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夫42歳、妻23歳、娘7歳(14)
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「ミラーンさんには驚きましたけれども」
「君を巻き込んでしまったことを、悔やんでいるようだな」
「それって、旦那様がお怒りになったからではないですよね?」
「ん?」
そう言った彼は、右目だけを大きく広げている。意味ありげなその顔に、これ以上を聞くのはやめようと思った。
「旦那様は、どうしてあの場所がわかったのですか? ミラーンさんから聞いていたのですか?」
「いや」
彼はオネルヴァの左手の薬指に触れた。そこには彼との関係を示す指輪がはめられている。彼と身体を重ねた次の日。イグナーツがどこか照れくさそうにこの指輪をくれたのだ。そして、互いにその指にはめ合った。
「君は魔法を無効化してしまうからな。君自身に魔法をかけることはできない。だから、こちらに魔法付与をしておいた」
「魔法付与?」
「君の居場所がすぐにわかるように。いや、この指輪がどこにあるのかがわかるような魔法だな。俺の指輪と対になっている」
なんて答えたらいいかがわからなかった。今回は、その指輪の魔法のおかげで助かったのだが、これではオネルヴァの居場所はイグナーツに筒抜けではないか。いや、夫婦とはそういうものなのだろうか。
「それよりも」
オネルヴァは話題を変えた。
「葡萄酒の葡萄は、こちらの領地で作られているものと聞いたのですが」
「ああ。今度は、葡萄園にも連れていってあげよう。こちらでの仕事も落ち着いたから、そろそろ王都に戻らなくてはならないが」
「では、次にこちらに来たときの楽しみにします」
オネルヴァもグラスに手を伸ばすが、彼女のグラスに入っているのは葡萄水である。
「君は、お酒は飲まないのか?」
「飲んだことがありません。だから、ちょっと怖いのです」
「そうか……」
イグナーツがグラスの酒を大きく口に含む。そしてオネルヴァの顎をとらえ、そのまま口づける。
「……んっ」
喉元を通り抜ける熱い液体。飲み干せなかった分が、口の端から溢れ首筋を流れていく。
「どうだ? 怖くはないだろう?」
唇に舌を這わせている彼の姿に、背筋がぞくりとする。どこか艶めかしい。
「あ、はい。美味しいです。葡萄水よりも少しだけ刺激があるような感じがします」
「もう一口、飲んでみるか?」
「あっ……その……」
彼がオネルヴァを求めているのをなんとなく感じた。そうやって求められるのも悪くはないのだが、恥ずかしい。
「君が答えてくれないなら、まずはこぼれた酒を拭きとったほうがいいな」
そう言ってイグナーツは顔を寄せ、唇の脇をぺろりと舐める。
「ひゃっ」
「こことここにも零れている」
首から胸元にかけて唇を落としていく。
「あぁ、すまない。やはりあのときのことを思い出したら、どうしても許せなくて……」
「ごめんなさい」
「君のことじゃない。君に触れた男のことだ」
オネルヴァは優しくイグナーツの手首を掴む。
「イグナーツ様になら、いくらでも触れてもらってかまいません」
その手を、胸元へと誘った。
「君は……。どこでそういうのを覚えてきたんだ」
「わたくしに閨事を教えてくださったのは、イグナーツ様です」
イグナーツの表情が、ピシッと固まった。何か言いたそうに口を開くが、その言葉は出てこない。そのまま唇を噛みしめて、まっすぐにオネルヴァを見つめる。
「つまり、もう遠慮しなくていいということだな?」
彼が何に対して遠慮をしていたのかはわからないが、オネルヴァは静かに頭を縦に振った。頭をあげた途端、抱きかかえられて寝台へと連れていかれる。
そのまま激しい口づけを交わし、彼はオネルヴァのナイトドレスの合わせから手を差し入れ、直に肌に触れた。
じわりと身体の奥から熱が生まれる。
「イグナーツ、さま……」
オネルヴァも手を伸ばし、彼の服を脱がせる。互いに互いの服を脱がせ、次第に肌が露わになる。
「君のおかげで、俺の魔力はずっと安定している」
彼はいつも優しく触れてくる。今も、オネルヴァの頬を両手でやわらかく包んでいる。
「そう、なのですか?」
「ああ。そうでなかったら、あんな繊細な拘束魔法は扱えなかった。いつもであれば、拘束ついでに腕の一本や二本くらい折っている」
それが冗談なのか本気なのか、悩むところではあるが。
彼の額にはうっすらと汗が浮かんでいる。
互いの鼓動を感じ合いながら、抱きしめ合う。彼の熱を感じて、幸せをかみしめる。
自然と涙がこぼれた。
