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1巻
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序章 一夜のあやまち
閉ざされていた赤い目をゆっくりと開けると、見知らぬ男性の顔が視界に飛び込んできた。
(どこかで見た顔……)
ぼんやりとした頭で彼のことを思い出す。
(あ、そうか……)
そこにいた男は、働いている酒場に定期的に訪れている客だ。
金色の襟足の長い髪が印象的である。
だが、名前は知らない。そんな関係の相手。
視線だけを動かし、場所と時間を確認する。
恐らく、まだ夜。むしろ深夜だろう。
部屋はシンと静まり返り、なんの音も聞こえない。
部屋の天窓から見える外は、暗い。星が一つだけ輝いている。
そろりと動くと、足の間からどろりとした温かいものが流れ出た。少しだけ、下腹部がずきずきとする。
(こ、これは……。やっちゃったってことよね……)
ベッドの上で身じろぐと、男の空色の目がパチリと開いた。
「ん? 起きたのか?」
(どうしよう。この人に気づかれる前に帰ろうと思ったのに)
焦っている気持ちを相手に悟られてはならない。心の中を見透かされてはならない。それはいつも彼女が心がけていること。
「起こしてしまいましたか?」
淑女を装い、笑顔で答えてみた。
「君の可愛らしい寝顔を見ていただけだ」
彼はそう口にするが、間違いなくその目は閉じていた。
もしかして、薄く目を開けていたのだろうか。
彼女はそういった甘い言葉には慣れていない。
そもそも男性と二人きりで夜を過ごすことなど、今までなかった。
(っていうか、私。なんでこの人といるの?)
彼女自身もそれがわからなかった。そして、なぜ行為に及んだのかさえも思い出せない。
(初めてだったのに……)
その行為すら、初めての経験だった。だから彼を受け入れた部分が、まだ痛む。
「どうかしたのか?」
彼女にとって見知らぬ男性――ではなく、微妙になんとなく知っている男性が声をかけてきた。
彼はなかなか整った顔立ちをしており、爽やかさよりも野性味溢れる男である。
流行りの言葉にのせるのであれば、ワイルドイケメンだろう。
(微妙に好みなのよね。私の周囲にはいないタイプだし。って、ただでさえ流されているのに、これ以上流されてどうするの)
心の中で強く自分に言い聞かせる。
「お風呂に入ろうかな、と思いまして……」
彼女は、恥じらいながら答えた。身体が少し汗ばんでいる。特に太腿と下腹部辺りは、さまざまな体液で汚れている感じがした。
その言葉を耳にした彼は微かに笑って起き上がり、彼女を抱き上げた。
「え、あ、あの……」
横抱きにされた彼女は、戸惑うことしかできない。いつの間にか解かれた黒色の髪は、ふわりと波打っている。
「先ほどは、無理をさせたか?」
彼にも彼女を気遣おうとする気持ちはあるらしい。
「あ、えと。まあ、はい」
返事に困った。だが、そうやって狼狽えていると、額に唇を落とされる。
彼は優しく微笑みながら、彼女を抱いて移動する。
そんな中、彼女は悟った。
(ああ、やっぱり……。ここはそういうところなのね)
そういうところとは、男女の営みをする宿泊所だ。
彼女としては、とにかくここから逃げるタイミングを見つけたかった。このまま朝までここでというのは勘弁願いたいし、仕事にも支障が出ると思ったからだ。
(あ、でも明日は遅番だった。って、朝帰りしたら、あいつらからなんて言われるかわかったもんじゃないし……)
心配の種は仕事ではなく、むしろあいつらなのだ。
彼に抱かれたまま、浴室へと連れていかれる。
元々二人とも服など着ていない。彼がうしろから彼女を抱きかかえるようにして湯の張ってある浴槽に一緒に入った。
営みをする宿泊所なだけあり、どうやら風呂はいつでも入れるらしい。
彼女の首元に彼の吐息が触れる。
うしろから伸びてきている彼の手は、彼女のお腹の上で重なっている。その手は次第に腹部を撫で上げてから脇腹にも触れ、さらに胸元と上がっていき二つの膨らみを弄び始めた。
「もう、やめてください……」
いつもならば、肘鉄砲を食らわせるところなのだが、この微妙に見知った男性にそんなことはできない。むしろ、ここにいる自分はいつもの自分ではない。
今は、ただの酒場の女性店員なのだ。
チュッチュッと音を立てながら、彼は肩から背中にかけて赤い印をつけていく。それは彼女が自分のものだと示すような行為にすら見えた。
