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幼妻の場合(7)
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◇◇◇◇
夫婦の寝室。四柱式で天蓋がついている広いベッドは、ダークブラウンでどことなく落ち着いた色合いだ。
いつもはオリビア一人で使っていたベッドだが、今日はクラークがいる。
「その……。俺もベッドを使ってもいいだろうか……」
ベッドを前にして、遠慮するかのように、クラークが声をかけてきた。
ベッドは元々二人で使うものである。そのため、こんなに広いのだ。
「はい、もちろんです」
オリビアが答えると、クラークは安心したのか、頬をゆるませた。
オリビアもクラークの方から、そう言葉をかけてくれたことに安堵する。
なにしろオリビアの方から「一緒に寝ましょう」なんて口にしたら、はしたない女性と思われてしまうと、そう思っていたからだ。
だからといって、クラークに「ソファで寝てください」とも言えないし、オリビアが「私がソファに寝ますので」とも言えない。
彼が遠征で不在になるまでの間も、このベッドの上に二人で眠っていた。だから、何も問題はないはず。
「オリビア……。君に、話しておきたいことがある」
クラークがベッドに腰をおろすと、隣に座るようにとベッドの上をぽんぽんと叩いた。
彼の仕草に、オリビアは小首を傾げてから彼の隣に腰を落ち着ける。
ギシリと、二人分の重みでベッドが沈んだ。
「君は……。この結婚をどう思っている?」
クラークの問いに、オリビアの身体は小さく震えた。
(も、もしかして……。これはクラークの方からのお誘いなのかしら。隠して晒して作戦がうまくいった? ありがとうございます)
オリビアは心の中で子爵夫人に礼を言った。
その後、ゆっくりと首を振り、彼の顔を見上げる。
だが、クラークの視線は彼の膝の上に落とされていてオリビアと目が合うことはない。
「私にとって、この結婚は必要なものであったと、そう、思っております」
必要な結婚。望んだ結婚。だから、彼にも望まれたい。
「そうか。だが、君はもう十八になった。立派な大人だ。だから、自由に好きな人と生涯を共にできる権利が与えられた」
「はい」
「俺に遠慮する必要はない。君が好きなように生きなさい」
「はい……」
オリビアは返事をしてみたものの、彼からの言葉の意味を考えていた。
(え、と。つまり、私から誘えってことなのかしら? だからって、今すぐ誘うのもがっついているように見えるかもしれないし。むしろ、はしたないと思われてしまうかも)
次第にオリビアの頬が熱を持ち始める。
「だから……に。俺に思い出をくれないか? 先ほども言ったが、君と一緒に、出掛けたいんだ」
いけない妄想をしていたオリビアは、クラークの言葉の最初の方を聞き逃していた。だけど、彼がオリビアと共に出かけたいと口にしてくれたことが嬉しくて「はい」と返事をする。
「そうか、よかった。ありがとう。どこか行ってみたい場所はあるか?」
クラークの声が弾んだようにも聞こえた。だからオリビアも釣られて笑顔になる。
そうですね、と彼女は考える。
クラークが不在の間、オリビアが定期的に足を運ぶのは、どこかの屋敷で開かれるお茶会程度。そこで仕入れた情報によると、今、流行っている映画があるらしい。
恋愛映画だが、男女の織りなす三角関係が涙無しでは見られないと、侯爵夫人のポリーが言っていた。そして、その三角関係から派生するイチャラブシーンも、ただのイチャラブではなく、濃厚でしっとりと、見る者の心をえぐるような演出がされていると、ポリーが熱く語っていたのだ。
夫婦の寝室。四柱式で天蓋がついている広いベッドは、ダークブラウンでどことなく落ち着いた色合いだ。
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「はい、もちろんです」
オリビアが答えると、クラークは安心したのか、頬をゆるませた。
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だからといって、クラークに「ソファで寝てください」とも言えないし、オリビアが「私がソファに寝ますので」とも言えない。
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「君は……。この結婚をどう思っている?」
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オリビアは心の中で子爵夫人に礼を言った。
その後、ゆっくりと首を振り、彼の顔を見上げる。
だが、クラークの視線は彼の膝の上に落とされていてオリビアと目が合うことはない。
「私にとって、この結婚は必要なものであったと、そう、思っております」
必要な結婚。望んだ結婚。だから、彼にも望まれたい。
「そうか。だが、君はもう十八になった。立派な大人だ。だから、自由に好きな人と生涯を共にできる権利が与えられた」
「はい」
「俺に遠慮する必要はない。君が好きなように生きなさい」
「はい……」
オリビアは返事をしてみたものの、彼からの言葉の意味を考えていた。
(え、と。つまり、私から誘えってことなのかしら? だからって、今すぐ誘うのもがっついているように見えるかもしれないし。むしろ、はしたないと思われてしまうかも)
次第にオリビアの頬が熱を持ち始める。
「だから……に。俺に思い出をくれないか? 先ほども言ったが、君と一緒に、出掛けたいんだ」
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