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何か変なことを言ったか?(6)
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それを聞いたアンナの口元は綻ぶ。
「ほんと、シャーリーは団長に一途に想われて幸せですね。団長が相手で良かったですよ」
ランスロットにとっては、アンナのその一言は心が震えるくらいに嬉しかった。
「ですが、シャーリーを団長専属から外した場合、当分の間は専属事務官不在という形になってしまいますが、よろしいですか?」
「な、なに?」
ランスロットとしては、シャーリーの代わりの事務官がついてくれるものと思っていた。
「シャーリーを裏方に戻して、他の者を専属にして欲しいのだが?」
「あぁ、それはすぐには無理ですよ」
アンナは顔の前でひらひらと手を振っている。
「思い出してください、団長。シャーリーが団長の専属に決まるまでは、専属不在だったじゃないですか。シャーリーが引き受けてくれたからこそ、そこが埋まったんですよ」
ランスロットに専属事務官がついていなかったというのは有名な話だ。それは彼の見た目が大きく関係している。女性事務官から見たら、彼は怖いのだ。もちろん、女性だけでなく男性からも怖がられている。
「今でも、シャーリーが手伝ってくれていたから、仕事が回っていた点もあるのだが。事務官不在となれば、俺の仕事は回らない……かもしれない」
かもしれない、ではなく確実に回らない。溢れる。特に、金勘定の書類が。
「う~ん、困りましたね」
アンナは腕を組む。事務仕事だけでなく、王城で働く者たちが円滑に働ける環境を作るのも、事務官の役目なのだ。
「事務官の責任ある立場から言わせてもらいますと。できればシャーリーにはそのまま団長付きの専属で仕事をこなして欲しいのですが」
「だが、彼女は二年前の彼女だ」
「それは、記憶を失っているからですよね? 記憶さえ戻れば、何も問題はないわけですよね」
アンナの前向きな発言に、ランスロットもはっとする。彼女が言っていることは間違いではない。
「むしろ、団長と一緒にいた方が記憶は戻ったりしませんかね? 荒療治という方法です」
同じ内容を他からも聞いたような気がする。
「だが、荒療治がいきすぎて、俺が嫌われてしまったらどうする?」
ぷっとアンナは噴き出した。
「あ、すみません」
ハンカチで口元を押さえるものの、彼女はその下で必死に笑いを堪えようとしている。
「俺は、何か変なことを言ったか?」
「いえ。団長があまりにも可愛らしすぎて」
右手の人差し指で目尻を拭っている。
「二年かけてシャーリーは団長と結婚したわけですよね。でしたら、また二年かければ、きっとシャーリーは団長のことを好きになってくれますよ」
「そうだといいのだが……」
ランスロットはしゅんと肩を落とした。二年かけて好きになってもらえた妻を失ってしまった現実を突きつけられている。
「では、団長。シャーリーが事務官としての仕事に復帰したいというのであれば、所属は今まで通り団長専属で復帰させます。仕事中に何かあった場合も、その方が都合はいいですよね?」
「あ、ああ。そうだな。俺はかまわないが、シャーリーはどう思うだろうか……」
アンナはもう一度くすっと笑った。
「もう、本当にシャーリーに妬けてしまいますね。シャーリーのことは気にしないでください。私の方からも説得させますから。むしろ今、彼女が団長専属から外れてしまうと、正直言って私たちも困るんです。何しろ団長、会計類の書類の仕上げが遅いですよね」
「うっ」
シャーリーだけでなくアンナにまで知られていた。
「一つが滞ってしまうと、その後の作業も滞ってしまうんですよ。だから、事務官の責任者として、全体の効率化のためにもシャーリーは団長専属にしておくべきだと思っております」
「そ、そうか……。そこまで言ってもらえるのであれば、そうだな。その方向で考えておこう」
「彼女の机を、団長の執務席から離れた場所に準備しましょう」
「だったら、隣の部屋にしよう。扉続きの部屋だ」
ランスロットの提案にアンナも大きく頷いた。
「ハーデン団長。ご協力に感謝いたします。シャーリーは優秀な事務官です。必ず団長の助けとなります」
アンナのその言葉は事務官責任者としての言葉だ。
