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15.彼女に愛を告げる日(2)
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レナートはウリヤナからカール子爵家の現状を聞いていた。特に、彼女の弟であるイーモンについては、疑問に思うところが多々あった。
ウリヤナはレナートの家族となったのだ。となれば、ウリヤナの家族もレナートの家族だろう。だからイーモンの件が引っかかっていた。
「まず、カール子爵家が傾いた原因だが。ウリヤナの弟、イーモンが資産に手を付けたのが原因らしいな」
それはレナートもウリヤナから聞いた。なぜ、当時十三歳という年齢で、家の資産に手をつけようと考えたのかがまったくわからない。誰かの入れ知恵にしても、その年代でそこまで考えるだろうか。
「まず、イーモンに投資話を吹っ掛けたのは、学院の友人らしい。幾人かの友人が集まって、そのようなことを口にしていたようだ。そこに名前が出てきたのがアルフィー・ハウル」
「誰だ、それは」
「王太子クロヴィスの腰巾着の名だ。まぁ、側近とでも言うのか? クロヴィスとアルフィーは幼い頃から仲良くしていたそうだ。まるで兄弟のようにな」
そこでランベルトがレナートを見やったのは「まるで私たちのように」とでも言いたいからだろう。だけどレナートはもちろんそれを無視する。
「つまり、王太子に近しい者の名が出たから、イーモンはそれを信用したと?」
「おそらく。そして、それがきっかけだ」
「なんの?」
「魅了。もはや、洗脳とも呼べるのか?」
魅了も洗脳も魔術師の領域である。
「つまり、だ。ウリヤナの弟イーモンが、アルフィーを信用したことで洗脳が発動した」
レナートの後方で、ロイがぴくりと反応した。彼も何か思うところがあるにちがいない。
「だが、洗脳は魔術師でないと使えない。そこまで魔力のある魔術師があの国にいるとは思えない」
「そうだな。イングラムの魔術師には無理だろうな。だが、ローレムバならどうだ?」
ランベルトの言葉にレナートは目を線にする。
「お前。その鬱陶しい前髪を切れ! 見にくいからそうやって目を細めるんだろ? 目つきが悪くなる。お兄ちゃん、お前のその目つき、嫌いよ。もっとこう、穏やかに」
「俺の前髪も目つきも生まれつきだ。今更どうのこうの言われても遅いわ。それよりも話を逸らすな」
ランベルトは少しだけ温くなったお茶で喉を潤した。
「お前はせっかちだな。少しくらい兄弟の会話を楽しんでくれてもいいのに」
「突然、話題を切り替えられると、こっちの頭がついていかないんだ。いいから、続きを話せ」
「はいはい。で、なんだっけ? あ、洗脳魔法の件か。そう、だからローレムバの魔術師が動いた」
「ちょっと待て。なんでローレムバの魔術師がウリヤナの弟に洗脳をかける必要がある? カール子爵家なんて、イングラムにおいてさほど力のある家柄でもないのだろう? ローレムバが狙う理由がわからん。まして、ウリヤナが聖女となる前の話だ」
「ローレムバの魔術師が頼まれたとしたら?」
「誰に?」
「それが重要だな」
そこまで言ったランベルトは、今度はお菓子に手を伸ばす。まるでレナートを焦らして楽しんでいるかのように見える。いや、実際、楽しんでいる。
「おお、ロイ。このクッキーはおいしいな。どこの店のものだ? 土産に買って帰ろうかな」
「陛下。聞いて驚かないでください。それはウリヤナ様がお作りになられたものです」
ゴホッとむせたのはレナートだった。
「ほうほう、ウリヤナが。お前のウリヤナはなんでもできるんだな」
「俺は、聞いてない……」
「ええっ?! レナート様だって、いつも食べているじゃないですか。無意識に全部」
「ダメだね、こいつ。愛する奥さんが作ったものを、無意識に全部って。あれだよね、奥さんを空気かなんかだと思っているタイプだよね」
