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◇◆◇◆
ファンヌがベロテニアに来てから、とっくに一か月が過ぎていた。その間、オスモの仕事の手伝いをしつつ、それが終われば新しい『調茶』に挑戦するという彼女にとっては、夢にまで見ていた生活を送っていた。
ここに来てからファンヌが挑戦していたのは、そばかすに悩んでいるサシャのためにそばかすを薄くするためのお茶を作り出すこと。サシャは他の人と比べて肌の色が白い。それに洗濯や買い出しなどで外に出ることも多い。そういった彼女の話を聞いたファンヌは、完全に治すことは難しいが、目立たなくなる方法のお茶を考えていた。
茶葉は王宮管理の茶葉園から分けてもらっていた。また、たまにエルランドと共にウロバトの街に行き、露店で茶葉を買うこともあった。
エルランドはベロテニアの第三王子という立場でありながらも、わりと自由にしているようにファンヌには見えた。
そもそも彼が王宮ではなく、離れで暮らしているのはメルタネン侯爵の爵位を与えられたからという話だ。彼の出した論文によってその功績が認められたことも理由の一つでもあるらしい。
さらにキュロというのは、彼の母親の方の姓であり、論文を発表するときには身分を隠すためにそちらを使用しているとのこと。身分を隠すといってもベロテニア王国内では周知の事実であるため、リヴァスの者に知られないようにという理由が大きい。
とにかく、エルランドはベロテニアの第三王子でありながらも、研究者で調薬師という顔を持っているため、いろいろと複雑なようだ。
そしてファンヌは、オスモの好意で調薬室のある建物の一室を研究室として与えられていた。これもエルランドがベロテニアに戻ってくる前に、オスモに共同研究者を連れていくと伝えていたことが原因だ。だが、オスモは彼の言う共同研究者が男子学生であると思っていたようだ。
そんなファンヌの部屋はエルランドの隣の部屋であるにも関わらず、なぜか自室にいるよりも彼の部屋にいる方が多かった。
「う~ん」
と唸っている今も、エルランドの研究室にいる。
「どうかしたのか?」
何やら文章を書いていたエルランドが、顔をあげた。
「やはり。こちらの茶葉ではうまくいかないようなのです。どうしてもこちらは気候が涼しくて、そちらに強い茶葉が多いですよね」
「そうだな。本来であれば、リヴァス王国のような温暖な場所で栽培されるのが一般的だ。こちらは、雪も降るくらい寒くなるからな。そのため茶葉が硬くなるし、白茶も多い」
「そのお茶も味があって好きなのですが。ただ、調茶との相性が悪くて……」
「なるほど」
「露店で並んでいる茶葉は、いろんな国の物を扱っているので、そちらから手に入れればいいのですが。やはり量が足りません」
ファンヌは腕を組んで唸った。やはり茶葉はリヴァス王国産のものが欲しい。
エルランドは自席から立ち上がると、ファンヌが座っていたソファの方に移動してきた。そして彼女の隣に座る。
「ファンヌが『調茶』したお茶だが。師匠に聞いてもやはり評判がいい。できればもっと多くの量を作り、他の者にも与えたいと師匠が言ってた」
「となれば、やはり茶葉の量が圧倒的に足りませんし、これ以上の量産となれば、私一人では無理です。リヴァスのように『製茶』専門の工場を持たないと。ですが、『製茶』って結構大変なんですよ。立ち仕事ですし」
ああ、とエルランドは大きく頷く。
「『製茶』が大変であることは知っている。君が、彼らを労わっていたことも。だが、ここはリヴァスではなくベロテニアだ。ベロテニアの人間は、獣人の血を引いているからな。それが薄くなったとしても、ゼロになったわけじゃない。リヴァスの者に比べて体力はある」
「つまり、ベロテニアの人たちなら、『製茶』の作業に向いているということですか?」
「そうかもしれない」
エルランドの話を聞いたファンヌは、やはり唸った。
