皇子の婚約者になりたくないので天の声に従いました

澤谷弥(さわたに わたる)

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パーティのエスコート(1)

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 ミレーヌとルネは卒業のための実技試験からも解放されていた。学科レポートの結果も合格点に達し、卒業後は騎士団の入団が認められた。
 シャノンも同様で、学科レポートと実技試験をクリアして、卒業後は魔導士団の入団が決まっていた。
 あのときの屋上のお嬢様たちも、特にお咎め無しで無事に卒業できることとなった。そこにミレーヌの根回しがあったことを、あのお嬢様たちが気づいているのかは知らない。まあ、これはいわゆる弱みを握ったというやつだ。あのお嬢様たちがまたシャノンに何かやらかしたら、というときの奥の手。

 そして冒頭から話題にあがっていた第一皇子の婚約者は、残念ながらこの時期になっても決まっていないらしい。
 本来なら、卒業間際のこの時期にシャノン、天の声が言うにはヒロインと呼ぶらしい、が皇子と劇的な出会いをするはずなのだが、それが起こらなかったらしい。

 それもこれもミレーヌが天の声に従って、騎士科を選び、そして皇子の婚約者候補から外れ、さらにエドガーと婚約してしまったことが原因なようなのだが。
 ミレーヌとしては好みではない皇子と婚約するよりも、好みど真ん中タイプのエドガーと婚約できたことの方が嬉しい。
 だけど、いまだにちょっと二人の距離が遠いような感じがするのが、今の最大の悩みでもある。

 さて、ミレーヌ、ルネ、シャノンの三人は今日の授業を終え、食堂でおやつを食べていた。

「ミレーヌ、おめでとう。婚約したんだって?」

 ルネが、デザートにスプーンをつけながら言った。

「ありがとう」

「おめでとうございます。お相手は、どちらの方なんですか?」
 シャノンが尋ねる。

「あの、第三騎士隊のエドガー隊長……」
 そこで、ミレーヌが少しうつむく。そうやって口にすると、恥ずかしいのだ。

「ミレーヌ。照れてるの? そんなんで卒パ、どうすんだよ?」

 卒パとは卒業パーティ。婚約者がいる者は婚約者をエスコートして、もしくは婚約者にエスコートされて、出席する。
 いない者は今、互いに必死になってエスコートの相手を探しているはず。それでも見つからない場合は……。

「どうしよう……。それにまだ、卒パのことを言っていないの。だって、お仕事かもしれないでしょう?」
 ミレーヌは慌ててそう言った。

「早く言ったらいいんじゃない? 向こうだって待っているはずよ。騎士団だって、どうしてもっていう仕事以外だったら、卒パの方が優先されるらしいよ」

「そうなの?」 
 ルネの言葉に思わず確認してしまうミレーヌ。こういう情報はルネの方が詳しいのだ。

「卒パって、未来の魔導士と騎士の集まりだからね。陛下だって、出席されるでしょ」と、ルネは言う。

 それを聞いて、ミレーヌはエドガーに手紙を書こうと思った。
 それよりも、その話を聞いたら、目の前の二人のことが気になった。

「ルネとシャノンはどうするの? 誰か相手がいるの?」

「私? うふふ」とルネは不敵な笑みを浮かべる。それはもう、よくぞ聞いてくれました、的な。
「第五騎士隊のアムランさんって、知ってる?」

 第五騎士隊、それはミレーヌの兄が隊長で、ミレーヌが騎士見習いとして派遣された隊。アムランとは、兄の口からわりと名前が出てくる隊員。顔は思い出せないけど、名前は知っている。
「ええ、名前くらいなら。って、え? まさか、その方と?」

「その、まさか」

「え? なんで?」

「ミレーヌのお兄様からの紹介だよ」と、ルネは笑う。

「あの」
 と、そこでシャノンが口を挟んだ。
「あの、その、マーティン様は、婚約者様とかいらっしゃるのでしょうか」

「え? お兄様? 残念ながら、そう言った話は聞いていないのよね。なんでかしら?」
 ミレーヌは腕を組んで、首を傾けた。あんなに優しい兄なのに、今までもそう言った話が湧いて出てこないのが不思議だった。しかも、年も年だけに。

「あの。私からこんなことを言っては、はしたないと言うか。とてもおこがましいと言うか。できたら、マーティン様にエスコートをしていただきたい、と思っているとか……」

 小さい身体をよりいっそう縮こめて、シャノンが言う。もう、最後の方は聞き取れない。

「え? シャノン。お兄様のこと、もしかして、もしかしなくても、そういうこと?」

 ミレーヌの問いに、シャノンはゆっくりと頷いた。

 どうしよう。こんないい娘が、兄と結婚したら。と、ミレーヌは違うことを考えていた。
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