14 / 16
エピソード13
しおりを挟む
夕方、いつの間にか帰ってきた伯爵がエラの部屋を尋ねてきた。
その横にアーシャもいる。
「ただいま・・・ごめんね。朝ご飯一緒に食べれなくて」
伯爵は細く繊細な手で、エラの頬に触れる。
伯爵からはバニラのような甘い匂いがする。
(いい匂い・・・)
「いいえ。・・・お仕事なら仕方がないです」
自分が探っていた部屋の所有者を前にすると罪悪感に似た何かが、エラに生まれる。
そして、バレないかという焦りもそこに加わるり、気持ち悪い心情になる。
「ありがとう~。エラは優しいね」
伯爵はエラを優しく抱きしめる。
「ヒグッ」
「・・・え?」
(どうしよ・・・変な声出しちゃった)
恥ずかしい・・・穴が入ったら入りたいとは、まさにこういう時に使う言葉かと心の底から実感する。
自分の顔が赤くなっているのを、何となく察したエラは、自分の手で顔を隠す。
「エラは、こういう事にあまり慣れてないの?」
エラを抱きしめたままの伯爵はフイに言う。
頭の上から降ってくる言葉に、エラは一瞬迷いつつ答える。
「え・・・いえ、そういうことでは」
本当は慣れていない。
抱きしめられたことなんてないし、先程、伯爵がしたように頬に触れられたことも無い。
でも、ジョンとの事があるので慣れている事にしておく。
(それにしても・・・)
「伯爵様は・・・慣れていますよね」
アーシャが協力してくれると言ったとは言え、やはり全部を信用している訳では無い。
だからもしもの時の為に、一応弱みを握っておこうとカマをかける。
「そうかな・・・慣れているようにみえる?」
少し気まずそうな伯爵の声。
(あやしい・・・)
絶対嘘だ、とエラは思ってしまう。
ルックスも良くて性格も良い。その上財政力もある。女性が放っておかないだろう。
「はい・・・まるで色んな女性と・・・」
(どうしよ・・・なんて言おう・・)
カマをかけようとは決めたものの、直球すぎるのは避けたい。
何かいい言葉が無いか考えている、エラから体を放した伯爵は、考えるように手を顎に当てる。
その伯爵の姿に思わず見とれてしまうエラ。
(・・・・綺麗な人)
輝くような金髪は一つにまとめ、左の肩に流している。
サファイアの青い目を細め、形の良い眉を少しだけ潜めた伯爵の姿は、まるで天使のようだとエラは思った。
ふいに、伯爵を見つめていたエラと伯爵の目が合う。
サファイアのような伯爵の瞳とエメラルドのようなエラの瞳は、数秒間見つめ合ったが伯爵の言葉によって破られる。
「エラは・・・・もしかして、俺に愛人がいるとか思ってる?」
「え」
(確かに・・・・そう思ってるんだけど)
伯爵は悲しそうな瞳でエラを見つめている。
伯爵に愛人がいるだろうと思っているエラにとって、伯爵の質問は願ってもみないチャンス・・・
自分が「はい」と言ったら愛人がいると伯爵は言うのだろうか・・・?