その間、両手は膨らみを揉みしだき、さらに先端を指でつまむ。
お尻にはなにか硬いものが当たる。これがなにか、彼女は知っている。
「こちらを向いて。キスをしたい」
(なにを言っているんだろう。だからといって、ただやりたいだけ、のようにも思えないし……)
そう思いつつも、彼から求められる喜びが心の底にあるのも事実だった。
ただそれを認めたくないだけ。なにしろ、相手は名前も知らない微妙に見知った男性なのだから。
ふわりと脇の下に両手を入れられ、お湯による浮力もあって、くるりと軽々向きを変えられた。彼と向かい合う。
(これは、不可抗力よ。そう、不可抗力)
男が彼女の唇に食らいつく。下の硬いものは、確実にそこを狙っている。彼が与える心地よさに身を任せながらも、頭の中ではどこか冷静な自分もいた。
(もう、逃げようがないじゃない)
退路は断たれた。
「はぁ、シェイン。君は可愛い」
可愛いと言われることも慣れていない。だから、ものすごく恥ずかしい。
さらに彼女の頭は、彼からもたらされる快感によって蕩け始める。
(シェインって誰? あ、私の偽名……)
自分の名前すら忘れるほど、彼の行為は気持ちがいい。
「……あん、……ふ」
あまりにも的確に攻められてしまったためか、甘い声が漏れてしまう。
両脇に差し込まれた彼の手が身体をふわりと浮かせ、下は彼女を狙って侵入してきた。
「あっ」
「もう、とろとろだ。すぐに奥まで入る……」
気づいた時には、すでに男が体内に入ってきた後だった。
蠱惑的な笑みを浮かべた彼は、彼女の身体を上下に揺すり始める。お湯はパシャパシャと波打ち、揺れる乳房が水面を叩きつける。
「はぁ。君の中は気持ちがいい。うねって、俺に絡みつく」
「あんっ……。ん……」
ふたたび男が唇を貪り始めた。さらに彼の唇は徐々に首元、鎖骨へと下がり、最終的には胸を狙う。すでに屹ち上がっている先端を口の中へと含み、舌で弄ぶ。
(ダメ……)
何度も押し寄せてくる快感に、彼女の頭はぼんやりと白くなっていく。
「もっと俺を感じて」
仄白く霞む頭では、その言葉に従おうとさえ思えてくる。
(彼を、感じる……)
受け入れている場所がきゅんと疼く。
言われなくても感じている。流されているのか、自分の意思なのか。それすらもわからない。
拒みたいのに拒めない。なぜか彼を受け入れてしまうし、彼から求められることすら嬉しいと感じる。
「そんなに俺を締め付けて。悪い子だな」
彼がパクリと乳輪に噛みついた。
「あ、あぁ……」
彼女はぎゅっと彼を締め上げる。
それが彼の引き金を引いた。
「くっ、俺も、出る……っ」
熱い飛沫がお腹の中に放たれ、じんわりと体内が満たされていく。
動きはやんだ。
ドクドクと伝わる互いの鼓動。
浴槽の湯はゆっくりとパシャパシャと波打ち、黒色の髪が水面に広がっていた。
先ほどの激しさが嘘であったかのように静寂が訪れる。
くたりとその頭を彼の胸に預けることしかできずにいると、耳元にふっと息を吹きかけられた。
ちょっとくすぐったくて、頭を軽く振る。
「すまない……。また、中に出してしまった」
彼の低い声の囁きに、ざわりと粟立つ。
わざわざ言葉で確認をしなくても、なにを出されたのかはすぐに理解できた。
「責任は取るから」
その言葉に驚いて、胸から頭を離し彼を見上げた。目が合う。
優しく微笑んでいる彼。名前も知らない彼。
(やばい、やばい、やばい、やばい……)
彼女の心臓はカンカンカンと早鐘を打っていた。彼にドキドキしているのは、心ときめくドキドキではなく、とにかく『やばい』ほうのドキドキである。
急に夢から覚めてしまったような気分でもある。
(とにかく、逃げないと。責任を取られても困る)
その気持ちを彼には知られないようにと、無理やり笑顔を作った。
「あまり長湯をしていると、のぼせてしまうな」
彼は柔らかな笑みを向けてくる。
(のぼせ上がっているのは、あなた様のほうですよ)
そう思っているものの、頭も心もすっかりと蕩けてしまった彼女は、それを口にすることすらできない。
浮力を感じなくなったのは、彼に抱き上げられたからだ。
浴槽から出て、タイル敷の床の上に立った。
足の間からは、なにやらいろいろと流れ出てきた。髪の毛の先のほうからも、ポタポタと雫が垂れている。
(あぁ……、こんなに出てる……。もう、消えたい)
羞恥のあまり、この世界から消え去りたくなった。
先に浴室から出た彼が、タオルを手渡してきた。