「その話もやめろ。いいからもったいぶらずにさっきの話の続きを話せ」
「続き? はて、なんだっけかな」
ウリヤナはレナートの家族となったのだ。となれば、ウリヤナの家族もレナートの家族だろう。だからイーモンの件が引っかかっていた。
「まず、カール子爵家が傾いた原因だが。ウリヤナの弟、イーモンが資産に手を付けたのが原因らしいな」
それはレナートもウリヤナから聞いた。なぜ、当時十三歳という年齢で、家の資産に手をつけようと考えたのかがまったくわからない。誰かの入れ知恵にしても、その年代でそこまで考えるだろうか。
「まず、イーモンに投資話を吹っ掛けたのは、学院の友人らしい。幾人かの友人が集まって、そのようなことを口にしていたようだ。そこに名前が出てきたのがアルフィー・ハウル」
「誰だ、それは」
「王太子クロヴィスの腰巾着の名だ。まぁ、側近とでも言うのか? クロヴィスとアルフィーは幼い頃から仲良くしていたそうだ。まるで兄弟のようにな」
そこでランベルトがレナートを見やったのは「まるで私たちのように」とでも言いたいからだろう。だけどレナートはもちろんそれを無視する。
「つまり、王太子に近しい者の名が出たから、イーモンはそれを信用したと?」
「おそらく。そして、それがきっかけだ」
「なんの?」
「魅了。もはや、洗脳とも呼べるのか?」
魅了も洗脳も魔術師の領域である。
「つまり、だ。ウリヤナの弟イーモンが、アルフィーを信用したことで洗脳が発動した」
レナートの後方で、ロイがぴくりと反応した。彼も何か思うところがあるにちがいない。
「だが、洗脳は魔術師でないと使えない。そこまで魔力のある魔術師があの国にいるとは思えない」
「そうだな。イングラムの魔術師には無理だろうな。だが、ローレムバならどうだ?」
ランベルトの言葉にレナートは目を線にする。
「お前。その鬱陶しい前髪を切れ! 見にくいからそうやって目を細めるんだろ? 目つきが悪くなる。お兄ちゃん、お前のその目つき、嫌いよ。もっとこう、穏やかに」
「俺の前髪も目つきも生まれつきだ。今更どうのこうの言われても遅いわ。それよりも話を逸らすな」
ランベルトは少しだけ温くなったお茶で喉を潤した。
「お前はせっかちだな。少しくらい兄弟の会話を楽しんでくれてもいいのに」
「突然、話題を切り替えられると、こっちの頭がついていかないんだ。いいから、続きを話せ」
「はいはい。で、なんだっけ? あ、洗脳魔法の件か。そう、だからローレムバの魔術師が動いた」
「ちょっと待て。なんでローレムバの魔術師がウリヤナの弟に洗脳をかける必要がある? カール子爵家なんて、イングラムにおいてさほど力のある家柄でもないのだろう? ローレムバが狙う理由がわからん。まして、ウリヤナが聖女となる前の話だ」
「ローレムバの魔術師が頼まれたとしたら?」
「誰に?」
「それが重要だな」
そこまで言ったランベルトは、今度はお菓子に手を伸ばす。まるでレナートを焦らして楽しんでいるかのように見える。いや、実際、楽しんでいる。
「おお、ロイ。このクッキーはおいしいな。どこの店のものだ? 土産に買って帰ろうかな」
「陛下。聞いて驚かないでください。それはウリヤナ様がお作りになられたものです」
ゴホッとむせたのはレナートだった。
「ほうほう、ウリヤナが。お前のウリヤナはなんでもできるんだな」
「俺は、聞いてない……」
「ええっ?! レナート様だって、いつも食べているじゃないですか。無意識に全部」
「ダメだね、こいつ。愛する奥さんが作ったものを、無意識に全部って。あれだよね、奥さんを空気かなんかだと思っているタイプだよね」
「その話もやめろ。いいからもったいぶらずにさっきの話の続きを話せ」
「続き? はて、なんだっけかな」
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