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めんどくさい男(2)
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☆☆
さて、こちらはめんどくさい男ことエドガー。時間は少々遡る。
足早に去っていったミレーヌが気になって仕方ない。どのくらい気になるかというと、事務仕事に手がつかないくらい気になっている。
だから休憩という名目で、外に出てきた。一歩間違えればストーカー。いや、彼女とあまり会えていないし、会ったとしてもこの敷地内であり、挨拶を交わす程度だから、ストーカーにはならない、とエドガー自身は思っている。
エドガーが気になっている女性、いや好意を寄せているミレーヌは、中庭のベンチで他の人物と話をしたり、書き損じの紙を広げたりして、何かをやっているようだった。
エドガーが特に気になっているのは、ミレーヌと一緒にいるその他の人物だった。
一人はふわふわ髪の女の子。もう一人は? ミレーヌと同じ騎士服に身を包む、長身の、誰だ?
こんな遠くからでは顔もなんとなくしか見えない。ただ、見えたとしてもその相手で誰であるかがわかるのか、というのは別問題である。
というのも、エドガーだって自分の隊員すらすべての顔と名前が一致するわけではないということ。これがマーティンであったならば、すべてを把握している。エドガーだからだ。他人に興味を持たない彼だから。
だから、他の隊になればなおさらである。隊長はわかるけれど、副隊長は覚えていたか? という感覚。つまり、騎士見習いになると、まったくもってわからない。少なくとも、自分の隊に派遣された見習いではない、ということくらいしかわからない。見たこと無い顔、ということくらいしかわからない。
そのわからない騎士見習いが、ミレーヌに抱きついているのを、エドガーがしっかりと目撃してしまった。
めんどくさい男がめんどくさい状況を目撃してしまったら、めんどくさいことにしかならない。
エドガーは髪をまとめていた組紐をほどき、騎士服のポケットへとしまった。長い髪がハラリと広がった。事務仕事のときには「邪魔だから」という理由で長い髪を一つにまとめていたのだ。
どこか心が痛んだ。胸の奥あたりがチリリと音を立てて、小さな炎が燃えているような感覚だった。なぜこのような気持ちになるのかはわからない。
ただ、彼女が他の騎士に熱く抱擁されている姿を見たら、そう感じたのだ。
エドガーが使っていた組紐は、建国祭に誘ってもらったお礼に、とマーティン経由でミレーヌからもらったものだ。よく見ると、あのとき自分が彼女にプレゼントしたものと色違いのデザインであることに気付く。
マーティンは「ミレーヌが直接渡したがっていたのだが。なかなか会えないだろうからと、頼まれた。ミレーヌは非常に喜んでいた。私からも礼を言わせてもらいたい」と言っていた。
ちょっといいやつではないか、とマーティンのことを見直していたのに、エドガーがミレーヌを見かけて声をかけようとすると、ちょくちょく邪魔をしてくるのは何故だろう。
そして、エドガーはそんなミレーヌからもらった組紐を大事に使っていたのだが。
エドガーはくるりと向きをかえて、隊長室へと戻ることにした。事務仕事の続きでもやろうと思う。
さて、こちらはめんどくさい男ことエドガー。時間は少々遡る。
足早に去っていったミレーヌが気になって仕方ない。どのくらい気になるかというと、事務仕事に手がつかないくらい気になっている。
だから休憩という名目で、外に出てきた。一歩間違えればストーカー。いや、彼女とあまり会えていないし、会ったとしてもこの敷地内であり、挨拶を交わす程度だから、ストーカーにはならない、とエドガー自身は思っている。
エドガーが気になっている女性、いや好意を寄せているミレーヌは、中庭のベンチで他の人物と話をしたり、書き損じの紙を広げたりして、何かをやっているようだった。
エドガーが特に気になっているのは、ミレーヌと一緒にいるその他の人物だった。
一人はふわふわ髪の女の子。もう一人は? ミレーヌと同じ騎士服に身を包む、長身の、誰だ?
こんな遠くからでは顔もなんとなくしか見えない。ただ、見えたとしてもその相手で誰であるかがわかるのか、というのは別問題である。
というのも、エドガーだって自分の隊員すらすべての顔と名前が一致するわけではないということ。これがマーティンであったならば、すべてを把握している。エドガーだからだ。他人に興味を持たない彼だから。
だから、他の隊になればなおさらである。隊長はわかるけれど、副隊長は覚えていたか? という感覚。つまり、騎士見習いになると、まったくもってわからない。少なくとも、自分の隊に派遣された見習いではない、ということくらいしかわからない。見たこと無い顔、ということくらいしかわからない。
そのわからない騎士見習いが、ミレーヌに抱きついているのを、エドガーがしっかりと目撃してしまった。
めんどくさい男がめんどくさい状況を目撃してしまったら、めんどくさいことにしかならない。
エドガーは髪をまとめていた組紐をほどき、騎士服のポケットへとしまった。長い髪がハラリと広がった。事務仕事のときには「邪魔だから」という理由で長い髪を一つにまとめていたのだ。
どこか心が痛んだ。胸の奥あたりがチリリと音を立てて、小さな炎が燃えているような感覚だった。なぜこのような気持ちになるのかはわからない。
ただ、彼女が他の騎士に熱く抱擁されている姿を見たら、そう感じたのだ。
エドガーが使っていた組紐は、建国祭に誘ってもらったお礼に、とマーティン経由でミレーヌからもらったものだ。よく見ると、あのとき自分が彼女にプレゼントしたものと色違いのデザインであることに気付く。
マーティンは「ミレーヌが直接渡したがっていたのだが。なかなか会えないだろうからと、頼まれた。ミレーヌは非常に喜んでいた。私からも礼を言わせてもらいたい」と言っていた。
ちょっといいやつではないか、とマーティンのことを見直していたのに、エドガーがミレーヌを見かけて声をかけようとすると、ちょくちょく邪魔をしてくるのは何故だろう。
そして、エドガーはそんなミレーヌからもらった組紐を大事に使っていたのだが。
エドガーはくるりと向きをかえて、隊長室へと戻ることにした。事務仕事の続きでもやろうと思う。
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