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番外編
明けちゃった(4)
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「レイ様、レイ様。ここ、座ってください」
シャンテルが椅子の一つを勧めてきたため、軽くため息をついてからくベッドから降り、彼女が勧めるその椅子に座った。何やらこのテーブルには毛布がかけられている。
「ここ、ここ。ここに足をいれてみてください」
グレイクは仕方なく彼女の言葉に従う。言われた通り、毛布の中に足を入れてみると。
「なんだ、これ。温かいな」
「ですよね。この時期、足元が温かいと幸せじゃないですか? ということで、テーブル式暖房魔導具です」
両手を腰に当てて、エッヘンとシャンテルが胸を張っている。
やっぱり彼女は彼女だな、とグレイクは思ってしまった。この素直さに負けた。
それから手際よく、シャンテルはお茶とお菓子を準備した。未完成のジグソーパズルはそっとテーブルの隅の方に寄せる。
「どうぞ。いただきものですが。恐らく、レイ様は好きだと思います」
確信犯という言葉が似合うような笑顔を浮かべているシャンテルを、グレイクは目を逸らさずに真っすぐと見た。彼女に翻弄されている自分がいる、それは間違いない。
グレイクはお茶の入ったカップを口元まで運ぶ。香りが鼻孔をくすぐった。彼女が好きだと思うと言った言葉の意味がわかった。
「ああ、これは美味いな」
グレイクのその言葉を耳にしたシャンテルは破顔する。
「こちらもどうぞ」
すすっと、シャンテルはグレイクの前にお菓子を差し出した。
「これは、どうしたんだ?」
「これもいただきものなのですが。っていうか聞いてください、レイ様」
シャンテルが急に真面目な表情を浮かべたため、何事かと思ってグレイクも身構えてしまう。
「あの夜鳴亭の店長がですね。シェインの婚約祝いだと言って、お酒やらお茶やらお菓子やらを大量に送ってくるんです」
といっても店長が直接この宿舎に送ってくるわけではない。彼女がシェインとして潜入したときの身上書上に記載してある、とある場所へと送ってくる。そこは、潜入調査用にと準備されているとある場所だ。そこに物が届くと、漆黒の誰かが事務官として荷物を取りに行く、という地味な作業が発生する。
シャンテルがその荷物を取りに行くならいいのだが、ガレットあたりが散歩を兼ねて行ったときには。
「シャンテル。また、届いていたぞ? いい加減、断ったらどうだ」
と言われる始末。
「団長。シェインとしては、お断りし続けてるんですよ。店長の負担になるからって。そしたら、あの店長、なんて言ったと思いますか? 結婚するまで、毎月、送るからって言ったんですよ」
「だったら、さっさと結婚したらどうだ。グレイク殿もそれを望んでいるんだろう? それともなんだ。結婚できない理由でもあるのか? 私がいつ結婚するな、と言った? いつ結婚してもいいように、君を内勤専属にさせているだろう。むしろ、怪しい魔導具をたくさん作ってもらってかまわない」
そんな流れでできあがったのが、このテーブル式暖房魔導具。実はこれ、さりげなくガレットの執務室にもおいてある。ちょっと他の団員よりもお年を召しているガレットが「近頃、下半身が冷えるようになってきたんだよな」ということを口にし始めたためだ。
「というわけでですね。どうやら店長は私が結婚をするまで、こうやってお菓子やら飲み物やらを送ってくれるそうなのです。で、私がレイ様と婚約してそろそろ六月が経とうとしているのですが、いつになったら結婚という流れになるのでしょう。まあ、私はこの辺が疎いのでよくわからないのですが」
そこでシャンテルは、乾いた喉を潤すかのようにお茶を一口飲んだ。このお茶の香りを嗅いだ時、これはグレイクに飲ませてあげたいな、と思ったお茶。
「それで、レイ様が怒っていらっしゃる原因はなんでしょう?」
喉を潤し終えた彼女が、じっと上目遣いグレイクを見つめた。だが、見つめられた彼は「忘れた」と口にした。
夜勤を終え、シャンテルの顔を見にきたら、なぜかローガンがこの部屋にいた。家族のような彼であっても、彼女と共に年明けを過ごしたのかと思うと、なぜかやるせない気持ちになった。だから、あのような行動をとってしまったわけなのだが。
今は、なぜかその気持ちが落ち着いた。それはきっと、彼女の「話」に付き合ったからだ。
「そうですか。忘れてしまったのは仕方ないですね。ところでレイ様は年明けの鐘の音は聞かれましたか?」
「不本意ながら、陛下と共に、な」
「あれを聞くと、新しい年への喜びと期待が込み上げてきますよね」
「そうだな」
