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妻を奪われた夫と夫に会いたい妻(3)
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城内からバルコニーへと続く扉が開き、楽団の演奏がより大きく聞こえた。コツコツコツと足音を響かせて、誰かがこちらへやってくるが、城内の明かりを背にしているその人影では、誰が誰であるかがわからない。ただ、ドレス姿の人物ではないというだけはわかった。
「オネルヴァ? こんなところにいたのか」
「アルヴィドお兄様?」
「一人なのか?」
ぐるりと周囲を見回したのは、イグナーツの存在を確認しているのだろう。
「旦那様は、呼び出されましたので。わたくしは、ここで休んでおりました。人がたくさんいるところは、どうしても慣れないので」
「そうか……隣、いいか?」
アルヴィドがちらりと長椅子に視線を向けた。
「はい」
断る理由はない。
「お義父様は、元気でいらっしゃいますか? キシュアスの様子はどうですか?」
オネルヴァがこちらに来てから気になっていたのは、そのことだった。彼女がイグナーツに嫁ぐことで、ゼセール王国はキシュアス王国に多額の援助をする約束になっていたはずだ。また、キシュアス王国がゼセール王国に反旗を翻すのを防ぐためでもある。だからこそ、一部からは人質とさえ呼ばれているのだ。
だが、今のキシュアス王国には、そんな戦力すら残っていない。
「ああ、父は元気だよ。臣下にも恵まれているからね。彼らもよくやってくれている。民にも充分に食料が行き渡るようになったし、今は畑の整備も始まっている」
「そうですか……。それは、よかったです。安心しました……」
膝の上で両手を握りしめる。
「君は、ここに来て幸せか?」
そう問われて「はい」という言葉を呑み込んだ。そもそも『幸せ』とは何かがわからない。
「そうですね、よくしてもらっております。もう、打たれることもありませんし……」
「そうか。君が今の生活に満足しているのであれば、俺から言うことは何もない。兄としては、妹が気になって仕方ないのだよ。いきなり、母親になったのも大変だったろう?」
アルヴィドの手が伸びてきて、組んでいたオネルヴァの両手を優しく包んだ。驚いて、顔をあげる。彼は微笑みながら、オネルヴァを見つめていた。
「エルシーは、とてもいい子です。本当にわたくしが、あの子の母親でいいのかと、何度も悩みました」
「そうだな……あの子は純粋な子だ。本当に、あの男の娘なのかと疑いたくなるくらいに」
その言葉に、オネルヴァは何も答えなかった。ただ、にっこりと微笑む。
「エルシーが、アルヴィドお兄様にまた会いたいと言っておりました。機会がありましたら、お屋敷のほうにも遊びにきてください」
「ああ、機会があったらそうさせてもらう。今回は、友好国として視察を兼ねているんだ。だから、地方にも足を伸ばすつもりでいる」
地方。オネルヴァは、ほとんどの時間を屋敷の中で過ごしている。外に出るのも、庭園を散歩するときくらいだ。
だが、イグナーツはゼセール王国の北の将軍と呼ばれているだけあり、北の領地を治めているはずだ。
「アルヴィドお兄様も、北の関所を越えてきたのですか?」
「そうだな。できれば、あそこの領地の視察もしたいと考えている。なによりも、我がキシュアス王国との国境だからな」
オネルヴァも、こちらに嫁いできたときにはあの関所で一泊した。時間があれば、もう少し先にある領主館での宿泊も検討されたようだが、あの時間からさらに領主館への移動となればオネルヴァの負担になると判断されたらしい。だが、あのテントでの宿泊も悪くはなかった。テントは正式には移動式住居と呼ばれているもので、中は充分に広く温かった。
「オネルヴァ? こんなところにいたのか」
「アルヴィドお兄様?」
「一人なのか?」
ぐるりと周囲を見回したのは、イグナーツの存在を確認しているのだろう。
「旦那様は、呼び出されましたので。わたくしは、ここで休んでおりました。人がたくさんいるところは、どうしても慣れないので」
「そうか……隣、いいか?」
アルヴィドがちらりと長椅子に視線を向けた。
「はい」
断る理由はない。
「お義父様は、元気でいらっしゃいますか? キシュアスの様子はどうですか?」
オネルヴァがこちらに来てから気になっていたのは、そのことだった。彼女がイグナーツに嫁ぐことで、ゼセール王国はキシュアス王国に多額の援助をする約束になっていたはずだ。また、キシュアス王国がゼセール王国に反旗を翻すのを防ぐためでもある。だからこそ、一部からは人質とさえ呼ばれているのだ。
だが、今のキシュアス王国には、そんな戦力すら残っていない。
「ああ、父は元気だよ。臣下にも恵まれているからね。彼らもよくやってくれている。民にも充分に食料が行き渡るようになったし、今は畑の整備も始まっている」
「そうですか……。それは、よかったです。安心しました……」
膝の上で両手を握りしめる。
「君は、ここに来て幸せか?」
そう問われて「はい」という言葉を呑み込んだ。そもそも『幸せ』とは何かがわからない。
「そうですね、よくしてもらっております。もう、打たれることもありませんし……」
「そうか。君が今の生活に満足しているのであれば、俺から言うことは何もない。兄としては、妹が気になって仕方ないのだよ。いきなり、母親になったのも大変だったろう?」
アルヴィドの手が伸びてきて、組んでいたオネルヴァの両手を優しく包んだ。驚いて、顔をあげる。彼は微笑みながら、オネルヴァを見つめていた。
「エルシーは、とてもいい子です。本当にわたくしが、あの子の母親でいいのかと、何度も悩みました」
「そうだな……あの子は純粋な子だ。本当に、あの男の娘なのかと疑いたくなるくらいに」
その言葉に、オネルヴァは何も答えなかった。ただ、にっこりと微笑む。
「エルシーが、アルヴィドお兄様にまた会いたいと言っておりました。機会がありましたら、お屋敷のほうにも遊びにきてください」
「ああ、機会があったらそうさせてもらう。今回は、友好国として視察を兼ねているんだ。だから、地方にも足を伸ばすつもりでいる」
地方。オネルヴァは、ほとんどの時間を屋敷の中で過ごしている。外に出るのも、庭園を散歩するときくらいだ。
だが、イグナーツはゼセール王国の北の将軍と呼ばれているだけあり、北の領地を治めているはずだ。
「アルヴィドお兄様も、北の関所を越えてきたのですか?」
「そうだな。できれば、あそこの領地の視察もしたいと考えている。なによりも、我がキシュアス王国との国境だからな」
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