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それができたのは、ほんの偶然だった――。
クラウスが工場の片づけを行い、残った茶葉や薬草を臣下と共に袋に詰め、手の空いている者にごみ置き場へ持っていくように、と依頼したのがきっかけだ。
袋にぎゅうぎゅうに詰められた薬草の残骸は、想定していたよりも重かった。だから、騎士団に所属している若手に声をかけた。
彼らは一度に袋を二つも運ぶことができる。となれば、数人で全ての袋を持っていくことができる。このごみは、茶葉や薬草の残りということから、畑の堆肥にすることを庭師が考えているようだった。
『悪いが、それはごみ置き場ではなく、こちらに持ってきてくれ』
庭師長が、袋を手にした騎士に指示を出す。堆肥にすることから、庭の端に大きな穴が掘ってあった。騎士たちは袋を開け、その穴に袋の中身をぶちまける。
独特の腐った臭いが、周囲にもわんと立ち込めた。
『うぅっ……』
一人の騎士が、その場で地面に膝をついた。このような臭いで倒れるなどもってのほかだと、他の騎士は口にする。
だが、膝をついた騎士の様子はおかしい。目が意思を失ったかのようにトロンと半開きになっている。口もだらしなく開き、野犬のように唸り始めていた。
『おい。どうしたんだ』
数人の騎士によって、彼は取り押さえられた。その場で異変をきたしたのは彼だけだった。
すぐに『王宮医療魔術師』と『王宮調薬師』が呼ばれ、彼の診察にあたる。
『どうやら、彼はベロテニアの血を引く者だったようですね』
医療魔術師の男がそう口にすれば、クラウスは眉間にしわを寄せた。
『ベロテニアだから、どうしたというのだ?』
『ベロテニアは、遥か昔に獣人が建国した国と言われております。つまり、彼らは獣人の血を引く者たちであり、少し我々と異なった特徴を持つわけです』
そう言われると、そのようなことを学んだような気がしてくるクラウスであるが、それが今回の件と何の繋がりがあるのかまではわからない。
医療魔術師は隣にいた調薬師の男に目配せをする。
『今回、暴れた男ですが。どうやらあの工場で使用されていた薬草の一部に過剰に反応したようです』
『薬草だと? あの工場で使っていた薬草は、一般的な薬草だったはず』
クラウスは、ファンヌがそう口にしていたことを思い出した。
薬草や調薬された薬には、『違法薬草』『違法薬』と呼ばれるものもある。これらを摂取した者は、気分が高揚し多幸感を味わうことができると言われている。そういった薬草や薬も一部の『調薬師』の研究対象にはなっているが、扱いは厳重に管理されているはずだ。
『ええ。あの工場にあった薬草に違法薬草はありませんでした。ですが、長期間放置されたことによって、どうやら薬草の効果が変化したようです』
『変化だと?』
クラウスの言葉に、調薬師の男は頷く。
『もう少し詳しく調べる必要はありますが。彼はその薬草のに匂いによって、自我を忘れたようです。つまり一般的な薬草であっても、獣人の血を引く者にとっては違法薬草と同じような効果が得られるものがある。そういった薬草がありそうなのです』
ふぅん、と腕を組みながらクラウスは話を聞いていた。クラウスにとっては薬草も薬も大して興味はないもの。とにかくあの工場で何かを始めて利益を出さなければ、また父親である国王から怒られる。
その考えしかクラウスの頭にはなかった。
クラウスが工場の片づけを行い、残った茶葉や薬草を臣下と共に袋に詰め、手の空いている者にごみ置き場へ持っていくように、と依頼したのがきっかけだ。
袋にぎゅうぎゅうに詰められた薬草の残骸は、想定していたよりも重かった。だから、騎士団に所属している若手に声をかけた。
彼らは一度に袋を二つも運ぶことができる。となれば、数人で全ての袋を持っていくことができる。このごみは、茶葉や薬草の残りということから、畑の堆肥にすることを庭師が考えているようだった。
『悪いが、それはごみ置き場ではなく、こちらに持ってきてくれ』
庭師長が、袋を手にした騎士に指示を出す。堆肥にすることから、庭の端に大きな穴が掘ってあった。騎士たちは袋を開け、その穴に袋の中身をぶちまける。
独特の腐った臭いが、周囲にもわんと立ち込めた。
『うぅっ……』
一人の騎士が、その場で地面に膝をついた。このような臭いで倒れるなどもってのほかだと、他の騎士は口にする。
だが、膝をついた騎士の様子はおかしい。目が意思を失ったかのようにトロンと半開きになっている。口もだらしなく開き、野犬のように唸り始めていた。
『おい。どうしたんだ』
数人の騎士によって、彼は取り押さえられた。その場で異変をきたしたのは彼だけだった。
すぐに『王宮医療魔術師』と『王宮調薬師』が呼ばれ、彼の診察にあたる。
『どうやら、彼はベロテニアの血を引く者だったようですね』
医療魔術師の男がそう口にすれば、クラウスは眉間にしわを寄せた。
『ベロテニアだから、どうしたというのだ?』
『ベロテニアは、遥か昔に獣人が建国した国と言われております。つまり、彼らは獣人の血を引く者たちであり、少し我々と異なった特徴を持つわけです』
そう言われると、そのようなことを学んだような気がしてくるクラウスであるが、それが今回の件と何の繋がりがあるのかまではわからない。
医療魔術師は隣にいた調薬師の男に目配せをする。
『今回、暴れた男ですが。どうやらあの工場で使用されていた薬草の一部に過剰に反応したようです』
『薬草だと? あの工場で使っていた薬草は、一般的な薬草だったはず』
クラウスは、ファンヌがそう口にしていたことを思い出した。
薬草や調薬された薬には、『違法薬草』『違法薬』と呼ばれるものもある。これらを摂取した者は、気分が高揚し多幸感を味わうことができると言われている。そういった薬草や薬も一部の『調薬師』の研究対象にはなっているが、扱いは厳重に管理されているはずだ。
『ええ。あの工場にあった薬草に違法薬草はありませんでした。ですが、長期間放置されたことによって、どうやら薬草の効果が変化したようです』
『変化だと?』
クラウスの言葉に、調薬師の男は頷く。
『もう少し詳しく調べる必要はありますが。彼はその薬草のに匂いによって、自我を忘れたようです。つまり一般的な薬草であっても、獣人の血を引く者にとっては違法薬草と同じような効果が得られるものがある。そういった薬草がありそうなのです』
ふぅん、と腕を組みながらクラウスは話を聞いていた。クラウスにとっては薬草も薬も大して興味はないもの。とにかくあの工場で何かを始めて利益を出さなければ、また父親である国王から怒られる。
その考えしかクラウスの頭にはなかった。
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