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13.彼女たちが微笑ましい日(2)

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 ロイの言葉に安心したのか、レナートは目尻をやわらげた。この表情を見て、ロイにもピンとくるところはあった。だけど、それを口にするとややこしくなるので、まずは少しずつレナートの気持ちを確かめがほうがいいだろう。

『それで、なぜ彼女の子の父親になろうと思ったのですか?』
『俺には子が望めないだろう? そして彼女の子には父親がいない。利害が一致した』

 気を抜いていたら、盛大にすっ転んだ。だが、レナートとはこういう男であることをわかっていたはず。

『その理屈はわかりました』

 理屈と言ったが、頭に『へ』をつけてやろうかと思ったくらいでもある。

『ですが、レナート様が彼女の子の父親になった場合、ウリヤナ様とは夫婦という形になるのが自然かと思いますが、そこはどうお考えですか?』
『夫婦……』
『そうです。つまり、ウリヤナ様とご結婚される気があるということですよね?』
『そ、それは……』

 こんなレナートを初めて見た。

『わかりました、わかりました。それ以上はもういいです』

 見ているこっちのほうが恥ずかしい。

 道中、ロイはそれとなくウリヤナを観察した。それはもちろん、レナートの相手として相応しい女性であるかどうかを見極めるためである。

 だが、それをすぐにやめた。ウリヤナもレナートにまんざらではないらしい。
 人を好きになるのは、きっかけが大事なのかもしれない。そしてレナートはそのきっかけに気づいていない。だから、見ているこっちのほうが恥ずかしいのだ。

 ローレムバ国への入国手続きにあたって、少々面倒くさいのがウリヤナの存在であった。彼女がイングラム国の人間であるからだ。

『ウリヤナ様が、前もってレナート様と婚姻関係があれば、手続きも楽になるんですけどねぇ』

 それとなく、レナートの前でぼやいてみた。その結果が、あれだった。

 そしてザフロス伯邸に戻ってきた途端、彼はウリヤナと結婚したと報告したのだ。
 屋敷の者には、相手はイングラム国のウリヤナ・カール子爵令嬢であると伝えている。聖女であったとは、いっさい口にしない。それでも、ウリヤナはレナートの相手として問題はないはず。

 問題があるとしたら、結婚した事実をあらゆる先に報告しなければならないことくらい。

『お披露目とか結婚式とか、どうなさる予定なのですか?』

 ロイが尋ねると、レナートは『問題ない』と答える。

『レナート様はそうおっしゃいますが、国王陛下が黙っているとは思えません』
『わかった。とりあえず黙らせてくる。明日、王都へと向かう。どちらにしろ、今回の件をいろいろと報告しなければならないからな』
『ウリヤナ様はどうされるのですか?』
『あの状態で連れていくわけにはいかないだろう。俺だけ行く。俺が留守の間、ウリヤナを頼む』
『え? 私がレナート様にお供しなくてもいいと?』
『他の者を連れていく』

 そう言っていた彼は、本当に他の従者を連れて王都へ行き、国王からたくさんの祝いの品をもらって帰ってきた。

『黙らせるのはできなかった。とにかく、うるさい男だ』

 だが、国王がああだこうだとうるさかったのは『文句』のためでなく『祝い』のためであったと、大量の品を見て理解した。

 とにかくこれで、レナートの結婚をうるさく文句を言う者はいないだろう。

 そもそも彼は、結婚とは縁のない男と言われ続けていた。
 理由は、彼の魔力が強すぎて、子を望めないからである。それでも血の繋がりよりも魔力の繋がりを重要視するこの国にとって、それらの解決策はいくつかあるのだが、レナート本人がそれを拒んでいた。

 となれば、やっぱり結婚に縁がない。

 それなのに、ふらっと隣国で結婚して帰ってきた。
 相手の女性をどうやってかどわかしてきたのだ、とまで言われる始末。
 それぐらい、彼の結婚はこの国にとって衝撃的な出来事であったのだ。

 そんな衝撃的な出来事が起こってから、穏やかに月日が流れている。
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