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団長(1)

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 彼女の名は、アズサ・タキグチ。聖女と呼ばれる女性である。
 彼女は別世界から召喚された聖女だ。

 この世界には魔物と呼ばれる異形が存在している。魔物は、人々の生活をおびやかす存在でもある。そのため、定期的に王国騎士団や魔導士団が、魔物討伐に向かっていた。

 もちろん、討伐に向かった者たちに怪我がないことにこしたことはない。だが、相手は魔物である。空を飛び、火を噴き、氷の球を投げつけ、風を起こし、牙を剥き、爪を振り上げる魔物である。

 騎士団や魔導士団の人間たちの中には、家族や愛する者の生活を守るために死を覚悟して魔物討伐に向かう者もいるのだ。

 そして聖女とは、魔物討伐で負傷した者たちを癒してくれる尊い存在である。

 困ったことに、魔導士であっても怪我を治す治癒魔法は使えない。魔導士ができるのは、怪我の治りがよくなる薬を調合することだけである。

 残念ながら、治癒魔法は聖女しか使えない。だから、聖女に頼るしかない。

 聖女召喚と呼ばれる儀式を行ったのもそれが原因だった。とにかく、癒しの力が欲しい。
 聖女召喚の儀と一言で簡単にいうが、行うのはそれなりに大変である。
 強い魔力を備える魔導士が十人で儀式を行う。儀式の前には、魔力を込めて魔方陣を組み立てなければならない。

 多くの関係者という名の野次馬に見守れ、ニールの指揮のもと聖女召喚の儀は行われた。

 魔方陣の中心に生まれる光。それは次第に広がり大きくなって、弾けた。眩しさのあまり目を閉じる。瞼の裏にも閃光が走ったような感じがし、なかなか目を開けられない。鋭い光によって、目に刺すような痛みも走った。
 ざわめきが少ないのは、他の者達も同じように目を閉じているからだろう。

 人の息遣いが聞こえる。

『え? なに? ここ、どこ?』

 女性の声が聞こえた。だが、目が痛くて開けられない。気持ちだけがはやる。

『ちょっと、何よ、ここ。あなたたち、誰?』

 聞いたことのない声だ。王妃でも王女でも、まして魔導士団に所属する女性魔導士の声とも違う。

 目の奥の痛みが引いてすぐに、ニールはそろりと目を開けた。

 魔方陣の中央に、不思議な服を着ている女性が座り込んでいる。
 黒い髪が大広間の中央に輝くシャンデリアの光を反射させて艶やかに見えた。ゾクゾクと背筋に興奮が走る。

『聖女さま』

 ニールは思わずそう声をかけていた。

『我々の問い掛けにお応えいただき、感謝いたします』
『は?』

 座ったまま、彼女はニールを見上げている。明るい茶色の瞳が、ニールの心をくすぐる。

『ここ、どこ? 聖女って何? っていうか、あんた誰?』
『それらの全ての質問にお答えいたしますが、この場よりも、もう少し居心地のよい場所のほうがいいのではないでしょうか?』

 ニールはゆっくりと彼女に近づくが、彼女は睨みつけたままその場から動かない。

『聖女さま、お手を』
『聖女? 聖女って、流行りのアニメ? は?』

 彼女はニールが差し出した手を、鋭く見つめたままだ。

『俺の名はニール・アンヒム。魔導士団の団長を務めている』
『え? 魔導士?』

 目が合った。その目から目が離せない。まるで、吸い込まれるかのように魅入ってしまう。

『まぁ、いいわ』

 彼女がニールの手に触れた。

『ここは人の目が気になるもの。見世物になった気分』
『それは失礼しました。向こうに部屋を準備してありますので、案内しましょう』

 それが、ニールとアズサの出会いであった。

 アズサは、最初は信じられないと躊躇いつつも、すぐにこちらの話を理解してくれた。
 理解力があるのは助かるが、彼女は自身を顧みないほど聖女としての任務に力を注いでいた。

『聖女様、あなたは学習能力がないのですか?』

 アズサが治癒魔法を使いすぎて倒れたことは、一度や二度ではない。魔物討伐から戻ってきた騎士や魔導士に治癒魔法をかけまくっているからだ。

 その姿を見るたびに、ニールには苛立ちが募る。
 慣れとは恐ろしいもので、あれだけ丁寧に接していた聖女であっても、人の言うことをきかないような娘であれば、ニールの態度も次第に厳しくなる。

『あれくらいの怪我であれば、治療薬で十分だ。何もお前がわざわざ治癒魔法をかけるまでもないだろ』

 何度注意しても、アズサはニールの言うことを聞かない。

『私は一晩寝れば回復するもの。でも、怪我をした人たちはそうはいかないでしょう? 回復魔法をかけなければ、何日も不自由な思いをするの』
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