25 / 27
番外編
化けちゃった(2)
しおりを挟む
「ちなみに、詰め物はどうしますか?」
「詰め物?」
「胸の」
「ああ。普通で」
「普通って。普通っていうのが一番わかりません」
「では、君と同じサイズで頼む」
いっそのこと、いつもと同じように「大きめで」言ってくれた方が楽なのに、とメメルは心の中で呟く。それに自分と同じサイズってどういうこと、と。これではガレットに胸のサイズを知られてしまうじゃないか、と。
そう思ったメメルは、自分のサイズよりも少し多めに盛ってみた。
「どうでしょう?」
「ああ。文句の付け所が無いくらい、素晴らしい。この鏡に映っている美女は誰だ、と自分でも思うな」
「でしたら、その口調も気を付けた方がいいですね。もっと女性らしく」
「わかりました、気を付けます」
とガレットが声色を変えて言うものだから、メメルもドキリとしてしまう。
「ねえ、メメル?」
本来ならば上目遣いで言うべきものなのだろう。だが、メメルの方が彼よりも背が低いため見下ろされてしまう。それでもドキリとしてしまうのだから、上目遣いで見られた日には、その辺の男はころりといってしまうだろう。
「一緒に夕飯、食べに行かない?」
「あら、いいですね。団長のおごりですよね、もちろん」
「そうね。これの御礼もしないとね」
ガレットの言う「これ」とは女装の手伝いのことだろう。
「では、すぐに片付けますから、少しお待ちいただいてもいいですか?」
ガレットは「ああ」と頷くが、思わずそれが素であったため、慌てて「ええ」と頷いた。そんなガレットが楽しくて、メメルもつい笑みをこぼしてしまう。
「はい。お待たせしました」
と言うメメルもいつの間にか、着替えていたらしい。といっても、薬師としてのローブを脱いだだけだが。
「では、いきますか」
ガレットが手を差し出してきた。
さて、この手が意味するところはなんだろう、とメメルは考えるのだが。
「団長。まさか、女性同士で手を繋ぐ、という意味でしょうか?」
「ああ、すまない。つい」
「団長。言葉が」
「ええ、そうね。久しぶり過ぎるから、なかなか慣れないわね。そういうあなたも、私のことを団長と呼ぶのはやめなさい」
「でしたら、どのようにお呼びすればいいかしら?」
メメルは首を傾けてガレットを見上げた。勝手に女性の名前をつけても、呼び慣れないとボロが出る。
「あ、お姉さまとお呼びしてもよろしいですか? 私も、お姉さまが欲しかったのです。シャンにお姉さまと呼ばれるのは嬉しいのですが、私も呼ぶ方になってみたかったのです。ね、お姉さま?」
「悪くはない、な」
「ほらほら、お姉さま。言葉遣いには気を付けましょうね」
言うと、メメルはガレットの腕に両手を絡ませた。やれやれ、という視線でガレットはメメルを見下ろした。うん、悪くはない。
「メメル。食べたい物はあるかしら? お姉さまが御馳走してあげる」
「そうですねぇ」
唇に人差し指を当てながら考え込むメメルは、実年齢よりも幼く見える。うん、悪くはない。
悪くはないのだが、ガレットが気になるところとしては、彼女のために一番目の妻の座を空けてあるのだが、それにまったく喰いついてくれないということだろう。
「どうかしましたか、お姉さま」
「いいえ。どこに行こうかな、と考えていたのよ」
今はまだこの関係でも悪くはない。
「詰め物?」
「胸の」
「ああ。普通で」
「普通って。普通っていうのが一番わかりません」
「では、君と同じサイズで頼む」
いっそのこと、いつもと同じように「大きめで」言ってくれた方が楽なのに、とメメルは心の中で呟く。それに自分と同じサイズってどういうこと、と。これではガレットに胸のサイズを知られてしまうじゃないか、と。
そう思ったメメルは、自分のサイズよりも少し多めに盛ってみた。
「どうでしょう?」
「ああ。文句の付け所が無いくらい、素晴らしい。この鏡に映っている美女は誰だ、と自分でも思うな」
「でしたら、その口調も気を付けた方がいいですね。もっと女性らしく」
「わかりました、気を付けます」
とガレットが声色を変えて言うものだから、メメルもドキリとしてしまう。
「ねえ、メメル?」
本来ならば上目遣いで言うべきものなのだろう。だが、メメルの方が彼よりも背が低いため見下ろされてしまう。それでもドキリとしてしまうのだから、上目遣いで見られた日には、その辺の男はころりといってしまうだろう。
「一緒に夕飯、食べに行かない?」
「あら、いいですね。団長のおごりですよね、もちろん」
「そうね。これの御礼もしないとね」
ガレットの言う「これ」とは女装の手伝いのことだろう。
「では、すぐに片付けますから、少しお待ちいただいてもいいですか?」
ガレットは「ああ」と頷くが、思わずそれが素であったため、慌てて「ええ」と頷いた。そんなガレットが楽しくて、メメルもつい笑みをこぼしてしまう。
「はい。お待たせしました」
と言うメメルもいつの間にか、着替えていたらしい。といっても、薬師としてのローブを脱いだだけだが。
「では、いきますか」
ガレットが手を差し出してきた。
さて、この手が意味するところはなんだろう、とメメルは考えるのだが。
「団長。まさか、女性同士で手を繋ぐ、という意味でしょうか?」
「ああ、すまない。つい」
「団長。言葉が」
「ええ、そうね。久しぶり過ぎるから、なかなか慣れないわね。そういうあなたも、私のことを団長と呼ぶのはやめなさい」
