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夫42歳、妻23歳、娘7歳(13)

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 数年前の内戦のきっかけとなったシステラ族が処刑から免れたのは、キシュアス王国の助けがあったらしい。

 キシュアス王国は、どこかでシステラ族と通じていたのだ。
 だから逆にシステラ族はあの修道院から二人を連れ出したのだろう。

「弱い者ほど、群れたがる……」

 イグナーツがそうポツリと呟いた。その言葉の真相はどこにあるのか。
 葡萄酒を用意したオネルヴァは、彼の隣に座った。

「キシュアスとシステラの件は、なんとか落ち着いた……。アルヴィド殿も、君によろしくと言っていた」

 あれ以降、アルヴィドとは顔を合わせることなく、彼はキシュアス王国へと戻っていった。

「そうですか。エルシーが残念がっておりました」
「まぁ、また会えるだろう。日取りが決まったからな」
「なんの、ですか?」

 オネルヴァが尋ねると、イグナーツは困ったように顔を背ける。だからオネルヴァは彼の顔を覗き込み、じっと見つめる。それでもイグナーツは視線を逸らしたまま、困ったように口元をおさえていた。

「……だ……」

 何かを言葉にしたようだが、はっきりとその言葉は聞こえない。

「え、と。よく聞こえませんでした」
「俺たちの結婚式の日取りだ」

 乱暴に吐き捨てるかのように彼は口にしたが、それが照れ隠しであることを知っている。

「結婚式を? わたくしと旦那様が?」
「何もおかしくはないだろう? 俺たちが結婚式を挙げてはならないと?」
「い、いえ……」

 顔を真っ赤にしながらも、結婚式について口にするイグナーツはどこか可愛いとさえ感じる。

「その……驚いたのと、嬉しいのと……」
「嬉しいのか? 俺との結婚式が?」

 どちらかというと、嬉しいのはイグナーツのほうだろう。

「はい。嬉しいです。やはり、結婚式には憧れがありますから」

 オネルヴァはグラスに葡萄酒を注ぐと、それをイグナーツに手渡した。

「これは、ミラーンさんが持ってきてくださったものなのですが」
 オネルヴァの言葉でイグナーツも察するところがあったようだ。ふっと鼻で笑うと、葡萄酒の香りを堪能してから、グラスに口をつける。
「ミラーンが来たのか?」
「あ、はい」

 ミラーンはあのときのことを謝罪しに来た。

 まずは、ジナース酒蔵のレストランでの休憩中に、オネルヴァの飲み物にだけ睡眠薬をいれたこと。彼女に魔法が効かないだろうというのは、ミラーンもイグナーツから聞いて知っていた。

 誰にも知られずにオネルヴァだけあの場から連れ出すにはどうしたらいいか。

 ミラーンは他の客には眠りの魔法を使ったらしい。そしてオネルヴァも薬で眠らせ、システラ族の仲間がいる馬車へと彼女を運んだ。
 ミラーンがオネルヴァを連れてきたことで、システラ族はミラーンをより信用した。
 その後、彼らと共にあの場所へと向かい、オネルヴァを地下牢へと閉じ込めた。オネルヴァが乱暴されても、ミラーンは止めなかった。それが作戦のうちといえばそうなのだが、それでも彼の心の中には葛藤があったようだ。

 その話を聞いたのは今日。

 彼は葡萄酒と葡萄水を籠いっぱいにいれて、この屋敷を訪れた。そしてオネルヴァの姿を見るなり、床に膝をついて頭を下げて謝罪した。その頭も床につくほど、深く下げた。
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