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弟の身代わりに

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 ユルゲン・ベイトは頭を悩ませていた。彼はこの国の王立騎士団警備部隊を取りまとめる部隊長である。執務室で名簿を見ながら、盛大にため息をつく。すると机の上に置いてある名簿がふわりと浮上がり、つつっと動く。それくらい盛大にため息をついてしまった。
 この国には、学院を卒業した男子学生を一年間、騎士団で従騎士として従事させる制度がある。将来、騎士を目指さない学生も必ず通る道である。騎士団の人手不足を担っているという側面も持つ。
 その第六十八代の従騎士たちの修了式が十日後に控えていた。その修了式のあとには、自由参加の修了パーティが行われるのだが、部隊長であるユルゲンはむしろ強制的に参加を要請されていた。ただ参加するだけでいいのなら、何も問題は無い。ただの参加にとどまらないから、大問題なのである。

『騎士団の副部隊長以上の者は、必ずパートナーを同伴させること』

 そんなわけのわからないルールが存在していた。毎年のことではあるが、この時期になるとユルゲンの頭を悩ませるイベントである。いつもは、五歳年下の妹にパートナーを頼んでいたのだが、今年はそうはいかない。昨年結婚した妹は、今、新しい命を育んでいる。それは騎士団の連中にも知れ渡っている事実であり、今年のユルゲンのパートナーは誰なのかということで一部盛り上がっているとか。

 このユルゲン、実は大の女嫌い。触れることのできる女性は妹と母親のみ。なぜこうなってしまったのか。
 恐らく、彼の家柄を狙って近づいてくる女性が多かったのだ。きらきら爽やかイケメンとは程遠い、筋肉ムキムキの脳筋強面ユルゲンだが、この王立騎士団長を務めあげた父とそこそこ良いところ出身の母を持つ。
 娘を持つ大人たちは、ごそごそとその娘をユルゲンの元へと送り込んできた。年齢も様々な女性たち。ユルゲンを将来の夫にしようと、あんなことやこんなことに手を出してきた女性たち。これに気付いたのはユルゲンが八歳の頃。王立学院に入学したての頃だ。そして、これがユルゲンの女嫌いの発端でもある。

 その学院を卒業した後は、そんな女性たちを拒むように騎士団に入団したユルゲンであるが、花形の護衛部隊ではなくむさ苦しい警備部隊へ希望を出した。ここはあまりにもむさ苦しくて女性騎士は希望を出さないといういわくつきの部隊。女性と関わりたくないユルゲンにとってはもってこいの部隊であった。それに、多くの従騎士たちもこの部隊に配属される。
 今となっては指導者としても厳しく優秀なことで有名なユルゲン。彼の手によって、将来有望な従騎士たちが毎年何人も生み出されているとか。

 そんなユルゲンはもう一度盛大にため息をついた。目の前の名簿がふわりと浮いて、とうとう机の下にはらりと落ちていった。ユルゲンは乱暴に音を立てて立ち上がる。

「ヨアヒム・アルトレートをここに呼べ」

 隣室にいる事務官に聞こえるように、ユルゲンは声を張り上げた。
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