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幼妻の場合(8)

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 そこまで語られたら、オリビアだって気になってしまう。

 一人で映画館に足を運ぶ者もいるとはいうが、まだ大人の階段を一段しかあがっていないオリビアにとって、一人でというのは、階段の三段上のような存在である。

 となれば、お茶会の話題についていくためにも、流行っている映画を嗜んでいた方が良いだろう。

 そして今、クラークはオリビアの行きたい場所を聞いている。

「ポリー様に教えていただいたのですが、今、流行りの映画があるそうなのです。できれば、そちらを、旦那様と一緒に見に行きたいと思っております」
「映画か……。俺はここに戻って来たばかりで、そういった話題に疎いが。調べてみよう」
「ありがとうございます」

 つい、オリビアの声が弾んでしまった。
 その声に反応したクラークが、やっとオリビアの顔を見てくれた。だが、すぐに視線を逸らしてしまう。

(また……。クラークはやはり私のことを子供だと思っているのかしら。だけど今、私の好きなように生きろって言ってくれたし。てことは、ここからは私が攻めるべきなの? ぐいぐいいくべきなの? 教えて、カトリーナ様)

 ベッドがふわっと浮いたのは、クラークが立ち上がったためだ。

「今日はもう遅い。俺のこともいろいろと気遣ってくれて、疲れただろう? 俺も、今日はもう休むから」

 むしろ、この後の展開は二人でイチャラブ、あはんうふんな展開だと思っていたのだが。
 この流れは、本当に文字通りの「寝る」だけの展開になりそうである。

 クラークは、部屋の明かりを消した。ベッドのそばにある、背の高い間接照明がぼんやりと光っている。

 そして彼は、わざわざベッドをぐるりと回って、オリビアがいる反対側からその上にあがった。
 すぐさまベッドの上で毛布をかぶり、仰向けになっていた。

(え? これは何? この状態のクラークを好きにしていいってこと? 教えて、カトリーナ様。この場合、どうするのが正解なのですか?)

 心の師匠であるカトリーナに問いかけても、もちろん答えなど返ってくるわけはない。

 だからといって、この状態のクラークにオリビアの方から襲い掛かるのはいかがなものかと思う。遅い掛かったとしても、間違いなく反撃されるだろう。

 オリビアは仕方なく照明を暗くして、ベッドへと潜り込んだ。

(クラークは、眠ってしまったのかしら……)

 ゆっくりと頭の向きを変えて隣を見てみるが、大きな影が見えるだけで、彼がどのような状態なのかさっぱりわからない。

 ただ、その影が規則正しく上下しているようには見えた。

(きっと、戻ってきたばかりだから、疲れているのよね)

 オリビアは頭の位置を元に戻して、静かに目を閉じる。





 たゆたう意識の中で何かが動いて、はっとする。

「旦那様?」

 なぜか目の前にクラークの背があった。そしてベッドから降りようとしている。

「トイレに行くだけだ……」

 オリビアも誰かと寝たのは久しぶりである。そのため、彼が起き上がったタイミングで目が覚めてしまったのだ。

 彼の言葉にどう答えたら良いかがわからず、もう一度肩まで毛布をかぶり、横を向いた。

 絨毯の上を歩く彼の足音が、酷く寂しげに聞こえた。
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