愛しい心は千歳よりさらに

はなおくら

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 きよは驚くと言うより心穏やかな心境だった。

 目の前の男から放つ光というのかオーラというのか、それがキヨの体を暖かく包み込み安心感を与えられているようだった。

「そなたの嫁入り見させてもらった。そのおかげで我が力も戻りつつある。」

 男はそう言っているがキヨからしてみれば何を言ってるのかわからなかった。

「ありがとう…ございます。ですが…あの…何とお呼びすれば…。」

 話を聞こうにも男の名前が分からずおずおずとしていると男はまた口を開く。

「我に名はない。…そうだな…獣神…そう呼んでくれ。」

「獣神様…どういう事でしょうか?」

「…そなたは知らないのか…まぁ無理もない。この村でははるか昔は我を祀り、年頃の娘を嫁に送ったり、迎えたりする際列を作りこの土地の安泰を願った儀式があった。しかし時代の流れの中、これを省略され我を忘れるものが増えていったのだ。その影響で我にはこの土地を浄化する力が消えつつあった。」

 獣神はそう言うと悲しげな顔を浮かべた。

「そんな時そなたの嫁入りのお陰で我は力を取り戻したのだ。それを我が眷属であるものに石を託したのだ。」

 キヨは枕元に置いた石を手に取り眺めた。

「そうでしたか…初めて聞く事ばかりです。それに…獣神様、この石には何があるのですか?」

「それは私からの礼だ。そなたが本当に困った時、我が力となろう。肌身離さず持っていなさい。」

 獣神はそういうとスーッと消えていった、キヨもこれが幻だったかのように目が自然と閉じていった。

 翌朝、日が登る前目が覚めた。身体がなんだか暑くて重い。

 下をみればきつめときつながくっついて眠っていた。

 今吉も横の褥でぐっすり眠っている。

 キヨはきつめときつなを起こさないように布団から這い出ると朝ごはんの準備を始めた。

 味噌汁が出来上がる頃、今吉が起きてきた。

「おはようございます。」

「おはよう…。」

 眠い目を擦りながら今吉は今に座った。キヨは朝ごはんを並べていき共に食事を口に運んだ。

 キヨは昨夜の見たことを話すべきかと悩んだが今吉に勇気を出して話してみることにした。

「お前さん…聞きたいことがあるのです。」

 今吉はキヨの方を向いてどうしたという顔を浮かべた。

「この村には昔から行なっている儀式というようなものがあるのですか?」

 キヨの話に今吉は暫く考えた後、思い出したかのように口を開いた。

「大昔…村長の爺様くらいの時まで長いこと続いた嫁入り送りというものがあったと聞いたことがある。」
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