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何か変なことを言ったか?(3)
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◆◆◆◆
「はぁああああああ」
大きく息を吐き、頭を抱えているのはランスロットである。
「かっこつけすぎたんじゃないのか?」
なぜかジョシュアがいる。彼は、朝も早くからランスロットの執務室を訪れると、勝手に事務官を呼びつけて、お茶を淹れてもらっていた。
ジョシュア曰く「ランスロットだけでは、事務官も怯えてこの部屋には近づかないからな」とのことだ。
彼がここに来るたびに、王太子とは暇なのかと、ランスロットは思っている。
「そのまま、シャーリーをお前専属の事務官にしとけばよかったんじゃないのか? 荒療治」
カップの中のお茶にふぅふぅと息を吹きかけている様子は、王太子とは思えないような行為だ。
ジョシュアはここでこうやって羽目を外すことが、息抜きになるらしい。
だからランスロットも、今のところはいちいち口うるさく注意するようなことはしない。
「荒療治をし過ぎて、嫌われたらどうする? 元も子もない。むしろ、どうしようもない。振り出しに戻ったというよりは、むしろ振り出し以上に戻っている」
そう言ったランスロットは「ああああああ」と情けない声を出して、机の上で頭を抱えた。
ジョシュアはそんな彼を横目に、一人ソファに座ってお茶を飲んでいた。
「愛していると言ってくれって、シャーリーにお願いしたんだ」
ジョシュアが「ぶほっ」とお茶を噴き出した。
「おい、ランス。お前、なんちゅうことをシャーリーに言ってるんだよ。あぁ、鼻が痛い」
「そのくらいなら、言ってくれるかと思ってだな。だけど、偽りの言葉でも嬉しいのかって聞かれた」
「さすが、シャーリーだな。彼女の言っていることは間違ってはいない」
「俺は。彼女のその言葉だけで、充分なんだ……」
「二年かけて、シャーリーはお前のことを好きになったんだろ? だったら、遅くても二年後には、また好きになってくれるのではないか? それまでどうやって彼女の心をつかんだのか、思い出してみろ」
それ以上、ジョシュアは何も言わなかった。彼もお茶を一杯飲み終えると、「また、様子見にくるわ」と言って、部屋を出て行った。
もしかしたら、ジョシュアが朝も早くからここに来るのは、ランスロットのことを心配しているからなのだろうか。
ランスロットは今日のスケジュールを再確認すると、席から立ち上がった。
本来であれば蜜月という名の結婚休暇であったのだが、シャーリーがあのような状態になってしまい、屋敷から追い出されたランスロットは、渋々と仕事を再開させている。
たまりにたまっていた事務作業を、なんとか片付けたため、今日からは訓練にも参加しようと思っていた。
(身体を動かした方が、気も紛れるかもしれない)
昼前までは体力錬成のための基礎訓練が主だ。午後からは、それぞれが得意とする剣技や弓、射撃などの実務訓練となる。任務がなければ、騎士団員の一日は訓練で終わるのだ。
任務とは、もちろん要人の警護や警備。それから悪党の取り締まりや、さらには喧嘩の仲裁。格好よく諜報隊なんてのもある。
団長を務めているランスロットの役目は、もちろん騎士団を取りまとめること。現地に赴くのは、各隊だけでの解決が難しくなったときだけだ。
だから彼は王城にいることが多いし、仕事も要人、むしろ王族の警護が多い。そして、わりと多いのが事務作業である。数としては多くはなく、普通なのかもしれない。だが、ランスロットにしては気が滅入るほどの作業量となるのだ。
ランスロットが基礎訓練に顔を出したため、途端に団員たちの顔が引き締まった。
だが、その基礎訓練が終わった途端、諜報隊に所属するブラムが赤くなった手をすりすりとさすりながら、ランスロットに文句を言い出した。他の騎士たちは後片付けをし、戻り始めている。
「はぁああああああ」
大きく息を吐き、頭を抱えているのはランスロットである。
「かっこつけすぎたんじゃないのか?」
なぜかジョシュアがいる。彼は、朝も早くからランスロットの執務室を訪れると、勝手に事務官を呼びつけて、お茶を淹れてもらっていた。
ジョシュア曰く「ランスロットだけでは、事務官も怯えてこの部屋には近づかないからな」とのことだ。
彼がここに来るたびに、王太子とは暇なのかと、ランスロットは思っている。
「そのまま、シャーリーをお前専属の事務官にしとけばよかったんじゃないのか? 荒療治」
カップの中のお茶にふぅふぅと息を吹きかけている様子は、王太子とは思えないような行為だ。
ジョシュアはここでこうやって羽目を外すことが、息抜きになるらしい。
だからランスロットも、今のところはいちいち口うるさく注意するようなことはしない。
「荒療治をし過ぎて、嫌われたらどうする? 元も子もない。むしろ、どうしようもない。振り出しに戻ったというよりは、むしろ振り出し以上に戻っている」
そう言ったランスロットは「ああああああ」と情けない声を出して、机の上で頭を抱えた。
ジョシュアはそんな彼を横目に、一人ソファに座ってお茶を飲んでいた。
「愛していると言ってくれって、シャーリーにお願いしたんだ」
ジョシュアが「ぶほっ」とお茶を噴き出した。
「おい、ランス。お前、なんちゅうことをシャーリーに言ってるんだよ。あぁ、鼻が痛い」
「そのくらいなら、言ってくれるかと思ってだな。だけど、偽りの言葉でも嬉しいのかって聞かれた」
「さすが、シャーリーだな。彼女の言っていることは間違ってはいない」
「俺は。彼女のその言葉だけで、充分なんだ……」
「二年かけて、シャーリーはお前のことを好きになったんだろ? だったら、遅くても二年後には、また好きになってくれるのではないか? それまでどうやって彼女の心をつかんだのか、思い出してみろ」
それ以上、ジョシュアは何も言わなかった。彼もお茶を一杯飲み終えると、「また、様子見にくるわ」と言って、部屋を出て行った。
もしかしたら、ジョシュアが朝も早くからここに来るのは、ランスロットのことを心配しているからなのだろうか。
ランスロットは今日のスケジュールを再確認すると、席から立ち上がった。
本来であれば蜜月という名の結婚休暇であったのだが、シャーリーがあのような状態になってしまい、屋敷から追い出されたランスロットは、渋々と仕事を再開させている。
たまりにたまっていた事務作業を、なんとか片付けたため、今日からは訓練にも参加しようと思っていた。
(身体を動かした方が、気も紛れるかもしれない)
昼前までは体力錬成のための基礎訓練が主だ。午後からは、それぞれが得意とする剣技や弓、射撃などの実務訓練となる。任務がなければ、騎士団員の一日は訓練で終わるのだ。
任務とは、もちろん要人の警護や警備。それから悪党の取り締まりや、さらには喧嘩の仲裁。格好よく諜報隊なんてのもある。
団長を務めているランスロットの役目は、もちろん騎士団を取りまとめること。現地に赴くのは、各隊だけでの解決が難しくなったときだけだ。
だから彼は王城にいることが多いし、仕事も要人、むしろ王族の警護が多い。そして、わりと多いのが事務作業である。数としては多くはなく、普通なのかもしれない。だが、ランスロットにしては気が滅入るほどの作業量となるのだ。
ランスロットが基礎訓練に顔を出したため、途端に団員たちの顔が引き締まった。
だが、その基礎訓練が終わった途端、諜報隊に所属するブラムが赤くなった手をすりすりとさすりながら、ランスロットに文句を言い出した。他の騎士たちは後片付けをし、戻り始めている。
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