上 下
17 / 22

団長(3)*

しおりを挟む
 気がつけば、自身のベッドの柱に両手両足を拘束されていた。

 心配そうにこちらの顔を覗き込むミロの顔が見えたような気がした。だが、すぐに気を失い、また目が覚める。誰もいない。そして、意識を奪われる。それの繰り返しだった。
 これは間違いなく魔物の体液による作用である。そのような文献を読んだことがあったため、すぐにわかった。魔物の腕を切り落としたときに飛び散った体液が、目や鼻からニールの体内に取り込まれたのだ。

 なんとか目が覚め、自我を保てた時にミロに伝える。

「魔導全集第四巻、魔物の章の第十三項」

 ミロはそれだけですべてを理解したはずだ。彼は若いが、非常に優秀な魔導士である。だからニールが側においている。

 すべてを彼に託すと、ほっと安堵に包まれ、意識を手放した。

 彼は聖女を連れてくるだろうか。ニールを助けられるのは聖女アズサしかいない。あとはアズサが引き受けてくれるかどうかだ。

 それが問題でもある。

 彼女に断られたら、ニールは確実に死ぬ。
 それはそれでよいのかもしれない。聖女に命を握られ、彼女によって生死を左右される。なんて刺激的な人生なのだろうか。

 ゆらゆらとする意識の中をさ迷い、自分の人生を見直していた。走馬灯とは違うような、過去に遡っていく感じだった。

『アンヒム団長、苦しそうですね』

 アズサの声が聞こえる。幻聴だろうか。そろそろ死期が近いのか。
 ぼんやりとする頭を軽く振る。

『アンヒム団長、私は団長を助けたいだけなのです』

 最期になんて素敵な夢をみているのだろうか。
 だが、それは夢ではなかった。

 アズサがニールを助けるために身体を差し出してくれたのだ。





「んっ」

 腕の中の彼女が身じろいだ。彼女の白い肌にはところどころ鬱血痕が散っている。もちろん、それを残したのはニールである。

「起きたのか?」
「ん? あっ」

 ぱっと目を開けた彼女は、驚いたように頬を赤く染め始めた。何か言いたそうに口をもごもごと動かすが、言葉は出てこない。

「なぁ、いいか?」

 ニールは、熱くなっている芯を彼女に押し付けた。二人とも身体には何も身に着けておらず、こうやってシーツにくるまっている。

「朝から?」
「朝からじゃなかったらいいのか?」

 ニールの言葉に、アズサは頬を赤く染めたまま「そうね」と呟く。

「そうか。なら、いいんだな」

 まだ寝ぼけている彼女を組み敷く。
「な、ちょ。ちょっと」
「朝からじゃなかったら、いいんだろ? もう、昼過ぎだ」
「は?」

 信じられない、とでも言うかのように、彼女は大きく目を見開いた。

「昼過ぎ? 朝じゃなくて?」

 やはり彼女はニールの言葉が信じられないようだ。

「こんなところで嘘をついてどうする」
「あなたのことだから、そうやって私のことを誤魔化そうとしているのかなって」
「残念ながら、昼過ぎだな」

 ニールはベッドを覆うカーテンを開けた。カーテンの向こう側に見える窓にはレースのカーテンが引かれ、眩しい太陽の光を透かしている。
 その光の入り込み具合を考えれば、朝ではなく昼過ぎ、つまり太陽が昇って真上を通り過ぎてしまったのがよくわかる。

「魔導士団長が、こんな堕落した生活を送ってもいいわけ?」

 シーツを胸元にまで手繰り寄せ、アズサは身体を起こした。

「問題ない。それに、これは堕落ではない。俺の魔力を高めるために必要な行為だ。いや、俺を助けるためと言えば、周囲も納得するだろう」
「それって、ただヤりたいだけに聞こえるんだけど」
「ああ、ヤりたいに決まっているだろう? やっと好きな女を手に入れたんだ」

 ニールが真剣な眼差しで訴えると、呆れたような声が聞こえてくる。

「だから童貞っていやなのよ。めんどくさい」
「そうだな。お前には俺の初めてを奪った責任を取ってもらわねばならないな」
「こんな風に?」

 にたりと笑ったアズサは、膝を立ててニールの硬くなったものをグリグリと刺激してきた。

「くっ」

 予想しなかった行為に、ニールは苦悶の声を漏らす。

「素敵な鳴き声ね」

 アズサの手がニールの逸物に伸びた。

「あぁ……。硬い。こうやって、握って動かしたら、どうなるのかしら?」
「うっ、くぅ」

 ニールが歯をぎりぎりと噛み締める。
 だが、ニールも負けていられない。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です

花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。 けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。 そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。 醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。 多分短い話になると思われます。 サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。

【R18】人気AV嬢だった私は乙ゲーのヒロインに転生したので、攻略キャラを全員美味しくいただくことにしました♪

奏音 美都
恋愛
「レイラちゃん、おつかれさまぁ。今日もよかったよ」 「おつかれさまでーす。シャワー浴びますね」 AV女優の私は、仕事を終えてシャワーを浴びてたんだけど、石鹸に滑って転んで頭を打って失神し……なぜか、乙女ゲームの世界に転生してた。 そこで、可愛くて美味しそうなDKたちに出会うんだけど、この乙ゲーって全対象年齢なのよね。 でも、誘惑に抗えるわけないでしょっ! 全員美味しくいただいちゃいまーす。

泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。

待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。

責任を取らなくていいので溺愛しないでください

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
漆黒騎士団の女騎士であるシャンテルは任務の途中で一人の男にまんまと美味しくいただかれてしまった。どうやらその男は以前から彼女を狙っていたらしい。 だが任務のため、そんなことにはお構いなしのシャンテル。むしろ邪魔。その男から逃げながら任務をこなす日々。だが、その男の正体に気づいたとき――。 ※2023.6.14:アルファポリスノーチェブックスより書籍化されました。 ※ノーチェ作品の何かをレンタルしますと特別番外編(鍵付き)がお読みいただけます。

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

処理中です...