16 / 30
男の集い(2)
しおりを挟む
一つのテーブルに、男四人が集まっている。マーティンとロビーが並んで座り、マーティンの向かいにカーニー、そしてその隣にアムラン。
「ロビーたいちょーは、本日、エドガーたいちょーとお会いになられましたかぁ」
ドンとテーブルの上に、空になったグラスを置いて、カーニーが言った。
「エドガー? 会ってないな」
右手で頬杖をつき、左手でつまみの乾いた豆をつまんでいるロビー。「どうかしたのか?」
その問いにカーニーが答える。
「エドガーたいちょーが、エドガーたいちょーが。女性と手をつないで歩いていましたぁ」
カーニーのその告白に、ロビーは機械的に動かしていた左手を止めた。豆が唇の手前で止まっている。
「マジで?」
「はい。私も見ました」
と今度はアムランが答え、グラスの中身を飲み干す。
「へー。あのエドガーがね」
とロビーは呟くもの、本当に誘いやがった、と心の中で笑っている。そして唇の手前で止めていた豆を口の中に放り込む。
「で、エドガーはどんな感じだったのよ?」とモグモグしながら尋ねる。
答えたのはカーニー。
「それは、もう。楽しそうに、笑いながら歩いていましたぁ。あれは、完全に二人の世界ですぅ」
そこでカーニーは、空になったグラスを店員に渡し、何かを頼む。
「笑ってた? あのエドガーが?」
「エドガー隊長の笑顔を見て、マーティン隊長は固まりましたからね」
へへへとアムランが笑う。
そういえば、先ほどからマーティンは静かだ。そんなに不気味な笑顔だったのだろうか。それとも。
「どうしたんだよ、マーティン。もしかして、親友を盗られていじけているのか?」
ロビーのその言葉に、親友だと? とマーティンは聞き返す。
「お前ら、親友だろ。なんだかんだ言いながら、仲いいよな」
「ロビーとエドガーほどではないが?」
「いんや。俺らよりお前たちの仲の方が怪しいね」
そこへ店員が来て、カーニーの手元にグラスを置いていく。
「たいちょー、何か飲まれますかぁ?」
とカーニーが聞くので、マーティンは同じものを、と答えた。
「いやぁ、本当に。エドガーたいちょーが連れていた女性が、可愛かったですうぅ」
そこでカーニーは勢いよくグラスの半分ほど飲み干す。
「せめて隊長が、ミレーヌ嬢を連れてきてくれれば、私たちもこんな思いをしなくて済んだのに」
と、アムランがうらめしそうにマーティンを見る。
「ミレーヌ?」
とロビーが聞き返すので、「隊長の妹ですよ」とアムランが答えた。
「やっぱり、マーティンに似ているのか?」
とロビーが言うものだから。
「可愛い我が妹は、私にそっくりだ」
とマーティンが言う。
そのマーティンの答えに、そっくりか? と思うカーニーとアムランだが、そう言われると似てなくもないような気がしてくるのが不思議だった。それはきっと、酒の魔力のせいだ。魔力のせいで思考力が低下し始めている。
「たいちょー、私にミレーヌ嬢をくださいっ」
カーニーがマーティンの腕をとって言う。
「お前にはやらん」
「たいちょーのこと、お義兄さんと呼びますからぁ」
「呼ばなくていい」
「いっそのこと」と口を挟んだのはアムラン。「私は隊長の弟になりたいです」
「お前みたいな弟はいらん」
「隊長、冷たいです。私たち、こんなに隊長のことを愛しているのに」
「さすがマーティン。お前、モテモテじゃん。なんでこんなにもてんのに、彼女の一人もいないわけ?」
ロビーが腹を抱えて、笑いながら言う。
「そうですよ、たいちょー。なんで結婚しないんですかぁ?」
「いや、隊長は結婚しないでください。この独身騎士の会の会長なんですから。我々の希望です」
「やっぱ、お前の部下、サイコーだわ」
とロビーは言いつつも、もしかしてマーティンが女性と縁が無いのは、こいつらのせいなのではないのか、とさえも思えてきた。
「あ、ロビー隊長。約束、忘れないでくださいよ」
「約束? なんの?」
「我々に、誰か紹介してくださいよ。本当にこの仕事してから、出会いがありません。社交界とか、そんな場合じゃないですもん」
右腕を目の前にかざして泣き真似をするアムラン。
「君たちさー。マーティンには結婚するなとか言っといて、自分たちはちゃっかり結婚しようとか思ってるわけ?」
「それはそれ、これはこれ。隊長は我々の憧れです。孤高の騎士なのです」
勝手な理想像を押し付けられてしまったマーティン。そんな彼にちょっと同情する。それでもちょっと、ロビーは彼をうらやましいと思う。
自分の弟になりたいと言ってくれる部下は、自分にはいるだろうか。
隣に視線をやると、マーティンは何か考え事をしているのか、規則的に豆を食べていた。
「ロビーたいちょーは、本日、エドガーたいちょーとお会いになられましたかぁ」
ドンとテーブルの上に、空になったグラスを置いて、カーニーが言った。
「エドガー? 会ってないな」
右手で頬杖をつき、左手でつまみの乾いた豆をつまんでいるロビー。「どうかしたのか?」
その問いにカーニーが答える。
「エドガーたいちょーが、エドガーたいちょーが。女性と手をつないで歩いていましたぁ」
