愛しい心は千歳よりさらに

はなおくら

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 あの頃はこんなふうに何気ない毎日を同じ空間で過ごせる事を本当に幸せに感じていた。

 それからテキパキと家の事を済ませて、場の浄化を施した。

 だが今吉の様子に変化はない。彼が元気になるにはどうすればいいのか考えた、その時キヨは何気なく今吉に話しかけた。

「今吉さん…久しぶりですね…。どうかしたのですか?いつもの顔を見せてください。」

 そうキヨが声を掛けても返事する様子は無かった。

 だがキヨは諦めず話しかけた。手に触れたいが今吉が怖がるのならとひたすら声をかけてあの頃の様に過ごした日々を思い返しながら。

 そんなある日、キヨが洗濯を干していると、普段外には出てこない今吉がとぼとぼと歩いていた。

「今吉さん…?」

 キヨが近づくと今吉は錯乱した様子で自分の名前を呼び続けていた。

「…キヨ…!…キヨ……‼︎」

 その様子にキヨは今吉の元へと駆け寄った。

「今吉さんっ!私はここにいますっ‼︎」

 そう呼びかけとっさに今吉の手に触れた。

 その時今吉はピタッと固まったかと思うとその手を両手で掴み自分の頬へと頬擦りした。

 キヨは今吉の変化に嬉しくて泣いた。

 今吉さんは、私のことを忘れてはいない。

 キヨは優しく今吉に声をかけて家の中へと入った。

 それから今吉はキヨに触れられても嫌がる事もなくなり、いつのまにか隣にいない事を不安がった。

 その様子にキヨは雛が親について回る様子だと思って笑った。

「今吉さん、今日のお加減はいかがですか?」

 そう問いかけると、微笑み返してくれる様にもなった。

 胸がホッとする。でも彼の声はまだ聞いていない。

 ふと昔の今吉の事が脳裏に浮かんだ。あの頃は貧しくとも二人で汗をかき共にご飯を食べしあわせな毎日だった。なぜこうなってしまったのか。

 考えすぎていたからだろうか、頬に暖かい掌が添えられた。

 気づくと今吉が笑った顔でキヨを見つめていた。まるでずっと一緒にいたかの様な気にさせられてしまう。

「ずるいですよ…今吉さん…。私はっ…。」

 そう呟いても今吉は笑ってこちらを見るだけだった。

 でもその顔を近くで見れる事が嬉しくてたまらなかった。

 そんなある日の晩、今吉が眠ったのを確認したキヨは湯浴みに入った。

 その時との外からカタンっと音がした。

 驚き固まっていると、戸が開き入ってきたのは今吉だった。

「今吉さん…?ひゃっ…!」

 名前を読んだが自分の姿を見られた事に焦り慌てて湯槽の中に身を隠した。

 その時、浴槽の窓からガタッと音が鳴り慌てたキヨは咄嗟に今吉に飛びついた。
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