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夫41歳、妻22歳、娘6歳(11)

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 けして彼女は嫌がらせをしようとしているわけではない。彼女は彼女なりに仕事に誇りを持ち、伝統に則ってオネルヴァのドレスを脱がせようとしているのだ。

「あ、あの……」

 オネルヴァが声をかけると、ヘニーは不思議そうに眉根を寄せる。

「一人で、着替えられますから」
「オネルヴァ様は、奥様となられる方です」

 彼女の一言でオネルヴァは察する。ようは、一人でやってはいけないのだ。

「ですが……」

 オネルヴァは胸元をきつく握りしめる。このドレスを人前で脱ぎたくない理由がある。

「出会ったばかりでオネルヴァ様が不安に思われるのもわかります。私がまだ信用されていないことも。ですが、私は旦那様の屋敷に仕えて三十年以上。このたび、オネルヴァ様付きとして、仕えることになりました」

 オネルヴァを落ち着けるような柔らかな笑みを浮かべている。
 彼女が悪くないことも、オネルヴァはわかっている。これはオネルヴァの問題なのだ。

「あの……。ここで見たことは誰にも言わないと、約束してくださいますか?」

 オネルヴァが尋ねると、ヘニーは驚いたように目を見開いたが、すぐに頷いた。

「約束いたします。私はオネルヴァ様から信頼されるのが仕事でございますから」

 ヘニーは笑うと口元に皺ができる。それを見た時に、なぜか心がふわっと凪いだ。
 ヘニーの手伝いを受けながら、浅紫色のドレスを脱ぐ。コルセットも外され、背中が露わになったとき、ヘニーが息を呑んだのがわかった。だが、彼女はすぐに何事もなかったかのように、手を動かす。

「こちらを身に着けてください」

 身体を絞めつけないデザインの淡い珊瑚色のドレスであった。

「あとは、お休みになるだけですから」

 オネルヴァが今まで着ていたドレスは、麻袋に入れられキシュアスに返されるとのことだった。

 ゼセールについて勉強したつもりだったが、この輿入れについての伝統は知らなかった。
 食事もヘニーが用意してくれた。このテントの中には、オネルヴァとヘニーしかいない。だが、周囲にはオネルヴァの身を守る護衛がいるのだろう。

 ヘニーは、オネルヴァが眠りにつくまであれこれ世話を焼いた。あまりにも親切すぎて、変に疑いたくなったが、眠りに着くころにはその警戒心も和らいだ。

 次の日は、ゼセール王国の馬車へと乗り込んだ。オネルヴァを連れてきたキシュアス王国の馬車は、テシェバへと戻っていく。

 ヘニーはオネルヴァの隣に座ったが、オネルヴァの夫となるイグナーツについて、いろいろと話してくれた。

 イグナーツは四十一歳。六歳になった娘がいて、名前はエルシー。
 イグナーツは明るい灰色の髪に茶色の目。エルシーは金色の髪に茶色の目。親子だから、目の色は似ているのだろう。

 まだ会ったことのない夫と娘となる人物を頭の中で想像する。

 ヘニーはエルシーの話をするときは饒舌になった。エルシーがどれだけ愛されているかひしひしと伝わってくる。それが、どこか羨ましいと感じてしまう自分に、少しだけ躊躇った。

「仲良く、できますでしょうか」
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