ファンヌがベロテニアに来てから、とっくに一か月が過ぎていた。その間、オスモの仕事の手伝いをしつつ、それが終われば新しい『調茶』に挑戦するという彼女にとっては、夢にまで見ていた生活を送っていた。
ここに来てからファンヌが挑戦していたのは、そばかすに悩んでいるサシャのためにそばかすを薄くするためのお茶を作り出すこと。サシャは他の人と比べて肌の色が白い。それに洗濯や買い出しなどで外に出ることも多い。そういった彼女の話を聞いたファンヌは、完全に治すことは難しいが、目立たなくなる方法のお茶を考えていた。
茶葉は王宮管理の茶葉園から分けてもらっていた。また、たまにエルランドと共にウロバトの街に行き、露店で茶葉を買うこともあった。
エルランドはベロテニアの第三王子という立場でありながらも、わりと自由にしているようにファンヌには見えた。
そもそも彼が王宮ではなく、離れで暮らしているのはメルタネン侯爵の爵位を与えられたからという話だ。彼の出した論文によってその功績が認められたことも理由の一つでもあるらしい。
さらにキュロというのは、彼の母親の方の姓であり、論文を発表するときには身分を隠すためにそちらを使用しているとのこと。身分を隠すといってもベロテニア王国内では周知の事実であるため、リヴァスの者に知られないようにという理由が大きい。
とにかく、エルランドはベロテニアの第三王子でありながらも、研究者で調薬師という顔を持っているため、いろいろと複雑なようだ。
そしてファンヌは、オスモの好意で調薬室のある建物の一室を研究室として与えられていた。これもエルランドがベロテニアに戻ってくる前に、オスモに共同研究者を連れていくと伝えていたことが原因だ。だが、オスモは彼の言う共同研究者が男子学生であると思っていたようだ。
そんなファンヌの部屋はエルランドの隣の部屋であるにも関わらず、なぜか自室にいるよりも彼の部屋にいる方が多かった。
「う~ん」
と唸っている今も、エルランドの研究室にいる。
「どうかしたのか?」
何やら文章を書いていたエルランドが、顔をあげた。
「やはり。こちらの茶葉ではうまくいかないようなのです。どうしてもこちらは気候が涼しくて、そちらに強い茶葉が多いですよね」
「そうだな。本来であれば、リヴァス王国のような温暖な場所で栽培されるのが一般的だ。こちらは、雪も降るくらい寒くなるからな。そのため茶葉が硬くなるし、白茶も多い」
「そのお茶も味があって好きなのですが。ただ、調茶との相性が悪くて……」
「なるほど」
「露店で並んでいる茶葉は、いろんな国の物を扱っているので、そちらから手に入れればいいのですが。やはり量が足りません」
ファンヌは腕を組んで唸った。やはり茶葉はリヴァス王国産のものが欲しい。
エルランドは自席から立ち上がると、ファンヌが座っていたソファの方に移動してきた。そして彼女の隣に座る。
「ファンヌが『調茶』したお茶だが。師匠に聞いてもやはり評判がいい。できればもっと多くの量を作り、他の者にも与えたいと師匠が言ってた」
「となれば、やはり茶葉の量が圧倒的に足りませんし、これ以上の量産となれば、私一人では無理です。リヴァスのように『製茶』専門の工場を持たないと。ですが、『製茶』って結構大変なんですよ。立ち仕事ですし」
ああ、とエルランドは大きく頷く。
「『製茶』が大変であることは知っている。君が、彼らを労わっていたことも。だが、ここはリヴァスではなくベロテニアだ。ベロテニアの人間は、獣人の血を引いているからな。それが薄くなったとしても、ゼロになったわけじゃない。リヴァスの者に比べて体力はある」
「つまり、ベロテニアの人たちなら、『製茶』の作業に向いているということですか?」
「そうかもしれない」
エルランドの話を聞いたファンヌは、やはり唸った。
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