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 その後、屋敷を出て他の場所へと向かうのだが、どうやらその先にエルランドの家族が住んでいるらしい。
 だが、その先が近づくにつれ、ファンヌの顔は曇り始める。
「先生」
 半歩前を歩くエルランドを呼んだ。
「なんだ」
 彼は歩調を緩め、ファンヌの隣に並ぶ。
「この先に見えるのは、王宮なのですが」
 Lの字の建物の外壁はキャラメル色。東側には尖塔が建っている。どうやら礼拝堂になっているらしい。またLの角の部分は物見の塔となっており、他よりも一際高く黒い屋根が目立っていた。
「ああ。両親はそこにいる」
「え」
 ファンヌは思わず立ち止まってしまった。だからエルランドも「どうした?」と立ち止まる。
「先生……。質問です」
 ファンヌは右手を胸の高さまで上げた。質問があるときは手をあげましょう、という学校の教えが身体に沁みついているためだ。
「なんだ?」
「先生のご両親は、一体、何をされている方なのでしょうか」
「そうだな……。この国の代表という表現がしっくりくるだろうか」
 王宮にいるこの国の代表。即ち。
「もしかして、ベロテニア王国の国王とか、そんなオチではないですよね……」
「さすがファンヌだな。オレの父親はそう呼ばれている。ほら、皆が待っているからさっさと行くぞ」
 エルランドはファンヌの右手首を掴むと、彼女を引きずるようにして歩き出した。ファンヌは驚いて足元がおぼつかない。
 それでもなんとか王宮の中に入り、いつの間にか応接室にまで案内されていた。ファンヌにはここまでどうやってきたのかの記憶が無い。気が付いたら、ここにいた。そして目の前には、エルランドの両親と思われるベロテニア王国の国王と王妃、その脇に角度を変えて王太子と第二王子が座っている。
「ご無沙汰しております、父上、母上」
 あのエルランドの口調とは思えない程、穏やかな声。ファンヌはぎょっとしてエルランドに顔を向けるが、その表情はいつもの彼だった。
「ああ、お帰り。エルランド。後でオスモのところにも顔を出してやれ。お前が戻ってくると話をしたら、喜んでいたぞ」
「はい……。早速ですが、彼女を紹介しても?」
 エルランドの言葉に、そこにいる全員が身を乗り出してきたように見えた。
「彼女は、ファンヌ・オグレン。私の共同研究者兼教え子です」
 エルランドの言葉に合わせて、ファンヌも深く頭を下げた。
「それだけ、か?」
 目の前の国王が驚いたように、目を丸くしていた。やはりエルランドと親子ということがよくわかる。丸くした目はエルランドと同じ碧眼であり、後ろに撫でつけた髪は黒い。ところどころ白いものが混じっているようにも見えるが、それがいい意味でのアクセントになっている。
「はい……」
「エル……。あなた、きちんと彼女には伝えたのかしら?」
 透き通るような凛とした声の主は、王妃だ。茶色の髪はすっきりと結い上げられ、アイスグリーンの瞳はじっとエルランドを見つめている。だが、肝心のエルランドはその視線から逃れようと、必死に視線を逸らしていた。
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