「来年は、一緒に聞けるといいですね」
だから、彼女のこういうところがずるいと思う。
シャンテルが椅子の一つを勧めてきたため、軽くため息をついてからくベッドから降り、彼女が勧めるその椅子に座った。何やらこのテーブルには毛布がかけられている。
「ここ、ここ。ここに足をいれてみてください」
グレイクは仕方なく彼女の言葉に従う。言われた通り、毛布の中に足を入れてみると。
「なんだ、これ。温かいな」
「ですよね。この時期、足元が温かいと幸せじゃないですか? ということで、テーブル式暖房魔導具です」
両手を腰に当てて、エッヘンとシャンテルが胸を張っている。
やっぱり彼女は彼女だな、とグレイクは思ってしまった。この素直さに負けた。
それから手際よく、シャンテルはお茶とお菓子を準備した。未完成のジグソーパズルはそっとテーブルの隅の方に寄せる。
「どうぞ。いただきものですが。恐らく、レイ様は好きだと思います」
確信犯という言葉が似合うような笑顔を浮かべているシャンテルを、グレイクは目を逸らさずに真っすぐと見た。彼女に翻弄されている自分がいる、それは間違いない。
グレイクはお茶の入ったカップを口元まで運ぶ。香りが鼻孔をくすぐった。彼女が好きだと思うと言った言葉の意味がわかった。
「ああ、これは美味いな」
グレイクのその言葉を耳にしたシャンテルは破顔する。
「こちらもどうぞ」
すすっと、シャンテルはグレイクの前にお菓子を差し出した。
「これは、どうしたんだ?」
「これもいただきものなのですが。っていうか聞いてください、レイ様」
シャンテルが急に真面目な表情を浮かべたため、何事かと思ってグレイクも身構えてしまう。
「あの夜鳴亭の店長がですね。シェインの婚約祝いだと言って、お酒やらお茶やらお菓子やらを大量に送ってくるんです」
といっても店長が直接この宿舎に送ってくるわけではない。彼女がシェインとして潜入したときの身上書上に記載してある、とある場所へと送ってくる。そこは、潜入調査用にと準備されているとある場所だ。そこに物が届くと、漆黒の誰かが事務官として荷物を取りに行く、という地味な作業が発生する。
シャンテルがその荷物を取りに行くならいいのだが、ガレットあたりが散歩を兼ねて行ったときには。
「シャンテル。また、届いていたぞ? いい加減、断ったらどうだ」
と言われる始末。
「団長。シェインとしては、お断りし続けてるんですよ。店長の負担になるからって。そしたら、あの店長、なんて言ったと思いますか? 結婚するまで、毎月、送るからって言ったんですよ」
「だったら、さっさと結婚したらどうだ。グレイク殿もそれを望んでいるんだろう? それともなんだ。結婚できない理由でもあるのか? 私がいつ結婚するな、と言った? いつ結婚してもいいように、君を内勤専属にさせているだろう。むしろ、怪しい魔導具をたくさん作ってもらってかまわない」
そんな流れでできあがったのが、このテーブル式暖房魔導具。実はこれ、さりげなくガレットの執務室にもおいてある。ちょっと他の団員よりもお年を召しているガレットが「近頃、下半身が冷えるようになってきたんだよな」ということを口にし始めたためだ。
「というわけでですね。どうやら店長は私が結婚をするまで、こうやってお菓子やら飲み物やらを送ってくれるそうなのです。で、私がレイ様と婚約してそろそろ六月が経とうとしているのですが、いつになったら結婚という流れになるのでしょう。まあ、私はこの辺が疎いのでよくわからないのですが」
そこでシャンテルは、乾いた喉を潤すかのようにお茶を一口飲んだ。このお茶の香りを嗅いだ時、これはグレイクに飲ませてあげたいな、と思ったお茶。
「それで、レイ様が怒っていらっしゃる原因はなんでしょう?」
喉を潤し終えた彼女が、じっと上目遣いグレイクを見つめた。だが、見つめられた彼は「忘れた」と口にした。
夜勤を終え、シャンテルの顔を見にきたら、なぜかローガンがこの部屋にいた。家族のような彼であっても、彼女と共に年明けを過ごしたのかと思うと、なぜかやるせない気持ちになった。だから、あのような行動をとってしまったわけなのだが。
今は、なぜかその気持ちが落ち着いた。それはきっと、彼女の「話」に付き合ったからだ。
「そうですか。忘れてしまったのは仕方ないですね。ところでレイ様は年明けの鐘の音は聞かれましたか?」
「不本意ながら、陛下と共に、な」
「あれを聞くと、新しい年への喜びと期待が込み上げてきますよね」
「そうだな」
「来年は、一緒に聞けるといいですね」
だから、彼女のこういうところがずるいと思う。
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