「あ……、ありがとう、ございます」
タオルが冷たいと感じるのは、顔や身体が火照っているからだろう。やはり、のぼせてしまったようだ。
ひんやりとしたタオルで身体中のさまざまな水分を拭きあげていく。彼女を濡らしているものがなんなのか、もはやわからない。
辺りを見回しても、着替えのようなものはなにもない。
仕方なく、バスタオルを巻きつけてベッドのある部屋へと向かった。
そこにはすでに彼がいて、片手にグラスを持っている。
「喉、渇いてないか?」
グラスの中に入っているのは透明な液体であり、表面にはビッチリと水滴がついていた。
「あ、はい」
彼は液体の入ったグラスを一気に口の中へと含めると、そのまま彼女へと口づける。
(普通に飲ませてほしいんだけど)
そんな彼女の心の声は彼に届くわけはない。そして、それを受け入れた彼女は、口移しされたままゴクリと飲んでしまった。
「はぁ」
思わずため息が零れ落ちてしまう。
「感じたのか?」
愉悦に満ちた表情で見下ろしている彼は、彼女の吐息が色っぽいと思ったようだ。
(違うから)
心の中ではいくらでも反論できるのに、それが言葉になることはなかった。
「すみません。少し、休ませてください」
その本音だけは、言葉になった。
「お水をもう一杯、いただけないでしょうか」
彼はくすっと笑いながら、冷たい水の入ったグラスを手渡す。
それを受け取り、大きく息を吐いた。
「無理をさせたか」
上から見下ろしてくる彼は、彼女よりも頭一つ大きい。恐らく、彼の身長は百八十センチを超えているだろう。彼女だって、身長は百六十センチを超えているため、女性の中では小さいほうではないのだ。
「はい」
今度は真面目に答えた。
「君は、正直者だな」
そこでまた彼はくすりと笑った。
「寝るか?」
彼は笑いながら尋ねてくる。この場合の『寝る』は、どのような意味を含めているのか。
「えっと……」
答えに詰まっていると、彼はまた優しい笑みを浮かべる。
「本当は朝まで君を抱きつぶしたいところだが、俺も、明日は朝から予定があるからな。この場合の『寝る』は、普通に寝るだ。だけど、できることなら、君を抱きしめて眠りたい」
チャンスかもしれない。そう、ここから逃げ出すチャンスだ。
(本当に朝まで一緒にって、勘弁願いたい。朝帰りだけは、絶対にまずいんだって)
「はい」
彼女は恥じいるような声で返事をしてみたが、今だってかなり恥ずかしい格好をしている。
「あの、下着をつけてもいいですか?」
なぜか彼に許可を求めてしまった。
「ああ。むしろ、そうしてくれないと、俺も我慢ができなさそうだ」
(なんのだよ)
心の中ではそう言えるが、やはりその言葉が口から出てくることはない。上目遣いで彼を睨むことしかできなかった。
その辺に投げ捨てられていた下着を拾うと、急いで身に着けた。
それから、少し離れた場所にあるワンピースも手にすると、綺麗に折りたたんでソファの上に置いた。この時、ワンピースのポケットから白い錠剤を手にすることを忘れない。彼に背を向け、それは下着をつけた胸元に隠す。
彼はすでにベッドで横になっていて、ぽんぽんとシーツの上を叩いている。恐らく『そこに寝ろ』という合図だろう。
「失礼します」
彼女が律儀に挨拶をすると、彼はまた柔らかく微笑んだ。
間違いなく彼は好意を抱いてくれている。
彼女も彼が嫌いではない。彼を受け入れてしまったのがなによりの証拠だ。
彼の胸元に入り込むと、背中に優しく手を添えられた。
「今日は、いい夢が見られそうだ」
目を細め、彼女を見つめる。
「私もです」
彼女もニコリと笑って答えた。だがすでに彼女にとっての悪夢は始まっている。
「あの。すみません、お名前をお聞きしておりませんでした」
男の名を呼ぼうとしたが、彼の名は知らない。
名前も知らないのに、よくここまで流されてしまったと思う。
「レイだ。君にはそう呼んでほしい」
「レイ様。お休みの口づけを」
そのおねだりに気をよくしたらしい。レイは口角をあげてから、深く口づける。
その隙に、先ほどの白い錠剤を口移しで彼に飲ませる。
「シェイン……。君、今、なにを飲ませた?」
彼は喉元を駆け抜けていく違和感に気がついたのだろう。
「安心してください。悪いものではありませんから。いい夢が見られるお薬です」
白い錠剤はただの睡眠薬だ。
「シェイン……?」
「おやすみなさい、レイ様。いい夢を」
レイの瞼がすっかりと閉じられる様子を見送った彼女は、足早にその部屋から逃げ出した。
