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妻が気になる夫と娘が気になる妻(7)

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 からっとした青空の日差しから逃れるかのように、鍔の大きな帽子をかぶって影を作る。
 ラベンダーを摘んでいるオネルヴァとエルシーに、日傘をさしてさらに影を作っているのは、ヘニーとリサである。

「おかあさま、これくらいでいいですか?」
「そうですね。これだけあれば十分ですね」

 エルシーの籠の中には、びっしりとラベンダーが入っていた。つい、夢中になって摘み取ってしまった。

 オネルヴァはエルシーと匂い袋を作ろうとしていた。だが、時期的にラベンダーが楽しめると庭師からも聞き、匂い袋ではなくラベンダースティックにしてはどうかとエルシーに提案した。

 すると彼女は、顔中に喜びの笑みを浮かべた。
 摘みたてのラベンダーは水分が多くて折れやすいため、一日程乾燥させてから作る。

「奥様、お嬢様。お茶の準備が整っております」

 摘んだラベンダーは、風通しのよい日陰に吊るした。それが終わったところで、ヘニーに声をかけられた。

「エルシー。喉がかわきましたね」
「はい」

 元気よく返事をするエルシーに微笑んでみるが、やはりイグナーツとよく似ている。父と娘ではなく、伯父と姪であると知ってから十日程過ぎた。だからといって、何かが変わったわけでもない。

「お母さま」

 唇の端に、ケーキのクリームをつけながらも、エルシーは真剣な顔でオネルヴァを見つめていた。

「どうしました? 何か、悩み事でも?」
「やっぱり、お父さまとお母さまは、結婚式をしたほうがいいと思うのです」
「急にどうしました?」

 オネルヴァが腕を伸ばして、エルシーの口の端のクリームをぬぐう。

「お父さまとお母さまがきちんと結婚式をすれば、二人の間に赤ちゃんが生まれて、エルシーはお姉さまになれると思うのです。結婚式をしないから、赤ちゃんが生まれないのです」

 彼女の口ぶりから察するに、エルシーなりに一生懸命考えて伝えようとした気持ちが伝わってくる。
 オネルヴァはそれにどうやって答えたらいいのかがわからない。

 エルシーが妹か弟を欲しがっているのは、今までの言動からもなんとなく察していた。だが、その言葉ときちんと向き合わず、曖昧なやりとりで逃げていたのも事実。

「そうですね。ですが、子は授かり者ですから、望んでもすぐに生まれるわけでもないのですよ?」

 オネルヴァがやんわりと答えると、エルシーはきょとんと目をまんまるくしている。

「結婚したら、赤ちゃんは生まれるわけではないのですか?」

 どうやら彼女はそう思っていたらしい。だから、すぐに弟妹ができると思っていたのだろう。

 オネルヴァは言葉を選びながら、ゆっくりと口を開く。エルシーは真面目な顔でオネルヴァの話を聞いていたが、彼女の結論は「エルシーもお姉さまになれるように、お勉強がんばります」だった。
 純粋なエルシーにこれ以上の現実を突きつけるのは気が引ける。

「そうですね」

 にこやかに笑って誤魔化した。
 そもそもオネルヴァはエルシーの母親として求められているが、イグナーツの妻としては求められていない。そんな彼との間に子が授かるとは思えないのだ。

 イグナーツとは口づけをする関係になった。しかしそれも一種の治療行為であり、あのときのみの行為である。そういった愛情を確かめるための行為ではない。

 エルシーには悪いが、彼女の弟妹を授かることはない。
 そう思っただけで、胸がキリッと痛み目頭が熱くなった。



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