上 下
25 / 44
弟の身代わりに

12.

しおりを挟む
 留学を終えたヨアヒムが帰ってきたのは、ヨハンナが修了パーティに向かってすぐのことだった。

「え、姉ちゃん。あの修了パーティに参加してんの?」
 ヨアヒムは驚いて、父親に尋ねた。すると、父親は楽しそうに事の顛末を息子に話し始める。

「うっわ……、それって、絶対に姉ちゃん、今日、帰ってこれないよ」

「なぜだ?」

「いや、あのベイト部隊長の女性嫌いって有名なんだけど。あの人、唯一触れることができる女性が自分の身内と姉ちゃんだけなんだよ」

「は? ヒム。お前、それ知ってたのか?」

「いや、さ。学生のときにさ」
 そう、ヨハンナとヨアヒムは学生のときからちょくちょくと入れ替わっていた。学生の頃のヨアヒムはそれができるようにヨハンナと同じように腰くらいまで髪を伸ばしていた。それによって騎士達から目を付けられることも多々あった。商売人の息子だから自由にし過ぎだと。
 たまたまヨアヒムとヨハンナが入れ替わった時に、ヨアヒムに扮していたヨハンナが学院に常駐する警備騎士から呼び出されたらしい。今すぐにでもその髪を切れ、と鋏を手渡されたとか。面倒くさいなと思ったヨハンナはその鋏で髪を切り落とそうとしたところ、それを止めたのがユルゲンだった。たまたま学院の警備部隊を抜き打ちで視察に来ていたところだったとか。
 がしっとそのヨハンナの手首を掴み「早まるな。もう少し、自分の意思を大事にしろ」と言ったとか。
 ここからヨハンナのユルゲン崇拝が始まるのだが。

 それよりもその話を聞いたヨアヒムは、あのユルゲンがヨハンナに触れたことの方に驚いた。あの人の女性嫌いは有名で、男装した女性にさえも触れることができないと聞いていたから。それは噂ではなく事実。

「つうことで、ベイト部隊長。今頃、姉ちゃんのこと襲ってるよ? あの人、女嫌いだけど性欲が無いわけじゃないから。むしろ、唯一触れられる女性がいたことに対して、運命の女性だとか言って、口説いてるんじゃない? っていうか、姉ちゃんが男装したうえで女装っていうわけのわからんことやったら、いくらベイト部隊長だって気付くでしょ。ヨアヒムが女だったってことに」
 と弟は思っていたのだが、むしろユルゲンはあのドレスを脱がすまで彼女を男だと思い込んでいたということは、アルトレート家には内緒である。

 楽しそうにお茶を飲みながらヨアヒムは笑った。
 そして、本当にヨハンナが帰ってこなかったので、これでアルトレート家も安泰だなと父親は思ったとか。


【弟の身代わりに:完】
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

私のバラ色ではない人生

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:105,514pt お気に入り:5,384

貴方の杖、直します。ただし、有料です。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:71pt お気に入り:1,670

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:241pt お気に入り:163

潔癖の公爵と政略結婚したけど、なんだか私に触ってほしそうです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:37,615pt お気に入り:770

クーパー伯爵夫人の離縁

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:171,061pt お気に入り:3,142

女性向け風俗に行ってきました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:966pt お気に入り:18

【完結】21距離をおきたいと言れたので、隣国に逃げたけど、、、

恋愛 / 完結 24h.ポイント:972pt お気に入り:2,069

一途な令嬢は悪役になり王子の幸福を望む

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,237pt お気に入り:1,709

処理中です...