第一章 名前も知らない男
(やばい、やばい、やばい――)
黒色の髪をなびかせて、彼女は走っていた。
シェインという名は偽名である。彼女の本名はシャンテル・ハウスラー。こう見えても騎士団に所属する女性騎士であり、学生時代は成績優等生であった。
大陸の中央に位置するハヌーブ国。
国民たちは魔導具と呼ばれる魔力を用いた道具によって、不自由のない生活を送っていた。
だがここ数年、東の隣国であるザウボ国とは冷戦状態であり、国内では緊迫した空気が張り詰めていた。そこに派遣された騎士団が、一夜にしてザウボ軍を制圧してしまったというのは、有名な話である。
このハヌーブ国には二つの騎士団がある。一つは王族や要人警護を行う『黄金騎士団』。もう一つは王都や地方の警備を主に担当する『白銀騎士団』。ザウボ軍を制圧したのは、そのうちの白銀騎士団であった。
さらに、騎士団のほかに魔法を扱える者たちで構成される『魔導士団』もある。
黄金騎士団、白銀騎士団、そして魔導士団。ハヌーブ国は、これらによって秩序を守られている国なのだ。
だがシャンテルが所属している騎士団はその二つのどちらでもないし、魔導士団でもなかった。国王陛下直属の組織。闇に紛れて情報を操るのが主な仕事であり、少しだけ手の汚れるような仕事もする『漆黒騎士団』である。
黄金騎士団も白銀騎士団も魔導士団も、漆黒騎士団の存在を知らない。漆黒騎士団とは、それだけ存在を秘密裏にされている組織なのだ。
普段は王族に仕える事務官として仕事をこなしている漆黒騎士団の面々。もちろん、シャンテルもそのうちの一人であり、昨夜は漆黒騎士団としての潜入調査だったはずなのに――
(なんだったんだろう、あの人)
残念なことに、まだお腹の下になにやら違和感がある。
まんまとやられてしまった。だけど、ちょっとだけ好みの顔だったという気持ちもあった。
完全に流されてしまった。間違いなく、あの顔にやられたのだ。
抵抗したけれど、抵抗になっていなかったのだろう。なぜなら、彼女は本気で抵抗したわけではなかったのだ。
やられたのはあの顔だけではなかった。
(シャンテル一生の不覚)
自分でもそう思うような出来事だった。
そんなことを考えながら、シャンテルは裏門から王城内に侵入し、自分の部屋へと足を向けた。
この建物一角が男女の別なく漆黒騎士団に所属する騎士たちの個人部屋になっている。表向きは賓客用の客室棟だ。
だから、ほかの者たちに気づかれないように、音を立てずにこっそりと部屋の扉を開けたつもりだったのだが――
「今、帰り?」
隣の部屋のローガン・シモンスが扉を開けて、ぬーっと顔だけ出してきた。
「あ、うん。おはよう、ロー」
「おはようって、まだ深夜だけど」
「じゃ、おやすみ」
そう言って、シャンテルは誤魔化そうとした。すぐにでも扉を閉めて、彼から逃げたかった。
彼は鋭いのだ。
「そういうことじゃないんだけど。ま、いいや。もう遅いからさっさと寝なよ。起きたら、話、聞かせてもらうから」
ローガンはシャンテルと漆黒騎士団に同期で入団した。だけど、二人の関係はそれだけにとどまらない。
彼の見た目は、爽やか事務官である。さらさらの茶色の髪と柔らかな茶色の瞳。その美貌を武器にし、女性からの情報収集能力に長けている。
一般的な女性は、彼の見た目に大いに騙される。彼自身、それを自覚していて一種の特技でもあった。
「じゃ、ゆっくり休みなよ」
ふわっと欠伸を漏らしたローガンは、パタンと扉を閉めて消えた。
シャンテルはローガンに気づかれないように乾いたため息をついてから、部屋に入った。
「疲れた」
思わずそう声が漏れてしまう。
疲れたというその言葉が、一番状況を説明するのに適している。
もう一度風呂に入りたい気分だったが、夜中だし、隣の部屋はローガンであるため、なにを言われるかわからない。
(もう、寝るしかないね)
シャンテルは、そのままパタリとベッドに倒れ込んだ。
とにかく、すべてを忘れたい。眠って目が覚めた時、この記憶がなくなっていればいいのに。
そう思いながら瞼を閉じれば、すぐに眠りに落ちた。
コンコンコン、コンコンコン――
シャンテルは、一定のリズムで扉を叩く音で目が覚めた。
瞼が半分しか開いていない状態で、ベッドからふらふらと立ち上がって扉を開けると、その扉のむこう側にはローガンが立っていた。
「おそよう、シャン。もうお昼だからさ。そろそろ食堂に行かないと、昼飯食いっぱぐれるけど。って、その格好じゃ行けないね」
