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ここにいてくれないか?(1)
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◆◆◆◆
今日からシャーリーが仕事復帰する。
彼女が屋敷から王城に行くまでには、ハーデン家の馬車を使ってもらうことにした。また、送迎にイルメラにも同行してもらうようにした。
これなら女子寮に住んでいないシャーリーも、安心して王城まで来ることができるだろう。
先に執務室に来ていたランスロットは、シャーリーが使う机を隣の部屋へと運び始める。
今までは顔をあげれば、視線の合う距離で仕事をしていたのだ。
彼女と出会って一年後、彼女が専属事務官となった。どこかあどけなさが残る彼女であったが、仕事はそつなくこなし、特に会計関係の仕事は他の事務官よりも群を抜いて優れていた。そういったことが苦手であるランスロットにとっては、まさしく救世主であったのだ。
それから半年後、ランスロットは彼女に告白し、清い交際を始めた。このときシャーリーを守るという口実で、婚約まで持ち込んだ。さらに、半年後、結婚をした。
だから彼女の机はランスロットのすぐ側にあったのだ。
今は、一年前よりも遠い場所に彼女の机を置かなければならない。一年前はこの部屋の入口の近くに彼女の机はあった。
「おい、ランス。今日からシャーリーが復帰するんだって?」
もちろん扉をノックもせずに部屋へ入ってくるのは、ジョシュアしかいない。
「さすが、情報が早いな……」
ランスロットは心の中で思っていたはずなのに、つい声に出てしまったようだ。ジョシュアはニヤリと笑っている。
「で、お前は何をしているんだ?」
「見て、わからないのか? シャーリーの机を移動させている。彼女には隣の部屋で仕事をしてもらう」
「うわぁ、一年前よりも悪化してる。スタートラインにすら立てないのか。そりゃそうか。二年前じゃそんなもんだよな。そこから一年かかったことを考えれば……。まぁ、いいんじゃないのか? うん」
ジョシュアは勝手に納得している。
「で? 一体、朝から何なんだ? シャーリーのことを言いにきたのか?」
ランスロットは机を運びながら、ジョシュアをギロリと睨んだ。
「そうそう。報告があったんだ。朝一で魔導士団からあがってきたんだが、あいつ、死んだんだよね」
「あいつ?」
残念ながら、ランスロットにはそれだけの会話の中で、該当する人物に心当たりはない。
「お前を襲ったやつ」
「あっ?」
ガンと運んでいた机を思わず落としてしまった。
「いでっ」
さらにその落とした先がランスロットの右足の上という悲惨な状況であるが、ごついブーツのおかげで骨に異常はなさそうだ。
「何やってんだよ」
ジョシュアは苦笑するしかない
「それよりも、あいつが死んだってどういうことだ」
「ああ、あいつな。なかなかしぶといから、魔導士の奴らが自白魔法を使うことにしたんだ。その申請がやっと通ったから、あいつのとこに魔導士の奴らが今朝行った。ら、死んでた」
「はぁ?」
「だよな、だよな。そう思うよな?」
ジョシュアの言っている意味がわからない。なぜ、今朝になって死んでしまったのか。
「もしかして……」
内部の犯行だろうか。自白魔法は、倫理的観点によって使うためには王族と議会と二か所に申請する必要がある。とにかく、手続きが面倒くさい。
騎士団の諜報隊が尋問していたが、やはり彼は口を割らなかった。そこで自白魔法を使わせるという案が出たのだが、その案の手続きを終えるまで十日程の時間を要する。
騎士団による尋問は的確だったのか。自白魔法の必要性とそれによって予想される効果など、面倒くさい資料を提出する必要がある。本来であれば、それはランスロットの仕事であるが、今回の事件の当事者ということで、この事件に関わることを一切許されていないため、ブラムが書類を準備したはずだ。
今日からシャーリーが仕事復帰する。
彼女が屋敷から王城に行くまでには、ハーデン家の馬車を使ってもらうことにした。また、送迎にイルメラにも同行してもらうようにした。
これなら女子寮に住んでいないシャーリーも、安心して王城まで来ることができるだろう。
先に執務室に来ていたランスロットは、シャーリーが使う机を隣の部屋へと運び始める。
今までは顔をあげれば、視線の合う距離で仕事をしていたのだ。
彼女と出会って一年後、彼女が専属事務官となった。どこかあどけなさが残る彼女であったが、仕事はそつなくこなし、特に会計関係の仕事は他の事務官よりも群を抜いて優れていた。そういったことが苦手であるランスロットにとっては、まさしく救世主であったのだ。
それから半年後、ランスロットは彼女に告白し、清い交際を始めた。このときシャーリーを守るという口実で、婚約まで持ち込んだ。さらに、半年後、結婚をした。
だから彼女の机はランスロットのすぐ側にあったのだ。
今は、一年前よりも遠い場所に彼女の机を置かなければならない。一年前はこの部屋の入口の近くに彼女の机はあった。
「おい、ランス。今日からシャーリーが復帰するんだって?」
もちろん扉をノックもせずに部屋へ入ってくるのは、ジョシュアしかいない。
「さすが、情報が早いな……」
ランスロットは心の中で思っていたはずなのに、つい声に出てしまったようだ。ジョシュアはニヤリと笑っている。
「で、お前は何をしているんだ?」
「見て、わからないのか? シャーリーの机を移動させている。彼女には隣の部屋で仕事をしてもらう」
「うわぁ、一年前よりも悪化してる。スタートラインにすら立てないのか。そりゃそうか。二年前じゃそんなもんだよな。そこから一年かかったことを考えれば……。まぁ、いいんじゃないのか? うん」
ジョシュアは勝手に納得している。
「で? 一体、朝から何なんだ? シャーリーのことを言いにきたのか?」
ランスロットは机を運びながら、ジョシュアをギロリと睨んだ。
「そうそう。報告があったんだ。朝一で魔導士団からあがってきたんだが、あいつ、死んだんだよね」
「あいつ?」
残念ながら、ランスロットにはそれだけの会話の中で、該当する人物に心当たりはない。
「お前を襲ったやつ」
「あっ?」
ガンと運んでいた机を思わず落としてしまった。
「いでっ」
さらにその落とした先がランスロットの右足の上という悲惨な状況であるが、ごついブーツのおかげで骨に異常はなさそうだ。
「何やってんだよ」
ジョシュアは苦笑するしかない
「それよりも、あいつが死んだってどういうことだ」
「ああ、あいつな。なかなかしぶといから、魔導士の奴らが自白魔法を使うことにしたんだ。その申請がやっと通ったから、あいつのとこに魔導士の奴らが今朝行った。ら、死んでた」
「はぁ?」
「だよな、だよな。そう思うよな?」
ジョシュアの言っている意味がわからない。なぜ、今朝になって死んでしまったのか。
「もしかして……」
内部の犯行だろうか。自白魔法は、倫理的観点によって使うためには王族と議会と二か所に申請する必要がある。とにかく、手続きが面倒くさい。
騎士団の諜報隊が尋問していたが、やはり彼は口を割らなかった。そこで自白魔法を使わせるという案が出たのだが、その案の手続きを終えるまで十日程の時間を要する。
騎士団による尋問は的確だったのか。自白魔法の必要性とそれによって予想される効果など、面倒くさい資料を提出する必要がある。本来であれば、それはランスロットの仕事であるが、今回の事件の当事者ということで、この事件に関わることを一切許されていないため、ブラムが書類を準備したはずだ。
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