(でも・・・なんか聞きたくないような)
愛人がいると分かれば、あとはその証拠を掴んで、伯爵を脅し自分の操り人形にするだけ。
伯爵家の次期当主に愛人がいるなんて、世間が許さないだろう・・・十分に脅せる材料になる。
だけど
そうなることをこれ以上無いほど望んでいるエラの中には、そうなることを望んでいないエラがいる。
伯爵の口から「愛人がいる」という言葉を何故か聞きたくない、とエラは思ってしう。
ジョンがいくら愛人と一緒にいても、「嫌だ」とすらと思わなかったのに。
「・・・・あの、ルイス伯爵様、なんて答えていいか・・・・ごめんなさい」
伯爵の質問は「はい」か「いいえ」で答えられる簡単な質問。
だけど、エラの口から出た言葉はそのどちらでも無かった。
「そうか・・・わかった。ごめんね?変な質問して」
「・・・いえ、私こそごめんなさい」
そう言った伯爵は、エラをもう一度優しく抱きしめた。
だからエラは、伯爵がエラの答えに対してどんな表情をしているのか分からない。
今度は変な声は出なかった。
その代わり、先程抱きしめられた時には感じなかった「温もり」を感じた。
とても落ち着くその温もりは、とても心地よい。
(ずっと、このままでいたい)
ふいにエラはそんなことを思った。
でも次の瞬間、エラはハッとしてアーシャの存在を思い出した。
(アーシャさんがいる前で・・・)
とてつもなく気まずくて、そして恥ずかしい。
エラは、伯爵を押し返したが伯爵は離れてくれない。
(・・・え、ルイス伯爵様?)
伯爵を押してみたり、逆に自分が引いてみたりしたけど、やはり伯爵は離れない。
エラのアタフタ様子が、面白かったのか伯爵は面白そうに笑う。
「エラって・・・ほんとに」
「え、なんですか?」
頭をポンポン撫でる伯爵は、なんでもないと首を横に振る。
訳が分からず、伯爵の横にいるアーシャを盗みみれば、笑うのを必死に堪えているようだ。
(なんか・・・怒りが)
伯爵の部屋での事もあり、アーシャに対して怒りに似たものが込み上げてくる。
自分を睨んでいることに気づいたアーシャは、エラに向かってまるで、動物を宥めるかのように、手を顔の前に出す。
エラとアーシャの無言のやり取りに、気づかない伯爵はエラに言う。
「エラ・・・晩御飯まで、一緒に話さない?・・・お茶でも飲みながら」
伯爵の言葉にハッとしてアーシャから伯爵に目をうつす。
「えッ・・・あ、はい」
ほとんど勢いで誘いを受けたエラの言葉に、伯爵は嬉しそうに笑う。
伯爵の様子から見るに、アーシャは復讐の事も、エラが部屋を漁っていたことも喋っていないようだ。
(・・・アーシャさんは約束を守ってくれてるのかな・・・)
その横にアーシャもいる。
「ただいま・・・ごめんね。朝ご飯一緒に食べれなくて」
伯爵は細く繊細な手で、エラの頬に触れる。
伯爵からはバニラのような甘い匂いがする。
(いい匂い・・・)
「いいえ。・・・お仕事なら仕方がないです」
自分が探っていた部屋の所有者を前にすると罪悪感に似た何かが、エラに生まれる。
そして、バレないかという焦りもそこに加わるり、気持ち悪い心情になる。
「ありがとう~。エラは優しいね」
伯爵はエラを優しく抱きしめる。
「ヒグッ」
「・・・え?」
(どうしよ・・・変な声出しちゃった)
恥ずかしい・・・穴が入ったら入りたいとは、まさにこういう時に使う言葉かと心の底から実感する。
自分の顔が赤くなっているのを、何となく察したエラは、自分の手で顔を隠す。