「でしたら、どのようにお呼びすればいいかしら?」
メメルは首を傾けてガレットを見上げた。勝手に女性の名前をつけても、呼び慣れないとボロが出る。
「あ、お姉さまとお呼びしてもよろしいですか? 私も、お姉さまが欲しかったのです。シャンにお姉さまと呼ばれるのは嬉しいのですが、私も呼ぶ方になってみたかったのです。ね、お姉さま?」
「悪くはない、な」
「ほらほら、お姉さま。言葉遣いには気を付けましょうね」
言うと、メメルはガレットの腕に両手を絡ませた。やれやれ、という視線でガレットはメメルを見下ろした。うん、悪くはない。
「メメル。食べたい物はあるかしら? お姉さまが御馳走してあげる」
「そうですねぇ」
唇に人差し指を当てながら考え込むメメルは、実年齢よりも幼く見える。うん、悪くはない。
悪くはないのだが、ガレットが気になるところとしては、彼女のために一番目の妻の座を空けてあるのだが、それにまったく喰いついてくれないということだろう。
「どうかしましたか、お姉さま」
「いいえ。どこに行こうかな、と考えていたのよ」
今はまだこの関係でも悪くはない。
1
お気に入りに追加
2,665
あなたにおすすめの小説
美貌の騎士団長は逃げ出した妻を甘い執愛で絡め取る
束原ミヤコ
恋愛
旧題:夫の邪魔になりたくないと家から逃げたら連れ戻されてひたすら愛されるようになりました
ラティス・オルゲンシュタットは、王国の七番目の姫である。
幻獣種の血が流れている幻獣人である、王国騎士団団長シアン・ウェルゼリアに、王を守った褒章として十五で嫁ぎ、三年。
シアンは隣国との戦争に出かけてしまい、嫁いでから話すこともなければ初夜もまだだった。
そんなある日、シアンの恋人という女性があらわれる。
ラティスが邪魔で、シアンは家に戻らない。シアンはずっとその女性の家にいるらしい。
そう告げられて、ラティスは家を出ることにした。
邪魔なのなら、いなくなろうと思った。
そんなラティスを追いかけ捕まえて、シアンは家に連れ戻す。
そして、二度と逃げないようにと、監禁して調教をはじめた。
無知な姫を全力で可愛がる差別種半人外の騎士団長の話。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
【完結】【R18】男色疑惑のある公爵様の契約妻となりましたが、気がついたら愛されているんですけれど!?
夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
「俺と結婚してくれたら、衣食住完全補償。なんだったら、キミの実家に支援させてもらうよ」
「え、じゃあ結婚します!」
メラーズ王国に住まう子爵令嬢マーガレットは悩んでいた。
というのも、元々借金まみれだった家の財政状況がさらに悪化し、ついには没落か夜逃げかという二択を迫られていたのだ。
そんな中、父に「頼むからいい男を捕まえてこい!」と送り出された舞踏会にて、マーガレットは王国の二大公爵家の一つオルブルヒ家の当主クローヴィスと出逢う。
彼はマーガレットの話を聞くと、何を思ったのか「俺と契約結婚しない?」と言ってくる。
しかし、マーガレットはためらう。何故ならば……彼には男色家だといううわさがあったのだ。つまり、形だけの結婚になるのは目に見えている。
そう思ったものの、彼が提示してきた条件にマーガレットは飛びついた。
そして、マーガレットはクローヴィスの(契約)妻となった。
男色家疑惑のある自由気ままな公爵様×貧乏性で現金な子爵令嬢。
二人がなんやかんやありながらも両想いになる勘違い話。
◆hotランキング 10位ありがとうございます……!
――
◆掲載先→アルファポリス、ムーンライトノベルズ、エブリスタ
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
クソつよ性欲隠して結婚したら草食系旦那が巨根で絶倫だった
山吹花月
恋愛
『穢れを知らぬ清廉な乙女』と『王子系聖人君子』
色欲とは無縁と思われている夫婦は互いに欲望を隠していた。
◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。
冷酷無比な国王陛下に愛されすぎっ! 絶倫すぎっ! ピンチかもしれませんっ!
仙崎ひとみ
恋愛
子爵家のひとり娘ソレイユは、三年前悪漢に襲われて以降、男性から劣情の目で見られないようにと、女らしいことを一切排除する生活を送ってきた。
18歳になったある日。デビュタントパーティに出るよう命じられる。
噂では、冷酷無悲な独裁王と称されるエルネスト国王が、結婚相手を探しているとか。
「はあ? 結婚相手? 冗談じゃない、お断り」
しかし両親に頼み込まれ、ソレイユはしぶしぶ出席する。
途中抜け出して城庭で休んでいると、酔った男に絡まれてしまった。
危機一髪のところを助けてくれたのが、何かと噂の国王エルネスト。
エルネストはソレイユを気に入り、なんとかベッドに引きずりこもうと企む。
そんなとき、三年前ソレイユを助けてくれた救世主に似た男性が現れる。
エルネストの弟、ジェレミーだ。
ジェレミーは思いやりがあり、とても優しくて、紳士の鏡みたいに高潔な男性。
心はジェレミーに引っ張られていくが、身体はエルネストが虎視眈々と狙っていて――――
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。