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4.彼女と出会った日(3)
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止血していた女性から布地を受け取り、傷口をきつく縛り上げる。そこに、固定魔法をかけたので、しばらくすれば血も止まるだろう。これで止まらないようであれば、縫う必要がある。
怪我をすぐに治せるような魔法はない。それは、『聖なる力』と呼ばれる領域である。
「お前の姉なのか?」
男の子に尋ねると、彼は勢いよく首を横に振った。あまりにも激しくて、首が外れてしまうのではと心配になるほど。
「おねえちゃんは、馬車でいっしょになった」
爆発した簡易宿は、馬車移動の中継点にも使われていたようだ。
「ぼくたち、ソクーレにいくところ」
「ウリヤナさんはソクーレに向かわれていたのです。その馬車で一緒になりました」
先ほどまで倒れていた女性の止血をしていた女性は男の子の母親なのだろう。男の子の言葉を補足するかのように口を開いた。
「ウリヤナ……」
目を閉じたままの彼女の名を口にする。どこかで聞いたことがあるような名。心の中がざわつく。
だが、それよりも気になっていることはある。
「そういえば、先ほど。彼女が助けてくれたと言っていたが?」
爆発規模のわりには怪我人が少ない。それがレナートの印象である。だから、男の子のその言葉が気になったのだ。
できるだけ圧を与えぬよう、穏やかな口調を心掛けて、男の子に向かって尋ねた。子どもは嫌いではないのだが、子どものほうから恐れられるのがレナートという男でもある。
「はい。ウリヤナさんが魔法を使って、私たちを助けてくれたのです。だから、私たちもこうやって……」
母親が答えてくれるなら、レナートとしても助かる。
「だが、彼女は……」
ウリヤナという女性からは魔力がいっさい感じられなかった。それでも彼女が魔法を使ったと言う。
母親の言葉には矛盾があるが、当の本人はそれにすら気づいていないのだろう。他人の魔力の有無、優劣を感じ取れるのも、魔術師と呼ばれるほどの魔力を持ち合わせていないとできない。
それにウリヤナからは、もう一つ別の力を感じる。
そのとき、はっきりとした口調の大きな声が響いた。いつの間にか複数の男性がやってきていたのだ。
「おい、君たち。宿にいた者たちか?」
身に着けている物から察するに、彼らは騎士団の人間である。
レナートはウリヤナを抱き上げた。彼女をこのままここに置いておくわけにはいかない。
「ソクーレに行くと言っていたな」
男の子に声をかけると、彼は大きく頷く。
「ついてこい。今日、泊まる場所くらいなら提供してやる」
「おかあさん……」
男の子は女性の袖口を引っ張る。
「遠慮するな。それに彼女の手当てもしたい。お前たちの命の恩人なのではないのか?」
「おかあさん……」
くいくいっと男の子が引っ張ると、母親も観念したかのように立ち上がった。足元にあった荷物を両手に抱え込む。
「こいつらは俺の連れだ。悪いがつれていく」
レナートが側にいた騎士に声をかけると、相手も怪訝そうに眉間に皺を寄せる。
「俺の名は、レナート・ザフロス。そこの宿に泊まっている。何かあれば、そこにこい」
「いや、だが……」
「ここの宿にいた者は、全員無事だ。多少の怪我はあるがな。それよりも、この爆発を起こした犯人を捕まえるほうが先ではないのか?」
騎士団が現れた途端、不審な動きをしている男がいる。走って逃げられないのは、足を怪我したのだろう。それでも這うようにして、ここから距離を取ろうとしているのだ。見るからに不審者である。
騎士の男はレナートの視線の先に気づいたのか、この場からなんとか逃げ出そうとしている小太りの男へと身体を向けた。
小太りの男に一斉に人が集まり、彼を拘束した。
それを見届けたレナートは、男の子を見やる。
「おい、お前」
怪我をすぐに治せるような魔法はない。それは、『聖なる力』と呼ばれる領域である。
「お前の姉なのか?」
男の子に尋ねると、彼は勢いよく首を横に振った。あまりにも激しくて、首が外れてしまうのではと心配になるほど。
「おねえちゃんは、馬車でいっしょになった」
爆発した簡易宿は、馬車移動の中継点にも使われていたようだ。
「ぼくたち、ソクーレにいくところ」
「ウリヤナさんはソクーレに向かわれていたのです。その馬車で一緒になりました」
先ほどまで倒れていた女性の止血をしていた女性は男の子の母親なのだろう。男の子の言葉を補足するかのように口を開いた。
「ウリヤナ……」
目を閉じたままの彼女の名を口にする。どこかで聞いたことがあるような名。心の中がざわつく。
だが、それよりも気になっていることはある。
「そういえば、先ほど。彼女が助けてくれたと言っていたが?」
爆発規模のわりには怪我人が少ない。それがレナートの印象である。だから、男の子のその言葉が気になったのだ。
できるだけ圧を与えぬよう、穏やかな口調を心掛けて、男の子に向かって尋ねた。子どもは嫌いではないのだが、子どものほうから恐れられるのがレナートという男でもある。
「はい。ウリヤナさんが魔法を使って、私たちを助けてくれたのです。だから、私たちもこうやって……」
母親が答えてくれるなら、レナートとしても助かる。
「だが、彼女は……」
ウリヤナという女性からは魔力がいっさい感じられなかった。それでも彼女が魔法を使ったと言う。
母親の言葉には矛盾があるが、当の本人はそれにすら気づいていないのだろう。他人の魔力の有無、優劣を感じ取れるのも、魔術師と呼ばれるほどの魔力を持ち合わせていないとできない。
それにウリヤナからは、もう一つ別の力を感じる。
そのとき、はっきりとした口調の大きな声が響いた。いつの間にか複数の男性がやってきていたのだ。
「おい、君たち。宿にいた者たちか?」
身に着けている物から察するに、彼らは騎士団の人間である。
レナートはウリヤナを抱き上げた。彼女をこのままここに置いておくわけにはいかない。
「ソクーレに行くと言っていたな」
男の子に声をかけると、彼は大きく頷く。
「ついてこい。今日、泊まる場所くらいなら提供してやる」
「おかあさん……」
男の子は女性の袖口を引っ張る。
「遠慮するな。それに彼女の手当てもしたい。お前たちの命の恩人なのではないのか?」
「おかあさん……」
くいくいっと男の子が引っ張ると、母親も観念したかのように立ち上がった。足元にあった荷物を両手に抱え込む。
「こいつらは俺の連れだ。悪いがつれていく」
レナートが側にいた騎士に声をかけると、相手も怪訝そうに眉間に皺を寄せる。
「俺の名は、レナート・ザフロス。そこの宿に泊まっている。何かあれば、そこにこい」
「いや、だが……」
「ここの宿にいた者は、全員無事だ。多少の怪我はあるがな。それよりも、この爆発を起こした犯人を捕まえるほうが先ではないのか?」
騎士団が現れた途端、不審な動きをしている男がいる。走って逃げられないのは、足を怪我したのだろう。それでも這うようにして、ここから距離を取ろうとしているのだ。見るからに不審者である。
騎士の男はレナートの視線の先に気づいたのか、この場からなんとか逃げ出そうとしている小太りの男へと身体を向けた。
小太りの男に一斉に人が集まり、彼を拘束した。
それを見届けたレナートは、男の子を見やる。
「おい、お前」
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