皇子の婚約者になりたくないので天の声に従いました

澤谷弥(さわたに わたる)

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婚約おめでとう(2)

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☆☆

 婚約の儀とはお互いの名前の交換から始まる。

「遅くなってごめんなさい」
 と、ミレーヌが団長室に入ると、父親とエドガーと、そしてミレーヌにとって見たことあるけど名前の知らない人、が座っていた。
 エドガーと名前の知らない人が並んで、父親の向かい側に座っている。

「ミレーヌ」と父親が愛する娘の名を呼び、おいでおいでと手を振るので、ミレーヌは父親の隣に座った。

「今日は何かあったのですか? お父様」

 ミレーヌの名前の知らない人、つまりロビーのことであるが、ロビーは彼女の姿を見て驚くしかなかった。

「だだだだだだ団長の、娘?」
 と、動揺も隠せない。

「はい?」
 とミレーヌは返事をする。そして小首を傾ける。何かおかしいことをしたであろうか。それとも、どこか恰好が変なのだろうか。いつもの騎士服なのだが。

「似てない」と小さくロビーが呟いたのを、エドガーはしっかりと聞いていた。

「ミレーヌ。本来であれば、こんな場所ではなくきちんとした場所でやるべきなんだが。仕事もたてこんで私もなかなか帰れず、申し訳ない。エドガーから婚約の申し込みがあったのだが、二人はそういう仲であると思ってよいのだな?」

 そういう仲ってどういう仲? ってミレーヌは思った。が、あのシャノンを助けた日の帰り道を思い出し、赤面する。

 シャノンを助けたあの日、マーティンは彼女に付き添っていた。

 そしてエドガーは衝撃的な事件を目にしただろう、ということでミレーヌを屋敷まで送ってくれたのだ。そして、もう少しで屋敷に着く、というところで。

「突然、こんなことを言うと驚かせるかもしれないが」と、鉄面皮が言った。
「結婚を前提に、私と付き合ってほしい」と――。

 という結果がコレか。婚約するのが手っ取り早いけど。
 そしてこういうときにかぎって、天の声は静か。

「はい」父親の確認にうつむきながら、ミレーヌは返事をした。もう、顔が火照ってしまい、まともにエドガーを見ることができない。

「では、婚約の儀をすすめよう。立会人、ロビー・ボード」
 あ、ロビーという名前だったのか、とミレーヌは思う。

 その後、エドガーとミレーヌの名前の交換の儀を終え、二人は正式に婚約者同士となった。
 このときの二人の髪が、お揃いの組紐で縛られていたことにロビーは気づいた。
 なんだ、なんだ、俺が心配する必要なかったじゃん、と。このときの立会人が思ったとか思っていないとか。

 ――おめでとう、ミレーヌ。
 ミレーヌには天の声が聞こえた。
 ありがとう、とその天の声に向かって、心の中でそっと呟いた。
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