それから半年後。オネルヴァがイグナーツの元にきてから一年が経った頃。
雲一つない青空の下で、二人は愛を誓い合った。
「君を巻き込んでしまったことを、悔やんでいるようだな」
「それって、旦那様がお怒りになったからではないですよね?」
「ん?」
そう言った彼は、右目だけを大きく広げている。意味ありげなその顔に、これ以上を聞くのはやめようと思った。
「旦那様は、どうしてあの場所がわかったのですか? ミラーンさんから聞いていたのですか?」
「いや」
彼はオネルヴァの左手の薬指に触れた。そこには彼との関係を示す指輪がはめられている。彼と身体を重ねた次の日。イグナーツがどこか照れくさそうにこの指輪をくれたのだ。そして、互いにその指にはめ合った。
「君は魔法を無効化してしまうからな。君自身に魔法をかけることはできない。だから、こちらに魔法付与をしておいた」
「魔法付与?」
「君の居場所がすぐにわかるように。いや、この指輪がどこにあるのかがわかるような魔法だな。俺の指輪と対になっている」
なんて答えたらいいかがわからなかった。今回は、その指輪の魔法のおかげで助かったのだが、これではオネルヴァの居場所はイグナーツに筒抜けではないか。いや、夫婦とはそういうものなのだろうか。
「それよりも」
オネルヴァは話題を変えた。
「葡萄酒の葡萄は、こちらの領地で作られているものと聞いたのですが」
「ああ。今度は、葡萄園にも連れていってあげよう。こちらでの仕事も落ち着いたから、そろそろ王都に戻らなくてはならないが」
「では、次にこちらに来たときの楽しみにします」
オネルヴァもグラスに手を伸ばすが、彼女のグラスに入っているのは葡萄水である。
「君は、お酒は飲まないのか?」
「飲んだことがありません。だから、ちょっと怖いのです」
「そうか……」
イグナーツがグラスの酒を大きく口に含む。そしてオネルヴァの顎をとらえ、そのまま口づける。
「……んっ」
喉元を通り抜ける熱い液体。飲み干せなかった分が、口の端から溢れ首筋を流れていく。
「どうだ? 怖くはないだろう?」
唇に舌を這わせている彼の姿に、背筋がぞくりとする。どこか艶めかしい。
「あ、はい。美味しいです。葡萄水よりも少しだけ刺激があるような感じがします」
「もう一口、飲んでみるか?」
「あっ……その……」
彼がオネルヴァを求めているのをなんとなく感じた。そうやって求められるのも悪くはないのだが、恥ずかしい。
「君が答えてくれないなら、まずはこぼれた酒を拭きとったほうがいいな」
そう言ってイグナーツは顔を寄せ、唇の脇をぺろりと舐める。
「ひゃっ」
「こことここにも零れている」
首から胸元にかけて唇を落としていく。
「あぁ、すまない。やはりあのときのことを思い出したら、どうしても許せなくて……」
「ごめんなさい」
「君のことじゃない。君に触れた男のことだ」
オネルヴァは優しくイグナーツの手首を掴む。
「イグナーツ様になら、いくらでも触れてもらってかまいません」
その手を、胸元へと誘った。
「君は……。どこでそういうのを覚えてきたんだ」
「わたくしに閨事を教えてくださったのは、イグナーツ様です」
イグナーツの表情が、ピシッと固まった。何か言いたそうに口を開くが、その言葉は出てこない。そのまま唇を噛みしめて、まっすぐにオネルヴァを見つめる。
「つまり、もう遠慮しなくていいということだな?」
彼が何に対して遠慮をしていたのかはわからないが、オネルヴァは静かに頭を縦に振った。頭をあげた途端、抱きかかえられて寝台へと連れていかれる。
そのまま激しい口づけを交わし、彼はオネルヴァのナイトドレスの合わせから手を差し入れ、直に肌に触れた。
じわりと身体の奥から熱が生まれる。
「イグナーツ、さま……」
オネルヴァも手を伸ばし、彼の服を脱がせる。互いに互いの服を脱がせ、次第に肌が露わになる。
「君のおかげで、俺の魔力はずっと安定している」
彼はいつも優しく触れてくる。今も、オネルヴァの頬を両手でやわらかく包んでいる。
「そう、なのですか?」
「ああ。そうでなかったら、あんな繊細な拘束魔法は扱えなかった。いつもであれば、拘束ついでに腕の一本や二本くらい折っている」
それが冗談なのか本気なのか、悩むところではあるが。
彼の額にはうっすらと汗が浮かんでいる。
互いの鼓動を感じ合いながら、抱きしめ合う。彼の熱を感じて、幸せをかみしめる。
自然と涙がこぼれた。
それから半年後。オネルヴァがイグナーツの元にきてから一年が経った頃。
雲一つない青空の下で、二人は愛を誓い合った。
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