「エラは、こういう事にあまり慣れてないの?」
エラを抱きしめたままの伯爵はフイに言う。
頭の上から降ってくる言葉に、エラは一瞬迷いつつ答える。
「え・・・いえ、そういうことでは」
本当は慣れていない。
抱きしめられたことなんてないし、先程、伯爵がしたように頬に触れられたことも無い。
でも、ジョンとの事があるので慣れている事にしておく。
(それにしても・・・)
「伯爵様は・・・慣れていますよね」
アーシャが協力してくれると言ったとは言え、やはり全部を信用している訳では無い。
だからもしもの時の為に、一応弱みを握っておこうとカマをかける。
「そうかな・・・慣れているようにみえる?」
少し気まずそうな伯爵の声。
(あやしい・・・)
絶対嘘だ、とエラは思ってしまう。
ルックスも良くて性格も良い。その上財政力もある。女性が放っておかないだろう。
「はい・・・まるで色んな女性と・・・」
(どうしよ・・・なんて言おう・・)
カマをかけようとは決めたものの、直球すぎるのは避けたい。
何かいい言葉が無いか考えている、エラから体を放した伯爵は、考えるように手を顎に当てる。
その伯爵の姿に思わず見とれてしまうエラ。
(・・・・綺麗な人)
輝くような金髪は一つにまとめ、左の肩に流している。
サファイアの青い目を細め、形の良い眉を少しだけ潜めた伯爵の姿は、まるで天使のようだとエラは思った。
ふいに、伯爵を見つめていたエラと伯爵の目が合う。
サファイアのような伯爵の瞳とエメラルドのようなエラの瞳は、数秒間見つめ合ったが伯爵の言葉によって破られる。
「エラは・・・・もしかして、俺に愛人がいるとか思ってる?」
「え」
(確かに・・・・そう思ってるんだけど)
伯爵は悲しそうな瞳でエラを見つめている。
伯爵に愛人がいるだろうと思っているエラにとって、伯爵の質問は願ってもみないチャンス・・・
自分が「はい」と言ったら愛人がいると伯爵は言うのだろうか・・・?
(でも・・・なんか聞きたくないような)
愛人がいると分かれば、あとはその証拠を掴んで、伯爵を脅し自分の操り人形にするだけ。
伯爵家の次期当主に愛人がいるなんて、世間が許さないだろう・・・十分に脅せる材料になる。
だけど
そうなることをこれ以上無いほど望んでいるエラの中には、そうなることを望んでいないエラがいる。
伯爵の口から「愛人がいる」という言葉を何故か聞きたくない、とエラは思ってしう。
ジョンがいくら愛人と一緒にいても、「嫌だ」とすらと思わなかったのに。
「・・・・あの、ルイス伯爵様、なんて答えていいか・・・・ごめんなさい」
伯爵の質問は「はい」か「いいえ」で答えられる簡単な質問。
だけど、エラの口から出た言葉はそのどちらでも無かった。
「そうか・・・わかった。ごめんね?変な質問して」
「・・・いえ、私こそごめんなさい」
そう言った伯爵は、エラをもう一度優しく抱きしめた。
だからエラは、伯爵がエラの答えに対してどんな表情をしているのか分からない。
今度は変な声は出なかった。
その代わり、先程抱きしめられた時には感じなかった「温もり」を感じた。
とても落ち着くその温もりは、とても心地よい。
(ずっと、このままでいたい)
ふいにエラはそんなことを思った。
でも次の瞬間、エラはハッとしてアーシャの存在を思い出した。
(アーシャさんがいる前で・・・)
とてつもなく気まずくて、そして恥ずかしい。
エラは、伯爵を押し返したが伯爵は離れてくれない。
(・・・え、ルイス伯爵様?)
