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愛していると言ってくれ(6)

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 シャーリーは、さまざまな方向からいろんな視線を感じていた。その視線から逃れるように、足早でランスロットの隣を歩く。

「もう、ランス」

 部屋に入ったところで、シャーリーは彼に声をかけた。
 ランスロットはソファにどさりと座ると、両手を広げている。

「シャーリー。抱き締めさせてくれ。君が無事だったと、それを感じたい」
「ランス」

 シャーリーは迷うことなくランスロットの側に寄るが、彼の腕をすり抜けて隣にすとんと座った。

「あなた、怪我をしているの。少し、おとなしくしていなさい」
「こんなの、かすり傷だ。それよりも今は、君を……」

 そうやって腕を広げてシャーリーを求めるランスロットの額を、彼女はぴしゃりとはたいた。

「それよりも、説明をしてもらえませんか? なぜ、ブラムさんがすぐに駆けつけることができたのか」

 シャーリーが気になっていたのは、彼がタイミングよく現われたことだった。
 むむっとランスロットは、眉間に深く皺を刻んでいる。彼がこのような表情をするのは、いろいろと考えているときだ。言いたいことが言いにくいとき。もしくは、適当な言葉を並べて誤魔化そうとするときでもある。

「ランス。誤魔化そうだなんて考えても無駄よ。あなたがそんな顔をするときは、適当なことを言おうとしているときだって、わかるんだから」
「くっ」

 観念したかのように項垂れたランスロットは、仕方なく事の流れをシャーリーに説明し始めた。

 婚礼の儀のあのとき、暴漢が狙っていたのはランスロットではなくシャーリーであったこと。そのとき頭を強く打って、記憶を失ったと思われていたが、それは『忘却の魔法』によるものだったこと。ここ数日、シャーリーが誰かに狙われていたのは、彼女が『魔導士団の不正』に気がついてしまったこと。そして、ランスロットの執務室に盗聴魔道具が仕掛けられていたこと。

「だから、俺たちはそれを逆に利用した。シャーリーが記憶を取り戻し、魔導士団の不正について、つまり薬品庫から薬草などの材料を不正に持ち出していることに気づかれたら、困るヤツを罠にしかけることにしたんだ」
「どんな、罠?」
「レイモンが、シャーリーの『忘却の魔法』を解くと、わざと言った。相手にとっては、シャーリーに記憶を取り戻され、不正の内容を暴かれたら困るわけだろう? だから、早く動くと思ったんだ。まさか、それが今日の今日とは思わなかったが。念のため、ブラムたちを動かしておいた」
「そう……」
「もしかして、黙っていたことを、怒っているのか?」
「ううん。怒ってはいない。それに、記憶が戻ったのも、あの男が短剣を持ってランスに向かって走って来るのを見たときだから……。その『忘却の魔法』というのは、解けたのかしら?」
「それは、レイモンにみてもらうしかないが」

 だが、シャーリーには心に引っかかることがある。

「今回のあの男は、私を狙っていたの? あなたを狙っていたの?」
「恐らく君だろう。俺の方が手前にいたから、俺の方を狙っているように見えたのかもしれない。だから、君がまた俺とあいつの間に入ろうとしたときは、焦ったよ」
「ごめんなさい。あなたに怪我をさせてしまった」
「いや。俺は君を守れなかったことをずっと後悔していた。だから、今回は君を守り通すことができて、よかったと思っている。こんな怪我、君を守るためならば痛くもかゆくもない」
「ランス。記憶を失っている間も、あなたは私に優しかったわ」
「覚えているのか?」

 ええ、とシャーリーは頷いた。

 婚礼の儀のあのとき。そして目を覚ましたときの戸惑いから、今まで。全ての記憶がある。そこに、失った二年分の記憶がぽっと沸いてきたような感じなのだ。

「君が記録してくれていたあの帳面。あれによって、ジョシュアもブラムも動いている。魔導士団の不正は、すぐに明るみになるはずだ。それに、どうやら危険な薬を作ろうとしていたらしい」
「危険な薬?」
「惚れ薬。ようは、相手を自分の思いのままに操れるようになる薬だな。その薬の被害者が出る前に、さっさと犯人を捕まえる。それもこれもシャーリーのおかげだ」
「そうね」

 だけど、シャーリーの心は晴れなかった。何かがまだ引っかかっている。

 大聖堂で短刀を振り上げた男は、本当にシャーリーを狙っていたのだろうか。シャーリーからは、ランスロットに切先が向いていたように見えたのだ。

 では、今回の男は。ランスロットともシャーリーとも、どちらともわからない。ただ、こちらに向かって短刀を振り回しながら突進してきたからだ。

「ランス。顔色が悪いわ。疲れているんじゃないの?」

 シャーリーがそう彼に声をかけた途端、ランスロットの身体は彼女の方に倒れてきた。

「ランス、ランス……。セバス、イルメラ。誰か」

 倒れたランスロットの身体を抱きかかえながら、シャーリーは叫び続けた。
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