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生真面目夫の場合(5)

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 ひたっと左側に触れる何かがある。
 失いかけた意識が、戻ってくる。

(なんだ……)

 顔だけ動かして、触れた何かを確認する。

(なぜ、なぜだ……。どうしてここに彼女がいる……)

 ひたりとくっついていたのは、オリビアだった。背中を丸めて、眠っている姿は子猫のように見えなくもない。そしてその寝顔がクラークの目の前にあるのだ。

 薄闇でもはっきりと認識できてしまうほど、顔が近い。
 そして、微かに香る彼女の匂い。

(どうしてだ。なぜだ。彼女は向こう側で眠っていたはずではなかったのか)

 大人が三人から四人ほど眠ることができる大きなベッドである。結婚した当初からこのベッドを二人で使ってはいたが、お互いに端と端に寄って眠っていた。

(ま、まさか……。向こう側から転がってきたのか? 寝相が、悪くなったのか?)

 半年ほど不在にしていたから、よくわからない。だが、クラークが寝ようとしたときにオリビアは向こう側で横になっていた。

(あぁ……、いい匂いだ。それに、あったかい)

 触れているところから、彼女の体温を感じる。以前にもこのようなことがあったことを思い出す。ということは、やはり彼女は寝相が悪いのだ。

(もう少し、彼女を見つめてもいいだろうか)

 仰向けになっていたクラークは、ゆっくりと身体の向きをかえた。

(寝てる……。可愛い……)

 とにかく可愛い、その一言につきる。むしろその言葉しか出てこない。

「むぅ……」
 何やら寝言を口にした彼女は、もぞりと動く。

「うっ」
 クラークは思わず呻き声を漏らした。こちらは寝言などではない。

(な、なんだ……。これは。わざと、ではないのか? 事故なのか? 事件なのか?)

 もぞりと動いたオリビアの膝が、クラークの下腹部に触れている。

(いやいやいや、ちょっと待て。なぜこんなに狙ってここを……。とにかく、体勢をかえねば)

 クラークは彼女の魅惑の領域から逃げ出したかった。彼が少し動こうとすると、オリビアも「ん」と声をこぼして、もそっと動く。そしてまた、彼を刺激する。

(まずい。オリビアが起きてしまう。この状況で起きられてしまったら……。俺が襲っているように見える、かもしれない……)

 彼女を起こさないようにと、ゆっくりと身体の向きを元に戻す。できることならば、寝ている位置も彼女と入れ替わりたいくらいである。
 そうしないと、クラークの下腹部がもたない。すでに、ドクドクと熱を溜め始めているのだ。

(こ、これは……。眠れないかもしれない……。一度、抜いた方がいいな)

 これから彼女と離縁の手続きをするのだ。それがわかっていながら、己の欲のために彼女を抱くことなど、許されるわけはない。

 それに、遠征先などで昂ることも多々あるし、それは彼だけではなく、他の仲間も同じであった。
 プロに頼る者もいたし、自身でという者もいた。
 形だけの結婚であることはわかっているが、オリビアという妻がいる身で、団長という肩書がある以上、下手にプロに頼ることはしなかった。

 クラークを陥れて、オリビアを奪いたいと願う男は、多々いるのだ。だからこそ、遠征先でもクラークは気が抜けなかった。

 王都に置いてきたオリビアのことは心配であったが、幸いなことにディブリ家の使用人たちは優秀であるため『奥様のことは、私たちがお守りいたします』と口を揃えて言ってくれた。だから、彼女のことは彼らに任せることにした。

 その結果、彼女はクラークが不在の間、家のことも家令の手を借りながら、こなしてくれていたのだ。

(本当に、俺にはもったいないくらいの女性だ……)

 彼女を起こさないように、ゆっくりと身体をずらし、ベッドから降りようとする。

「旦那様?」

 小鳥の囀るような声で呼ばれてしまった。

(起こしてしまったのか。俺、一生の不覚)

「トイレに行くだけだ……」

 クラークのその言葉に偽りはない。
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