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「今日からよろしく」
 
そう言いながらエラの前で綺麗にお辞儀をし、手の甲にキスを落とした男はエラの2度目の夫。

その動作に合わせて男の美しく長い金髪が揺れる。

(この男は、私の復習の道具)

エラは顔に偽物の笑みを浮かべ、男を真っ直ぐ見据える。

青いサファイヤのような男の瞳とエラのエメラルドのような緑色の瞳が結びつく。

エラは床に着くほど長いドレスの裾をつかみ少し腰を落としてお辞儀をする。

「こちらこそ、よろしくお願いします。ライデッカー伯爵様」

ルイス・ライデッカー伯爵はライデッカー家の当主。
エラが育った国の隣国で商家として成功した良家で王族とも深い繋がりを持っている。
権力と財政力を持ち合わせた、ライデッカー伯爵はエラにとって、これ以上無いほど完璧な理想のひと。いや理想の道具。

エラにとってライデッカー伯爵は2度目の夫。
1度目の夫はジョン・マッカーサーで、エラが住んでいた国の王族。

顔立ちが整った紳士、ジョンの中身は
大変な女好きだ。
エラと婚約関係の時から、周りを多くの愛人で囲っていたし、結婚してからも
お気に入りの愛人は家に住まわせていた。

エラは、ほって置かれ愛人との馴れ合いを見せつけられることもあった。

が、エラは何も思わなかった。
元々政略結婚した相手にエラは愛なんかなかったし、自分を愛して欲しいとも思わなかった。


結婚から数年たった時、ジョンからいきなり離縁しようと言われた。

離縁の理由はエラの浮気。

もちろん、エラには心当たりはなかった。
それに浮気をしているのはジョンの方だったが、反論の余地を与えず家を追い出された。

外面が良く、その上王族であるジョンの事を責めるものはおらず、エラが一方的に責められた。

もちろん、エラの実家も例外ではなく、多くのバッシングを受けた。
しかし、ジョンの裏の顔を知っていた両親はエラを攻めることなく、むしろ謝ってくれた。

だか、王族に嫁いだ挙句の果てに、浮気をして家を追い出された娘の家というレッテルを貼られてしまった、エラの実家は多額の負債を多い、両親は自殺してしまった。

両親の自殺の原因を作ったジョン・マッカーサーと今やその妻となったメアリーに復讐するため、エラは目の前にいる男、ルイス・ライデッカー伯爵と結婚した。

そう、エラにとってライデッカー伯爵はただの道具だ。
2人に復讐するための「道具」

(せいぜい私の役にたってください、ライデッカー伯爵)

再びライデッカー伯爵を見つめるたエラは、嘘の笑をさらに大きくする。

「貴方様のような方の妻になれて幸せです」

ライデッカー伯爵は、少し悲しそうな顔をする。
伯爵は今年30になるそうだが、そうは見えない。
サファイヤのような綺麗な青い目、長い金髪、白く透明感のある綺麗な肌。
 
普通の女性ならこの容姿端麗な男と結婚できるとなったら歓喜あまるかも知れない。
が、エラはジョンのせいで容姿端麗な男性に苦手意識ができた。

だからといって復習という目標がある手前、苦手意識などなんでもない。

「ルイスでいいよ」

伯爵はエラに優しい笑みを浮かべる。
そしてエラの頭をポンポン、と撫でた。

「ツッ」

父親以外の男性に頭を撫でられたことなんてなかった為、驚きのあまり伯爵の手を払ってしまった。

「あ、ごめんなさい」

慌てて謝るエラの頬は、薄らと赤く染まっている。
そんなエラを見た伯爵は、愉快そうに笑いながら「いいよ」と優しく言う。

「かわいーね」

伯爵はまるで猫でも愛でるかのように言う。
伯爵の言葉にさらにエラは頬を赤くする。伯爵から見れば、年下で無垢のかわいい少女なのかもしれないが
そんなエラは心の中で

(かわいい?私は貴方やライデッカー家を利用して、滅ぼしてでもあの二人に復讐する。
かわいいなんて言っていられるのも今のうちだ)

と、復習を改めて覚悟しているのだった。
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