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9.彼女と別れた日(2)

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 情けないことをした。

『お父様。イーモンのことは私も気づいていたのです。それを見て見ぬふりをした私にも責任があります。まずは、領民のことを第一に考えましょう。お金はないよりもあったほうがよいですが、それは命があってのことですよ』

 ウリヤナは年頃の娘であるのに、誘われた茶会などは欠席するようになった。それは、カール子爵夫人も同様に。
 そしてあまった時間で、二人でウリヤナのデビュタントのドレスを仕立てていた。その二人の間に、悲観した様子など微塵も感じられなかった。

『私、お母様のドレスを着たいわ』

 それがウリヤナなりの優しさの一つだとはわかりつつも、どうしても資金の捻出ができないカール子爵は、その言葉をありがたく受け取った。

 母娘ふたりでドレスを仕上げるのは楽しいようで、貧しい食事が並ぶようになっても、屋敷の中だけは明るさが漂う。時折漏れ出る笑い声が、室内を照らすようにも感じられた。

 そうやって、質素な生活が続く中、王族から資金援助の話が飛び込んできた。

 願ってもない話ではあるが、その条件がウリヤナを王太子クロヴィスの婚約者とすることだった。

 普通なら喜ぶべき話である。しかし、カール子爵は警戒した。
 なによりもイーモンが騙された儲け話の先に、クロヴィスの側近であるアルフィーの名があったからだ。
 それにこの状況で、ウリヤナが王太子の婚約者として相応しいとも思えない。

 カール子爵は、角が立たないように、「少し考えさせてほしい」と、連絡する。

 それ以降、王家からはなんの返事もなかった。だからといって、怒っている様子もない。丸くおさまったと、カール子爵は胸をなでおろした。
 王家の話にのっておくべきだったかと思う日もあったが、ウリヤナには心から好きになった人と一緒になってもらいたいという願いもあった。

 だからあのときの対応は、あれで間違えていなかった。




 この国では十六歳の成人を迎えると、魔力鑑定を受けるのが慣例である。デビュタントを迎える女性は、そのときに。男性は十六歳の誕生日に神殿に足を向ける。

 それは平民であっても同じで、彼らにとっても十六歳の誕生日は特別であり、神殿で魔力鑑定を受けると共に成人を祝う場でもある。

 魔力は大なり小なり誰でも備えているもの。そういった魔力鑑定ができる者は、神殿で神官として務めることが多い。

 魔力鑑定をする目的は、特別な魔力を持つ者を見つけると共に、魔導具の使い方を教えるためでもある。
 魔導具は生活に根付いている便利な道具であるため、一部からは生活具とも呼ばれている。
 その魔導具を使用するには魔力が必要であり、使う者の魔力が消費される。

 また、魔力には属性があるので、魔導具との相性もあった。使用者の魔力と魔導具の相性が悪く、事故にもなったという報告もあるくらい。もしくは、誤った使い方をして、という報告もある。
 そういったことを防ぐためにも、魔力が落ち着く成人をむかえるこの時期に、魔力鑑定を受ける習わしとなった、と言われている。

 となれば、ウリヤナも例外ではない。

 国王に挨拶をしたあと、緊張した面持ちで別室へと移動する。
 そこには魔力鑑定をする神官と、彼の補佐をする者たちがいた。

『立派だったよ、ウリヤナ。誰よりも輝いていた』

 けして豪奢なドレスとは言えないが、それでも母と娘、ふたりで手直ししたドレスは、誰にも引けを取らなかった。国王に挨拶した姿も、練習の成果が発揮できたと思っている。それすら、親の欲目かもしれないが。

『……お父様?』

 普段は強がっている彼女であるが、どこか不安そうに視線を泳がせていた。
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