「ほえ?」
声を発したシャンテルはもちろん寝ぼけている。
閉ざされていた赤い目をゆっくりと開けると、見知らぬ男性の顔が視界に飛び込んできた。
(どこかで見た顔……)
ぼんやりとした頭で彼のことを思い出す。
(あ、そうか……)
そこにいた男は、働いている酒場に定期的に訪れている客だ。
金色の襟足の長い髪が印象的である。
だが、名前は知らない。そんな関係の相手。
視線だけを動かし、場所と時間を確認する。
恐らく、まだ夜。むしろ深夜だろう。
部屋はシンと静まり返り、なんの音も聞こえない。
部屋の天窓から見える外は、暗い。星が一つだけ輝いている。
そろりと動くと、足の間からどろりとした温かいものが流れ出た。少しだけ、下腹部がずきずきとする。
(こ、これは……。やっちゃったってことよね……)
ベッドの上で身じろぐと、男の空色の目がパチリと開いた。
「ん? 起きたのか?」
(どうしよう。この人に気づかれる前に帰ろうと思ったのに)
焦っている気持ちを相手に悟られてはならない。心の中を見透かされてはならない。それはいつも彼女が心がけていること。
「起こしてしまいましたか?」
淑女を装い、笑顔で答えてみた。
「君の可愛らしい寝顔を見ていただけだ」
彼はそう口にするが、間違いなくその目は閉じていた。
もしかして、薄く目を開けていたのだろうか。
彼女はそういった甘い言葉には慣れていない。
そもそも男性と二人きりで夜を過ごすことなど、今までなかった。
(っていうか、私。なんでこの人といるの?)
彼女自身もそれがわからなかった。そして、なぜ行為に及んだのかさえも思い出せない。
(初めてだったのに……)
その行為すら、初めての経験だった。だから彼を受け入れた部分が、まだ痛む。
「どうかしたのか?」
彼女にとって見知らぬ男性――ではなく、微妙になんとなく知っている男性が声をかけてきた。
彼はなかなか整った顔立ちをしており、爽やかさよりも野性味溢れる男である。
流行りの言葉にのせるのであれば、ワイルドイケメンだろう。
(微妙に好みなのよね。私の周囲にはいないタイプだし。って、ただでさえ流されているのに、これ以上流されてどうするの)
心の中で強く自分に言い聞かせる。
「お風呂に入ろうかな、と思いまして……」
彼女は、恥じらいながら答えた。身体が少し汗ばんでいる。特に太腿と下腹部辺りは、さまざまな体液で汚れている感じがした。
その言葉を耳にした彼は微かに笑って起き上がり、彼女を抱き上げた。
「え、あ、あの……」
横抱きにされた彼女は、戸惑うことしかできない。いつの間にか解かれた黒色の髪は、ふわりと波打っている。
「先ほどは、無理をさせたか?」
彼にも彼女を気遣おうとする気持ちはあるらしい。
「あ、えと。まあ、はい」
返事に困った。だが、そうやって狼狽えていると、額に唇を落とされる。
彼は優しく微笑みながら、彼女を抱いて移動する。
そんな中、彼女は悟った。
(ああ、やっぱり……。ここはそういうところなのね)
そういうところとは、男女の営みをする宿泊所だ。
彼女としては、とにかくここから逃げるタイミングを見つけたかった。このまま朝までここでというのは勘弁願いたいし、仕事にも支障が出ると思ったからだ。
(あ、でも明日は遅番だった。って、朝帰りしたら、あいつらからなんて言われるかわかったもんじゃないし……)
心配の種は仕事ではなく、むしろあいつらなのだ。
彼に抱かれたまま、浴室へと連れていかれる。
元々二人とも服など着ていない。彼がうしろから彼女を抱きかかえるようにして湯の張ってある浴槽に一緒に入った。
営みをする宿泊所なだけあり、どうやら風呂はいつでも入れるらしい。
彼女の首元に彼の吐息が触れる。
うしろから伸びてきている彼の手は、彼女のお腹の上で重なっている。その手は次第に腹部を撫で上げてから脇腹にも触れ、さらに胸元と上がっていき二つの膨らみを弄び始めた。
「もう、やめてください……」
いつもならば、肘鉄砲を食らわせるところなのだが、この微妙に見知った男性にそんなことはできない。むしろ、ここにいる自分はいつもの自分ではない。
今は、ただの酒場の女性店員なのだ。
チュッチュッと音を立てながら、彼は肩から背中にかけて赤い印をつけていく。それは彼女が自分のものだと示すような行為にすら見えた。
その間、両手は膨らみを揉みしだき、さらに先端を指でつまむ。
お尻にはなにか硬いものが当たる。これがなにか、彼女は知っている。
