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4.彼女と出会った日(4)
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男の子を呼んだつもりだが、残念ながら名前を知らない。
「名前は?」
「おじさん。人に名前をきくときは、自分の名前からだよ」
少し後ろをついてくる彼の母親がヒヤヒヤしている様子が伝わってくる。だが、レナートは子どもが嫌いではない。ただ、子どもが勝手に怯えるだけなのだ。
「そうか。それは失礼した。俺の名はレナート・ザフロス。おじさんではない」
むしろ最後の一言が一番伝えたかった言葉でもある。
「ぼくはマシュー」
歩くたびに抱きかかえているウリヤナの身体がずり落ちてくる。もう一度抱え直す。
「そうか、マシュー。いい子だな」
マシューもそう言われて悪い気はしないようだ。
レナートはできるだけ人の少ない道を選んで歩いていたつもりだった。だが、人々が忙しく行き交い、声が響く。
炎の勢いは弱まり、周囲への影響の心配は減った。
それでもまだ火種はくすぶっているし、何よりも爆発した原因を探らねばならないだろう。
「ところでマシュー。俺に助けを求めたのは、お前か? ずっと心の中で助けてと叫んでいただろう?」
「うん。おねえちゃんを助けてって思ってた。おじさん……」
「レナートだ」
「レナートには、ぼくの心の声が聞こえたの?」
「そうだな……。マシュー、お前は魔法が使えるのか?」
ぷるぷると小刻みに首を横に振る。
「この子はまだ、魔法が使えません」
母親がそっと口を添える。魔法が使えないというのは、生活魔法を使えないという意味だろう。となれば、高等魔術の思念伝達魔法を使えるはずもない。
いや、本人が気づかぬだけで、無意識にという場合もある。
「そうか……だが、俺にはマシューの声が聞こえたんだ。もしかしたら、将来、俺と同じように魔術師になれるかもしれないな」
「おじさんは……」
「レナートだ」
「レナートは、魔術師なの?」
「そうだ」
「あの……」
またそこで母親が口を挟む。
「この子は、それほど魔力が強くないのです。ですから、この子の声が聞こえたというのであれば、それはレナート様の力によるものではないのでしょうか……」
期待されても困る。そういった思いが母親からは伝わってきた。
「そうかもしれないな」
レナートもそう思い始めていた。直接マシューと会って、彼からは大した魔力を感じられなかったのだ。無意識に思念伝達魔法を使ったというのも考えにくいだろう。
――もしかして、彼女の力なのか?
腕の中で気を失っている、ウリヤナという女性。魔力がないのに魔法を使った。そして、感じるもう一つの力。
とにかく彼女は興味深い。
宿に戻ると、エントランスですぐさまロイに見つかってしまった。
彼はレナート付きの従者であり、レナートが出かける場所には漏れなくついてくる。
「レナート様。いったいどこから出て、どちらに行っていたのですか? 今、そこの宿が爆発したと大騒ぎです。それに、こちらの方々は……」
いつもであればツンツンと尖っている彼の茶色の髪が乱れているのは、走り回ってレナートを探していたからだろう。少し、息もあがっているようだ。それでもレナートの姿を見て安心したのか、目尻をふと緩めた。
彼の立場を考えれば、これだけ焦るのも無理はない。悪いことをしたと思いつつも、まずは彼らをなんとかしなければ。
「まあ、詳しい話は後だ。俺が借りている部屋、隣の間が空いていたよな?」
「はい」
「そこにこの母子を」
「こちらの女性は?」
ロイの視線は、レナートが抱えているウリヤナで止まる。
「少し治療する必要がある」
ロイは「承知しました」と深く腰を折ると、母子を部屋へと案内する。
レナートは、腕に抱えているウリヤナを抱きなおした。
「名前は?」
「おじさん。人に名前をきくときは、自分の名前からだよ」
少し後ろをついてくる彼の母親がヒヤヒヤしている様子が伝わってくる。だが、レナートは子どもが嫌いではない。ただ、子どもが勝手に怯えるだけなのだ。
「そうか。それは失礼した。俺の名はレナート・ザフロス。おじさんではない」
むしろ最後の一言が一番伝えたかった言葉でもある。
「ぼくはマシュー」
歩くたびに抱きかかえているウリヤナの身体がずり落ちてくる。もう一度抱え直す。
「そうか、マシュー。いい子だな」
マシューもそう言われて悪い気はしないようだ。
レナートはできるだけ人の少ない道を選んで歩いていたつもりだった。だが、人々が忙しく行き交い、声が響く。
炎の勢いは弱まり、周囲への影響の心配は減った。
それでもまだ火種はくすぶっているし、何よりも爆発した原因を探らねばならないだろう。
「ところでマシュー。俺に助けを求めたのは、お前か? ずっと心の中で助けてと叫んでいただろう?」
「うん。おねえちゃんを助けてって思ってた。おじさん……」
「レナートだ」
「レナートには、ぼくの心の声が聞こえたの?」
「そうだな……。マシュー、お前は魔法が使えるのか?」
ぷるぷると小刻みに首を横に振る。
「この子はまだ、魔法が使えません」
母親がそっと口を添える。魔法が使えないというのは、生活魔法を使えないという意味だろう。となれば、高等魔術の思念伝達魔法を使えるはずもない。
いや、本人が気づかぬだけで、無意識にという場合もある。
「そうか……だが、俺にはマシューの声が聞こえたんだ。もしかしたら、将来、俺と同じように魔術師になれるかもしれないな」
「おじさんは……」
「レナートだ」
「レナートは、魔術師なの?」
「そうだ」
「あの……」
またそこで母親が口を挟む。
「この子は、それほど魔力が強くないのです。ですから、この子の声が聞こえたというのであれば、それはレナート様の力によるものではないのでしょうか……」
期待されても困る。そういった思いが母親からは伝わってきた。
「そうかもしれないな」
レナートもそう思い始めていた。直接マシューと会って、彼からは大した魔力を感じられなかったのだ。無意識に思念伝達魔法を使ったというのも考えにくいだろう。
――もしかして、彼女の力なのか?
腕の中で気を失っている、ウリヤナという女性。魔力がないのに魔法を使った。そして、感じるもう一つの力。
とにかく彼女は興味深い。
宿に戻ると、エントランスですぐさまロイに見つかってしまった。
彼はレナート付きの従者であり、レナートが出かける場所には漏れなくついてくる。
「レナート様。いったいどこから出て、どちらに行っていたのですか? 今、そこの宿が爆発したと大騒ぎです。それに、こちらの方々は……」
いつもであればツンツンと尖っている彼の茶色の髪が乱れているのは、走り回ってレナートを探していたからだろう。少し、息もあがっているようだ。それでもレナートの姿を見て安心したのか、目尻をふと緩めた。
彼の立場を考えれば、これだけ焦るのも無理はない。悪いことをしたと思いつつも、まずは彼らをなんとかしなければ。
「まあ、詳しい話は後だ。俺が借りている部屋、隣の間が空いていたよな?」
「はい」
「そこにこの母子を」
「こちらの女性は?」
ロイの視線は、レナートが抱えているウリヤナで止まる。
「少し治療する必要がある」
ロイは「承知しました」と深く腰を折ると、母子を部屋へと案内する。
レナートは、腕に抱えているウリヤナを抱きなおした。
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