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番外編

明けちゃった(3)

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 浮上する意識とともに、身体の自由が利かないと思ったシャンテルは、その目をパッと開いた。

「……っひ」
 という悲鳴の上げ方がローガンと同じであったことに気付いたのは、グレイクだけだろう。だが彼も少し微睡みの世界を堪能しているらしい。そこから現実の世界に引き戻したのが、そのシャンテルの声。

「起きたのか?」
 シャンテルの目の前にグレイクの顔。そして、それがそう尋ねるのだが。

「え、と。レイ様。なんでここに? っていうか、ここ、私のベッド? あれ? 私、あっちで寝ちゃったような気もするのですが」

 シャンテルはこめかみに右手の人差し指を当て、ぐりぐりと押し付けながら記憶を呼び起こそうとしている。

「あそこで寝ていたら風邪をひくだろう。だから、こっちに連れてきた」
 と言うグレイクの両腕はしっかりとシャンテルの背中にまわっている。だから、彼女は自由が利かないのだ。

「いやいや、それよりもなぜ、レイ様が一緒に寝ているのでしょうか?」

 眠りに落ちるまでの過程をシャンテルは思い出そうとした。
 少し肌寒い外。一人ベランダでちょっといいお酒を飲みながら年明けの鐘の音を聞いていた。同じようにローガンも鐘の音を聞くために、外へ出てきたようだ。
 さすがにこの年末年始は、事務官としての通常の業務はお休みだ。だから、少しくらい夜更かしをしても構わない。さらに昔のことを思い出して、朝までパズルというくだらないことをやろうと提案してみた。それにローガンが乗っかってくれて、二人で美味しいお酒と美味しいお菓子をつまみながら、朝までジグソーパズルをやっていたはず、なのだが。

「私の記憶を思い起こしてみましたが、レイ様が登場するようなシーンはございませんでした」

「そうか。それは残念だ。ところで、朝までパズルとはなんだ?」

「え? どうしてそれを……」

「ローガン殿から聞いた」

 うーん、とシャンテルはまたこめかみをぐりぐりと指で押し付けた。

「もしかして、レイ様。怒っていらっしゃいます?」

「もしかしなくても、怒っている」

「ええと、ですね。私には、レイ様に怒られるようなことをしたという心当たりがまったく無いのですが」

 グレイクはがばっと身体を起こすと、彼女に覆いかぶさるようにその唇を奪った。口で息ができないくらいに、執拗にその口内を犯す。

「んっ……、ふっ……ん、んっ」

 組み敷いた彼女が両手でぽかぽかとグレイクの胸を叩いてきたので、彼は一度その唇を離し、身体も離し、シャンテルの両肩の脇に手をついて彼女を見下ろした。

「い、いきなり。な、な、何をなさるんですか」

「お仕置き」

「はぁああああ?」

 またシャンテルはこめかみをぐりぐりと押した。

「レイ様にお仕置きされるような心当たりはまったくございません」

「そういうところだ」

 グレイクが強引に彼女の頭を掴んで、さらにその唇を上に向かせようとしたことで、これから何をされるかを察したシャンテルは、自分の顔の前に両手を差し出した。

「俺を、拒むのか?」

「違います。きちんと話を聞いてください。そして、レイ様もきちんとお話をなさってください」

 シャンテルは膝を立て、その膝でグレイクの腹を押し退けた。そして、その少しの隙間でくるりと身体を回転させ、そのままコロンとベッドより降りる。

「レイ様、美味しいお茶とお菓子があります。ご一緒にいかがですか」

 今まで自分の下にいた彼女は、すでにベッド脇に立っている。そしてニッコリと笑ってそんなことを言う。彼女からそんなことを言われてしまったらグレイクに断る理由は無い。ここはきちんと彼女の言う「話」というものに付き合わなければならないだろう。
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