「こちらを向いて。キスをしたい」
(なにを言っているんだろう。だからといって、ただやりたいだけ、のようにも思えないし……)
そう思いつつも、彼から求められる喜びが心の底にあるのも事実だった。
ただそれを認めたくないだけ。なにしろ、相手は名前も知らない微妙に見知った男性なのだから。
ふわりと脇の下に両手を入れられ、お湯による浮力もあって、くるりと軽々向きを変えられた。彼と向かい合う。
(これは、不可抗力よ。そう、不可抗力)
男が彼女の唇に食らいつく。下の硬いものは、確実にそこを狙っている。彼が与える心地よさに身を任せながらも、頭の中ではどこか冷静な自分もいた。
(もう、逃げようがないじゃない)
退路は断たれた。
「はぁ、シェイン。君は可愛い」
可愛いと言われることも慣れていない。だから、ものすごく恥ずかしい。
さらに彼女の頭は、彼からもたらされる快感によって蕩け始める。
(シェインって誰? あ、私の偽名……)
自分の名前すら忘れるほど、彼の行為は気持ちがいい。
「……あん、……ふ」
あまりにも的確に攻められてしまったためか、甘い声が漏れてしまう。
両脇に差し込まれた彼の手が身体をふわりと浮かせ、下は彼女を狙って侵入してきた。
「あっ」
「もう、とろとろだ。すぐに奥まで入る……」
気づいた時には、すでに男が体内に入ってきた後だった。
蠱惑的な笑みを浮かべた彼は、彼女の身体を上下に揺すり始める。お湯はパシャパシャと波打ち、揺れる乳房が水面を叩きつける。
「はぁ。君の中は気持ちがいい。うねって、俺に絡みつく」
「あんっ……。ん……」
ふたたび男が唇を貪り始めた。さらに彼の唇は徐々に首元、鎖骨へと下がり、最終的には胸を狙う。すでに屹ち上がっている先端を口の中へと含み、舌で弄ぶ。
(ダメ……)
何度も押し寄せてくる快感に、彼女の頭はぼんやりと白くなっていく。
「もっと俺を感じて」
仄白く霞む頭では、その言葉に従おうとさえ思えてくる。
(彼を、感じる……)
受け入れている場所がきゅんと疼く。
言われなくても感じている。流されているのか、自分の意思なのか。それすらもわからない。
拒みたいのに拒めない。なぜか彼を受け入れてしまうし、彼から求められることすら嬉しいと感じる。
「そんなに俺を締め付けて。悪い子だな」
彼がパクリと乳輪に噛みついた。
「あ、あぁ……」
彼女はぎゅっと彼を締め上げる。
それが彼の引き金を引いた。
「くっ、俺も、出る……っ」
熱い飛沫がお腹の中に放たれ、じんわりと体内が満たされていく。
動きはやんだ。
ドクドクと伝わる互いの鼓動。
浴槽の湯はゆっくりとパシャパシャと波打ち、黒色の髪が水面に広がっていた。
先ほどの激しさが嘘であったかのように静寂が訪れる。
くたりとその頭を彼の胸に預けることしかできずにいると、耳元にふっと息を吹きかけられた。
ちょっとくすぐったくて、頭を軽く振る。
「すまない……。また、中に出してしまった」
彼の低い声の囁きに、ざわりと粟立つ。
わざわざ言葉で確認をしなくても、なにを出されたのかはすぐに理解できた。
「責任は取るから」
その言葉に驚いて、胸から頭を離し彼を見上げた。目が合う。
優しく微笑んでいる彼。名前も知らない彼。
(やばい、やばい、やばい、やばい……)
彼女の心臓はカンカンカンと早鐘を打っていた。彼にドキドキしているのは、心ときめくドキドキではなく、とにかく『やばい』ほうのドキドキである。
急に夢から覚めてしまったような気分でもある。
(とにかく、逃げないと。責任を取られても困る)
その気持ちを彼には知られないようにと、無理やり笑顔を作った。
「あまり長湯をしていると、のぼせてしまうな」
彼は柔らかな笑みを向けてくる。
(のぼせ上がっているのは、あなた様のほうですよ)
そう思っているものの、頭も心もすっかりと蕩けてしまった彼女は、それを口にすることすらできない。
浮力を感じなくなったのは、彼に抱き上げられたからだ。
浴槽から出て、タイル敷の床の上に立った。
足の間からは、なにやらいろいろと流れ出てきた。髪の毛の先のほうからも、ポタポタと雫が垂れている。
(あぁ……、こんなに出てる……。もう、消えたい)
羞恥のあまり、この世界から消え去りたくなった。
先に浴室から出た彼が、タオルを手渡してきた。
「あ……、ありがとう、ございます」
タオルが冷たいと感じるのは、顔や身体が火照っているからだろう。やはり、のぼせてしまったようだ。