伯爵を押してみたり、逆に自分が引いてみたりしたけど、やはり伯爵は離れない。
エラのアタフタ様子が、面白かったのか伯爵は面白そうに笑う。
「エラって・・・ほんとに」
「え、なんですか?」
頭をポンポン撫でる伯爵は、なんでもないと首を横に振る。
訳が分からず、伯爵の横にいるアーシャを盗みみれば、笑うのを必死に堪えているようだ。
(なんか・・・怒りが)
伯爵の部屋での事もあり、アーシャに対して怒りに似たものが込み上げてくる。
自分を睨んでいることに気づいたアーシャは、エラに向かってまるで、動物を宥めるかのように、手を顔の前に出す。
エラとアーシャの無言のやり取りに、気づかない伯爵はエラに言う。
「エラ・・・晩御飯まで、一緒に話さない?・・・お茶でも飲みながら」
伯爵の言葉にハッとしてアーシャから伯爵に目をうつす。
「えッ・・・あ、はい」
ほとんど勢いで誘いを受けたエラの言葉に、伯爵は嬉しそうに笑う。
伯爵の様子から見るに、アーシャは復讐の事も、エラが部屋を漁っていたことも喋っていないようだ。
(・・・アーシャさんは約束を守ってくれてるのかな・・・)
0
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
大嫌いなあの人が地獄に落ちるまで
じんじゅ
大衆娯楽
人生30年も生きれば、自分とは合わない苦手な人や、好きじゃない人と出会うのは当然である。その中でも、こいつだけは…という【大嫌いな人】に因果応報、自業自得、報いが訪れる話である。同じように日々のストレス感じる生活の中で、少しでも読んだ方々の溜飲が下がり、これから出てくる人間と皆さんの【大嫌いな人】に報いがありますように…。
もうすぐ、お別れの時間です
夕立悠理
恋愛
──期限つきの恋だった。そんなの、わかってた、はずだったのに。
親友の代わりに、王太子の婚約者となった、レオーネ。けれど、親友の病は治り、婚約は解消される。その翌日、なぜか目覚めると、王太子が親友を見初めるパーティーの日まで、時間が巻き戻っていた。けれど、そのパーティーで、親友ではなくレオーネが見初められ──。王太子のことを信じたいけれど、信じられない。そんな想いにゆれるレオーネにずっと幼なじみだと思っていたアルロが告白し──!?
一年で死ぬなら
朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。
理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。
そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。
そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。
一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・
お父様お母様、お久しぶりです。あの時わたしを捨ててくださりありがとうございます
柚木ゆず
恋愛
ヤニックお父様、ジネットお母様。お久しぶりです。
わたしはアヴァザール伯爵家の長女エマとして生まれ、6歳のころ貴方がたによって隣国に捨てられてしまいましたよね?
当時のわたしにとってお二人は大事な家族で、だからとても辛かった。寂しくて悲しくて、捨てられたわたしは絶望のどん底に落ちていました。
でも。
今は、捨てられてよかったと思っています。
だって、その出来事によってわたしは――。大切な人達と出会い、大好きな人と出逢うことができたのですから。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
すべてが嫌になったので死んだふりをしたら、いつの間にか全部解決していました
小倉みち
恋愛
公爵令嬢へテーゼは、苦労人だった。
周囲の人々は、なぜか彼女にひたすら迷惑をかけまくる。
婚約者の第二王子は数々の問題を引き起こし、挙句の果てに彼女の妹のフィリアと浮気をする。
家族は家族で、せっかく祖父の遺してくれた遺産を湯水のように使い、豪遊する。
どう考えても彼らが悪いのに、へテーゼの味方はゼロ。
代わりに、彼らの味方をする者は大勢。
へテーゼは、彼らの尻拭いをするために毎日奔走していた。
そんなある日、ふと思った。
もう嫌だ。
すべてが嫌になった。
何もかも投げ出したくなった彼女は、仲の良い妖精たちの力を使って、身体から魂を抜き取ってもらう。
表向き、へテーゼが「死んだ」ことにしようと考えたのだ。
当然そんなことは露知らず、完全にへテーゼが死んでしまったと慌てる人々。
誰が悪い、これからどうするのか揉めるうちに、自爆していく連中もいれば、人知れず彼女を想っていた者の復讐によって失脚していく連中も現れる。
こうして彼女が手を出すまでもなく、すべての問題は綺麗さっぱり解決していき――。
極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。
あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。
そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。
翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。
しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。
**********
●早瀬 果歩(はやせ かほ)
25歳、OL
元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。
●逢見 翔(おうみ しょう)
28歳、パイロット
世界を飛び回るエリートパイロット。
ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。
翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……?
●航(わたる)
1歳半
果歩と翔の息子。飛行機が好き。
※表記年齢は初登場です
**********
webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です!
完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる