ぬから」

「え?」

 今、ものすごく大事なことを言われたような気がする。胸元にある彼の頭を冷静に見つめてしまう自分もいる。

「トラヴィスさま、トラヴィスさま」

 彼は何に夢中になっているのか、離れようとはしない。どうやらレインの声も耳に届いていない。こんなトラヴィスもおかしい。
 レインは枕元に置いてある小瓶を取り出した。何かあったときのために、ここには数々の薬が並べてある。それを一気に口を含む。それからトラヴィスの髪の毛を引っ張り、無理やり自分の胸元から引き離すと、今度はレインの方からトラヴィスに深く口づけた。
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