ひんやりとしたタオルで身体中のさまざまな水分を拭きあげていく。彼女を濡らしているものがなんなのか、もはやわからない。
辺りを見回しても、着替えのようなものはなにもない。
仕方なく、バスタオルを巻きつけてベッドのある部屋へと向かった。
そこにはすでに彼がいて、片手にグラスを持っている。
「喉、渇いてないか?」
グラスの中に入っているのは透明な液体であり、表面にはビッチリと水滴がついていた。
「あ、はい」
彼は液体の入ったグラスを一気に口の中へと含めると、そのまま彼女へと口づける。
(普通に飲ませてほしいんだけど)
そんな彼女の心の声は彼に届くわけはない。そして、それを受け入れた彼女は、口移しされたままゴクリと飲んでしまった。
「はぁ」
思わずため息が零れ落ちてしまう。
「感じたのか?」
愉悦に満ちた表情で見下ろしている彼は、彼女の吐息が色っぽいと思ったようだ。
(違うから)
心の中ではいくらでも反論できるのに、それが言葉になることはなかった。
「すみません。少し、休ませてください」
その本音だけは、言葉になった。
「お水をもう一杯、いただけないでしょうか」
彼はくすっと笑いながら、冷たい水の入ったグラスを手渡す。
それを受け取り、大きく息を吐いた。
「無理をさせたか」
上から見下ろしてくる彼は、彼女よりも頭一つ大きい。恐らく、彼の身長は百八十センチを超えているだろう。彼女だって、身長は百六十センチを超えているため、女性の中では小さいほうではないのだ。
「はい」
今度は真面目に答えた。
「君は、正直者だな」
そこでまた彼はくすりと笑った。
「寝るか?」
彼は笑いながら尋ねてくる。この場合の『寝る』は、どのような意味を含めているのか。
「えっと……」
答えに詰まっていると、彼はまた優しい笑みを浮かべる。
「本当は朝まで君を抱きつぶしたいところだが、俺も、明日は朝から予定があるからな。この場合の『寝る』は、普通に寝るだ。だけど、できることなら、君を抱きしめて眠りたい」
チャンスかもしれない。そう、ここから逃げ出すチャンスだ。
(本当に朝まで一緒にって、勘弁願いたい。朝帰りだけは、絶対にまずいんだって)
「はい」
彼女は恥じいるような声で返事をしてみたが、今だってかなり恥ずかしい格好をしている。
「あの、下着をつけてもいいですか?」
なぜか彼に許可を求めてしまった。
「ああ。むしろ、そうしてくれないと、俺も我慢ができなさそうだ」
(なんのだよ)
心の中ではそう言えるが、やはりその言葉が口から出てくることはない。上目遣いで彼を睨むことしかできなかった。
その辺に投げ捨てられていた下着を拾うと、急いで身に着けた。
それから、少し離れた場所にあるワンピースも手にすると、綺麗に折りたたんでソファの上に置いた。この時、ワンピースのポケットから白い錠剤を手にすることを忘れない。彼に背を向け、それは下着をつけた胸元に隠す。
彼はすでにベッドで横になっていて、ぽんぽんとシーツの上を叩いている。恐らく『そこに寝ろ』という合図だろう。
「失礼します」
彼女が律儀に挨拶をすると、彼はまた柔らかく微笑んだ。
間違いなく彼は好意を抱いてくれている。
彼女も彼が嫌いではない。彼を受け入れてしまったのがなによりの証拠だ。
彼の胸元に入り込むと、背中に優しく手を添えられた。
「今日は、いい夢が見られそうだ」
目を細め、彼女を見つめる。
「私もです」
彼女もニコリと笑って答えた。だがすでに彼女にとっての悪夢は始まっている。
「あの。すみません、お名前をお聞きしておりませんでした」
男の名を呼ぼうとしたが、彼の名は知らない。
名前も知らないのに、よくここまで流されてしまったと思う。
「レイだ。君にはそう呼んでほしい」
「レイ様。お休みの口づけを」
そのおねだりに気をよくしたらしい。レイは口角をあげてから、深く口づける。
その隙に、先ほどの白い錠剤を口移しで彼に飲ませる。
「シェイン……。君、今、なにを飲ませた?」
彼は喉元を駆け抜けていく違和感に気がついたのだろう。
「安心してください。悪いものではありませんから。いい夢が見られるお薬です」
白い錠剤はただの睡眠薬だ。
「シェイン……?」
「おやすみなさい、レイ様。いい夢を」
レイの瞼がすっかりと閉じられる様子を見送った彼女は、足早にその部屋から逃げ出した。
第一章 名前も知らない男
(やばい、やばい、やばい――)
黒色の髪をなびかせて、彼女は走っていた。