カーニーのその告白に、ロビーは機械的に動かしていた左手を止めた。豆が唇の手前で止まっている。
「マジで?」
「はい。私も見ました」
と今度はアムランが答え、グラスの中身を飲み干す。
「へー。あのエドガーがね」
とロビーは呟くもの、本当に誘いやがった、と心の中で笑っている。そして唇の手前で止めていた豆を口の中に放り込む。
「で、エドガーはどんな感じだったのよ?」とモグモグしながら尋ねる。
答えたのはカーニー。
「それは、もう。楽しそうに、笑いながら歩いていましたぁ。あれは、完全に二人の世界ですぅ」
そこでカーニーは、空になったグラスを店員に渡し、何かを頼む。
「笑ってた? あのエドガーが?」
「エドガー隊長の笑顔を見て、マーティン隊長は固まりましたからね」
へへへとアムランが笑う。
そういえば、先ほどからマーティンは静かだ。そんなに不気味な笑顔だったのだろうか。それとも。
「どうしたんだよ、マーティン。もしかして、親友を盗られていじけているのか?」
ロビーのその言葉に、親友だと? とマーティンは聞き返す。
「お前ら、親友だろ。なんだかんだ言いながら、仲いいよな」
「ロビーとエドガーほどではないが?」
「いんや。俺らよりお前たちの仲の方が怪しいね」
そこへ店員が来て、カーニーの手元にグラスを置いていく。
「たいちょー、何か飲まれますかぁ?」
とカーニーが聞くので、マーティンは同じものを、と答えた。
「いやぁ、本当に。エドガーたいちょーが連れていた女性が、可愛かったですうぅ」
そこでカーニーは勢いよくグラスの半分ほど飲み干す。
「せめて隊長が、ミレーヌ嬢を連れてきてくれれば、私たちもこんな思いをしなくて済んだのに」
と、アムランがうらめしそうにマーティンを見る。
「ミレーヌ?」
とロビーが聞き返すので、「隊長の妹ですよ」とアムランが答えた。
「やっぱり、マーティンに似ているのか?」
とロビーが言うものだから。
「可愛い我が妹は、私にそっくりだ」
とマーティンが言う。
そのマーティンの答えに、そっくりか? と思うカーニーとアムランだが、そう言われると似てなくもないような気がしてくるのが不思議だった。それはきっと、酒の魔力のせいだ。魔力のせいで思考力が低下し始めている。
「たいちょー、私にミレーヌ嬢をくださいっ」
カーニーがマーティンの腕をとって言う。
「お前にはやらん」
「たいちょーのこと、お義兄さんと呼びますからぁ」
「呼ばなくていい」
「いっそのこと」と口を挟んだのはアムラン。「私は隊長の弟になりたいです」
「お前みたいな弟はいらん」
「隊長、冷たいです。私たち、こんなに隊長のことを愛しているのに」
「さすがマーティン。お前、モテモテじゃん。なんでこんなにもてんのに、彼女の一人もいないわけ?」
ロビーが腹を抱えて、笑いながら言う。
「そうですよ、たいちょー。なんで結婚しないんですかぁ?」
「いや、隊長は結婚しないでください。この独身騎士の会の会長なんですから。我々の希望です」
「やっぱ、お前の部下、サイコーだわ」
とロビーは言いつつも、もしかしてマーティンが女性と縁が無いのは、こいつらのせいなのではないのか、とさえも思えてきた。
「あ、ロビー隊長。約束、忘れないでくださいよ」
「約束? なんの?」
「我々に、誰か紹介してくださいよ。本当にこの仕事してから、出会いがありません。社交界とか、そんな場合じゃないですもん」
右腕を目の前にかざして泣き真似をするアムラン。
「君たちさー。マーティンには結婚するなとか言っといて、自分たちはちゃっかり結婚しようとか思ってるわけ?」
「それはそれ、これはこれ。隊長は我々の憧れです。孤高の騎士なのです」
勝手な理想像を押し付けられてしまったマーティン。そんな彼にちょっと同情する。それでもちょっと、ロビーは彼をうらやましいと思う。
自分の弟になりたいと言ってくれる部下は、自分にはいるだろうか。
隣に視線をやると、マーティンは何か考え事をしているのか、規則的に豆を食べていた。
49
お気に入りに追加
1,657
あなたにおすすめの小説
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。
王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。
貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。
だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。
婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。
風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。
※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる