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15.彼女に愛を告げる日(1)
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レナートがウリヤナと出会ったのは、イングラム国のテルキの街の爆発事故がきっかけである。だが、その事実を周囲に伝えるのは少々面倒くさいと思っているため、その辺はいつも濁す。
旅先の宿で一緒になった。この一言で十分なのだ。
「レナート、ひとりか?」
夕食後のこの時間は、レナートもウリヤナも互いに一人の時間を過ごす。
「それで? なんの用だ? さっさと帰れと言っただろう?」
レナートの執務室にやって来たのは、ランベルトだった。
「レナート、ひどい。お兄ちゃん、泣いちゃう」
「三十過ぎた男が気持ち悪いな。ロイ、このうるさい兄を黙らせてやってくれ」
「はいはい」
レナートのこの言葉が、お茶を淹れて菓子でも出してやれと意訳できるのは、ロイくらいである。
彼が手際よくお茶を出すと、ランベルトは不思議そうに目を見開く。
「まぁ、そういう意味です」
ぼそりとロイがつぶやき、ランベルトは目を細めた。
「ウリヤナの側にいなくていいのか?」
「ロイ。黙らせろと言っただろ?」
そう言われたロイは肩をすくめる。
レナートはロイとランベルトを一瞥してから、小さく息を吐いた。
「まあ、いい。それで、なんの用だ」
「少しくらい、お前ののろけ話を聞かせてくれてもいいだろ? あぁ、怖い怖い……わかったよ、さっさと本題に入ろう」
ふとランベルトの目が鋭くなる。
イングラム国ではここ最近、不作が続いている。詳しく調べていくと、その発端はウリヤナが力を失った時期と繋がった。なんの因果関係があるのかわからないが。
そのイングラム国は、ローレムバ国に助けを求めてきたのだ。
魔術師の力を用いて、からからに乾いた土壌に潤いを与えてほしい。水害のあった場所の再建に力を貸してほしい。
その書簡が届き、ランベルトは返事を一筆したためた。
『力を貸してほしければ、ローレムバの属国になれ――』
それは、レナートがイングラム国王に突きつけられた言葉でもある。だから、ランベルトが同じ言葉を返したのだ。
「今回、書簡を送ってきたのは、王太子なんだよな。王太子ってアレだろ? お前のウリヤナの」
ウリヤナは王太子クロヴィスと婚約をしていた。それはイングラム国内でも知らない者はいないほどの話であり、その婚約が解消されたのも同様である。
「つまり、お前の子の本当の父親というわけか?」
ランベルトはいちいち突っかかる言い方をしてくる。きっとレナートの反応を見て楽しもうとしているのだ。だから、それにはのらない。
「だったら、どうする?」
「いや、どうもしない。ローレムバにとって重要なのは、魔力の繋がりだ。あれだけお前の魔力になじんでいるあの子は、誰がどう見てもお前の子だな。だが、イングラムではそうでもないのだろう?」
イングラム国は少なくとも胎児に魔力を注ぐような行為はしないようだ。魔力を注ぐ行為については、ウリヤナもレナートの話を聞いて、驚いたくらいである。
「つまりだ。イングラムでは血の繋がりが重要であると、そう解釈してみた」
レナートも兄王の考えがなんとなく読めてきた。
「それよりも。頼んでいたあの件はどうなったんだ?」
レナートもこれから生まれてくる我が子を、政略の駒にしたいわけではない。兄王の言いたいことも狙いもなんとなくわかるが、今はまだそれには触れたくない。
だから話題を変えた。
「ウリヤナの実家。カール子爵家の件だろう? 『暗』を使った」
『暗』とは、王の直下で動かせる者たち。表には立たず、裏でひっそりと任務をこなす。時と場合によっては、人の命を奪うこともある。それはもちろん、王族に害をなすと判断された者たちであるが。とにかく、汚い仕事を一手に受ける者たちでもある。
旅先の宿で一緒になった。この一言で十分なのだ。
「レナート、ひとりか?」
夕食後のこの時間は、レナートもウリヤナも互いに一人の時間を過ごす。
「それで? なんの用だ? さっさと帰れと言っただろう?」
レナートの執務室にやって来たのは、ランベルトだった。
「レナート、ひどい。お兄ちゃん、泣いちゃう」
「三十過ぎた男が気持ち悪いな。ロイ、このうるさい兄を黙らせてやってくれ」
「はいはい」
レナートのこの言葉が、お茶を淹れて菓子でも出してやれと意訳できるのは、ロイくらいである。
彼が手際よくお茶を出すと、ランベルトは不思議そうに目を見開く。
「まぁ、そういう意味です」
ぼそりとロイがつぶやき、ランベルトは目を細めた。
「ウリヤナの側にいなくていいのか?」
「ロイ。黙らせろと言っただろ?」
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レナートはロイとランベルトを一瞥してから、小さく息を吐いた。
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「少しくらい、お前ののろけ話を聞かせてくれてもいいだろ? あぁ、怖い怖い……わかったよ、さっさと本題に入ろう」
ふとランベルトの目が鋭くなる。
イングラム国ではここ最近、不作が続いている。詳しく調べていくと、その発端はウリヤナが力を失った時期と繋がった。なんの因果関係があるのかわからないが。
そのイングラム国は、ローレムバ国に助けを求めてきたのだ。
魔術師の力を用いて、からからに乾いた土壌に潤いを与えてほしい。水害のあった場所の再建に力を貸してほしい。
その書簡が届き、ランベルトは返事を一筆したためた。
『力を貸してほしければ、ローレムバの属国になれ――』
それは、レナートがイングラム国王に突きつけられた言葉でもある。だから、ランベルトが同じ言葉を返したのだ。
「今回、書簡を送ってきたのは、王太子なんだよな。王太子ってアレだろ? お前のウリヤナの」
ウリヤナは王太子クロヴィスと婚約をしていた。それはイングラム国内でも知らない者はいないほどの話であり、その婚約が解消されたのも同様である。
「つまり、お前の子の本当の父親というわけか?」
ランベルトはいちいち突っかかる言い方をしてくる。きっとレナートの反応を見て楽しもうとしているのだ。だから、それにはのらない。
「だったら、どうする?」
「いや、どうもしない。ローレムバにとって重要なのは、魔力の繋がりだ。あれだけお前の魔力になじんでいるあの子は、誰がどう見てもお前の子だな。だが、イングラムではそうでもないのだろう?」
イングラム国は少なくとも胎児に魔力を注ぐような行為はしないようだ。魔力を注ぐ行為については、ウリヤナもレナートの話を聞いて、驚いたくらいである。
「つまりだ。イングラムでは血の繋がりが重要であると、そう解釈してみた」
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「それよりも。頼んでいたあの件はどうなったんだ?」
レナートもこれから生まれてくる我が子を、政略の駒にしたいわけではない。兄王の言いたいことも狙いもなんとなくわかるが、今はまだそれには触れたくない。
だから話題を変えた。
「ウリヤナの実家。カール子爵家の件だろう? 『暗』を使った」
『暗』とは、王の直下で動かせる者たち。表には立たず、裏でひっそりと任務をこなす。時と場合によっては、人の命を奪うこともある。それはもちろん、王族に害をなすと判断された者たちであるが。とにかく、汚い仕事を一手に受ける者たちでもある。
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