シェインという名は偽名である。彼女の本名はシャンテル・ハウスラー。こう見えても騎士団に所属する女性騎士であり、学生時代は成績優等生であった。
大陸の中央に位置するハヌーブ国。
国民たちは魔導具と呼ばれる魔力を用いた道具によって、不自由のない生活を送っていた。
だがここ数年、東の隣国であるザウボ国とは冷戦状態であり、国内では緊迫した空気が張り詰めていた。そこに派遣された騎士団が、一夜にしてザウボ軍を制圧してしまったというのは、有名な話である。
このハヌーブ国には二つの騎士団がある。一つは王族や要人警護を行う『黄金騎士団』。もう一つは王都や地方の警備を主に担当する『白銀騎士団』。ザウボ軍を制圧したのは、そのうちの白銀騎士団であった。
さらに、騎士団のほかに魔法を扱える者たちで構成される『魔導士団』もある。
黄金騎士団、白銀騎士団、そして魔導士団。ハヌーブ国は、これらによって秩序を守られている国なのだ。
だがシャンテルが所属している騎士団はその二つのどちらでもないし、魔導士団でもなかった。国王陛下直属の組織。闇に紛れて情報を操るのが主な仕事であり、少しだけ手の汚れるような仕事もする『漆黒騎士団』である。
黄金騎士団も白銀騎士団も魔導士団も、漆黒騎士団の存在を知らない。漆黒騎士団とは、それだけ存在を秘密裏にされている組織なのだ。
普段は王族に仕える事務官として仕事をこなしている漆黒騎士団の面々。もちろん、シャンテルもそのうちの一人であり、昨夜は漆黒騎士団としての潜入調査だったはずなのに――
(なんだったんだろう、あの人)
残念なことに、まだお腹の下になにやら違和感がある。
まんまとやられてしまった。だけど、ちょっとだけ好みの顔だったという気持ちもあった。
完全に流されてしまった。間違いなく、あの顔にやられたのだ。
抵抗したけれど、抵抗になっていなかったのだろう。なぜなら、彼女は本気で抵抗したわけではなかったのだ。
やられたのはあの顔だけではなかった。
(シャンテル一生の不覚)
自分でもそう思うような出来事だった。
そんなことを考えながら、シャンテルは裏門から王城内に侵入し、自分の部屋へと足を向けた。
この建物一角が男女の別なく漆黒騎士団に所属する騎士たちの個人部屋になっている。表向きは賓客用の客室棟だ。
だから、ほかの者たちに気づかれないように、音を立てずにこっそりと部屋の扉を開けたつもりだったのだが――
「今、帰り?」
隣の部屋のローガン・シモンスが扉を開けて、ぬーっと顔だけ出してきた。
「あ、うん。おはよう、ロー」
「おはようって、まだ深夜だけど」
「じゃ、おやすみ」
そう言って、シャンテルは誤魔化そうとした。すぐにでも扉を閉めて、彼から逃げたかった。
彼は鋭いのだ。
「そういうことじゃないんだけど。ま、いいや。もう遅いからさっさと寝なよ。起きたら、話、聞かせてもらうから」
ローガンはシャンテルと漆黒騎士団に同期で入団した。だけど、二人の関係はそれだけにとどまらない。
彼の見た目は、爽やか事務官である。さらさらの茶色の髪と柔らかな茶色の瞳。その美貌を武器にし、女性からの情報収集能力に長けている。
一般的な女性は、彼の見た目に大いに騙される。彼自身、それを自覚していて一種の特技でもあった。
「じゃ、ゆっくり休みなよ」
ふわっと欠伸を漏らしたローガンは、パタンと扉を閉めて消えた。
シャンテルはローガンに気づかれないように乾いたため息をついてから、部屋に入った。
「疲れた」
思わずそう声が漏れてしまう。
疲れたというその言葉が、一番状況を説明するのに適している。
もう一度風呂に入りたい気分だったが、夜中だし、隣の部屋はローガンであるため、なにを言われるかわからない。
(もう、寝るしかないね)
シャンテルは、そのままパタリとベッドに倒れ込んだ。
とにかく、すべてを忘れたい。眠って目が覚めた時、この記憶がなくなっていればいいのに。
そう思いながら瞼を閉じれば、すぐに眠りに落ちた。
コンコンコン、コンコンコン――
シャンテルは、一定のリズムで扉を叩く音で目が覚めた。
瞼が半分しか開いていない状態で、ベッドからふらふらと立ち上がって扉を開けると、その扉のむこう側にはローガンが立っていた。
「おそよう、シャン。もうお昼だからさ。そろそろ食堂に行かないと、昼飯食いっぱぐれるけど。って、その格好じゃ行けないね」
「ほえ?」
声を発したシャンテルはもちろん寝ぼけている。
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