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13.仕方ないから付き合ってやる(2)

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 ライトがトラヴィスを連れて屋敷に戻ると、何やら騒がしい。

「何かあったのか」
 と最初に出会った使用人に尋ねると。

「あの、旦那様。その、先代の奥様が……」
 歯切れの悪い回答が返ってきたのだが、それでなんとなく察した。

義母かあさん」
 談話室の扉を開けるや否や、中にいる人物を確認する前に声をあげてしまう。

「あら、お帰りなさい、ライト。と、後ろにいるのはトラヴィスくんね」

 ゆったりとソファに座って、カップを傾けている女。間違いなくライトの義母であり、レインの産みの母であるニコラ。

「ちょっと、疲れてしまって。今、こちらで休ませてもらっていたのよ」
 レインに似た顔で、彼女はニッコリと笑う。

 ライトはトラヴィスに視線を送り、二人はニコラの前に腰を落ち着かせた。侍女が黙って二人の前にもお茶を置く。

「どうして、突然、戻ってこられたのですか?」

「あなたが、こんな手紙を寄越したからでしょう?」
 テーブルの上に、くしゃくしゃになった封書を置いた。

「手紙……」
 そう言われると、一月ひとつき以上も前にそれを出した気がする。が、そのときは義母がどこにいるかなんてわからなかった。だから、届かないと思っていた。

「それで、レインは? 姿が見当たらないし、誰も、何も教えてくれないのよ」

「それは、俺が口止めしているからです」

「なんで?」

「レインはもう、ここにはいません」
 ため息とともにその言葉を吐き出した。居場所については、隣にトラヴィスがいる以上、今は口にできない。

「どうして?」

「レインが望んだから」

「そう」
 そこでニコラはお茶を飲んだ。それだけの会話でいろいろと悟ってくれたということだろう。
「ところで、トラヴィスくんも、レインの事情は知っている、でいいのよね? このまま、話を続けてしまってもいいのかしら?」

 ニコラが言うレインの事情。それは、魔力枯渇という事情。
 トラヴィスは黙って頷いた。
 トラヴィスがレインの母親と会うのは、今日が初めてではない。
 最後に会ったのは数年前。そう、前団長が亡くなった時。初めて会ったのは、レインとの婚約を認めてもらったとき。
 いつでも彼女は、温かな笑みをその顔に浮かべていた。レインに似た顔で。
 今も、レインのことを案じながら、そこには穏やかな笑みが浮かんでいる。

 レインがあのベイジルの娘と言うのであれば、当たり前だがこの母親がベイジルの愛した女性というわけで。
 ベイジルがこの女性を選んだのもなんとなくわかるわけで。
 それは自分がレインに惹かれたようなものなんだろうな、とトラヴィスは思っていた。

「あ。トラヴィスくんは、レインの父親の話は知っているのかしら?」

 それにもトラヴィスは頷いた。
「はい。先日、ライトから聞きました」

「そう。本当は、あなたがレインと婚約した時に、伝えておくべきだったのよね。別に内緒にしておいたわけではなかったのだけれど」
 と、ニコラの歯切れが悪い。
「ごめんなさいね、黙っていて」
 そっと目を伏せる。そしてそのまま両手で顔を覆う。

義母かあさん?」
 ライトは立ち上がると、ニコラの隣に座り直す。
 多分、恐らくニコラは泣いている。
 トラヴィスは口を真一文字に閉じていて、ただじっと一点を見つめていた。なぜか目の前の親子がうらやましいという思いも沸き起こるトラヴィス。
 ライトはそっと義母の背中に手を回す。
「義母さん……」

「ごめんなさい、つい。あの人のことを思い出してしまって」
 ここで言うあの人、とは、ライトの父親のことではないだろう。間違いなく、ベイジルだ。

 そこで、なぜかライトの胸はキリリと痛んだ。
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