「ウェスト事務官。ありがとう」
ランスロットの言葉に、アンナは優しく微笑んだ。
「ほんと、シャーリーは団長に一途に想われて幸せですね。団長が相手で良かったですよ」
ランスロットにとっては、アンナのその一言は心が震えるくらいに嬉しかった。
「ですが、シャーリーを団長専属から外した場合、当分の間は専属事務官不在という形になってしまいますが、よろしいですか?」
「な、なに?」
ランスロットとしては、シャーリーの代わりの事務官がついてくれるものと思っていた。
「シャーリーを裏方に戻して、他の者を専属にして欲しいのだが?」
「あぁ、それはすぐには無理ですよ」
アンナは顔の前でひらひらと手を振っている。
「思い出してください、団長。シャーリーが団長の専属に決まるまでは、専属不在だったじゃないですか。シャーリーが引き受けてくれたからこそ、そこが埋まったんですよ」
ランスロットに専属事務官がついていなかったというのは有名な話だ。それは彼の見た目が大きく関係している。女性事務官から見たら、彼は怖いのだ。もちろん、女性だけでなく男性からも怖がられている。
「今でも、シャーリーが手伝ってくれていたから、仕事が回っていた点もあるのだが。事務官不在となれば、俺の仕事は回らない……かもしれない」
かもしれない、ではなく確実に回らない。溢れる。特に、金勘定の書類が。
「う~ん、困りましたね」
アンナは腕を組む。事務仕事だけでなく、王城で働く者たちが円滑に働ける環境を作るのも、事務官の役目なのだ。
「事務官の責任ある立場から言わせてもらいますと。できればシャーリーにはそのまま団長付きの専属で仕事をこなして欲しいのですが」
「だが、彼女は二年前の彼女だ」
「それは、記憶を失っているからですよね? 記憶さえ戻れば、何も問題はないわけですよね」
アンナの前向きな発言に、ランスロットもはっとする。彼女が言っていることは間違いではない。
「むしろ、団長と一緒にいた方が記憶は戻ったりしませんかね? 荒療治という方法です」
同じ内容を他からも聞いたような気がする。
「だが、荒療治がいきすぎて、俺が嫌われてしまったらどうする?」
ぷっとアンナは噴き出した。
「あ、すみません」
ハンカチで口元を押さえるものの、彼女はその下で必死に笑いを堪えようとしている。
「俺は、何か変なことを言ったか?」
「いえ。団長があまりにも可愛らしすぎて」
右手の人差し指で目尻を拭っている。
「二年かけてシャーリーは団長と結婚したわけですよね。でしたら、また二年かければ、きっとシャーリーは団長のことを好きになってくれますよ」
「そうだといいのだが……」
ランスロットはしゅんと肩を落とした。二年かけて好きになってもらえた妻を失ってしまった現実を突きつけられている。
「では、団長。シャーリーが事務官としての仕事に復帰したいというのであれば、所属は今まで通り団長専属で復帰させます。仕事中に何かあった場合も、その方が都合はいいですよね?」
「あ、ああ。そうだな。俺はかまわないが、シャーリーはどう思うだろうか……」
アンナはもう一度くすっと笑った。
「もう、本当にシャーリーに妬けてしまいますね。シャーリーのことは気にしないでください。私の方からも説得させますから。むしろ今、彼女が団長専属から外れてしまうと、正直言って私たちも困るんです。何しろ団長、会計類の書類の仕上げが遅いですよね」
「うっ」
シャーリーだけでなくアンナにまで知られていた。
「一つが滞ってしまうと、その後の作業も滞ってしまうんですよ。だから、事務官の責任者として、全体の効率化のためにもシャーリーは団長専属にしておくべきだと思っております」
「そ、そうか……。そこまで言ってもらえるのであれば、そうだな。その方向で考えておこう」
「彼女の机を、団長の執務席から離れた場所に準備しましょう」
「だったら、隣の部屋にしよう。扉続きの部屋だ」
ランスロットの提案にアンナも大きく頷いた。
「ハーデン団長。ご協力に感謝いたします。シャーリーは優秀な事務官です。必ず団長の助けとなります」
アンナのその言葉は事務官責任者としての言葉だ。
「ウェスト事務官。ありがとう」
ランスロットの言葉に、アンナは優しく微笑んだ。
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