夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません

澤谷弥(さわたに わたる)

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愛していると言ってくれ(2)

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「さすが、お前が選んだ相手だな」

 開いた帳面をぽんぽんと指で叩きながら、ジョシュアは感心していた。

「私も確認しても?」

 その言葉にジョシュアは帳面をレイモンに手渡した。

「もう一つある。これは、先日、レイモンが言っていた件に繋がる」

 ランスロットは青い帳面をジョシュアに渡す。

「薬品庫のことが走り書きしてあるのだが、その次の頁を見てみろ。気になっている薬品の名前が記載されている。そして、そっちの帳面のいつも合わない数値を組み合わせると」
「いつ、何が、どのくらい無くなっているかがわかるということか」

 苦々しくジョシュアは呟いた。事実であっても、認めたくないものがある。

「ああ、そうだ。それの解析は魔導士団でやってもらった方がいいだろう」
「オレは?」
「犯人を探るのがお前たちの仕事だろう?」

 おどけた口調で、自身に人差し指を向けているブラムに、ランスロットは言い放った。諜報隊であれば、これだけの情報から、怪しい人間を洗い出すことが可能だろう。

「じゃ、犯人が見つかったら、オレにもシャーリー……さんを貸してもらえるってことでいいかな? 毎月、大変なんだよね。会計報告書。団長と結婚する前も団長専属だったけど、そういったものも彼女は確認してくれたじゃん?」
「ちっ。仕方ない」

 ランスロットは渋々と許可を出す。

「そうなると、がぜんやる気が出るもんだよね」
「相変わらず、調子がいいやつだ」

 そんな二人の会話には混ざらないレイモンは、何やら考えている様子。それに鋭くジョシュアが声をかける。

「どうした?」
「はい。ここから、盗まれている材料の種類がわかったのですが。私が把握していたものよりも、想定外に多く……」

 そこでレイモンは言葉を止める。それは、まだ考えを探っているようにも見えた。

「いや、これは……」
「何か、気になることでも?」

 ジョシュアが促すと、レイモンは大きく頷いた。
「ここに書かれている材料からできあがる薬を考えていたのですが。恐らく、惚れ薬になるかと」

「惚れ薬だと?」

 ジョシュアの言葉に頷きつつも、レイモンは顎に手を当て、言葉を選びながら慎重に口を開く。

「惚れ薬。まあ、俗称のようなものですが、わかりやすいので我々はそう呼んでいます。すなわち、相手の意思を奪う薬ですね。もちろん、特定の人物に好意を寄せるようにもなるのですが、相手を言いなりにすることもできる、恐ろしい薬です」
「おいおい。そんな恐ろしい薬、勝手に作るなよ」

 ブラムが肩をすくめる。

「ですから、これらの材料は薬品庫の中でも厳重に管理されていたはず。なのですがね」
「つまり。犯人は、薬品庫に怪しまれることなく入ることができ、調薬にも精通している人物というわけか?」

 ランスロットが呟けば、「残念ながら」とレイモンは頷いた。

「ようするに、惚れ薬と呼ばれているが、相手の意思を奪う薬なんだよな?」

 ジョシュアが尋ねれば、「そうです」とレイモンは答える。
 その言葉にランスロットはジョシュアをじっと見つめた。

「おい、ランス。なぜ私を見る? まさかお前。その惚れ薬でも使われたのか? 私に惚れるなよ」
「違う。今のレイモンの話を聞けば、誰に薬を使うのかが重要になってくるだろう。狙われるとしたら、王族関係者が最初にあがるんじゃないのか?」
「私はマリアンヌ一筋だ」
「ブラム。今の情報から、惚れ薬を調薬できそうな魔導士、そして惚れ薬を使われそうな人物を洗い出せ」
「団長。情報、少ない。ま、やりますけどね」
「それから、事前に自白魔法の申請を行うが、問題はないか?」

 ランスロットは隣のジョシュアに尋ねた。自白魔法の申請には時間がかかるが、事件が重大なものに発展すると認められた場合、その事件を事前に防ぐために特例での事前申請が認められる。

「お前はこの事件の当事者になる可能性が高い。事前申請は私が行おう」

 ジョシュアの中では、ランスロットが事件関係者になるものと思われているようだ。
 だが、シャーリーが巻き込まれている今、その可能性は否定できない。

「ジョシュア……。やっと仕事をする気になったのか」
「私はいつでも仕事をしている」
「のわりには、ここに来てばっかだよな。暇なのかと思っていた」
「お前とシャーリーの様子を確認するのも、私の仕事だ。ところで、シャーリーはどうした? 彼女の護衛を頼んだはずだが」

 やはり彼女に気づかれてしまった。彼女の話題出さずに、この話を終わらせようとランスロットは考えていたのだ。
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