愛しい心は千歳よりさらに

はなおくら

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「きよ…無理強いはしたくない…嫌なら言ってほしい。」

 今吉が自分を怖がらせないようにしてくれている事はわかった。

 そんな今吉の姿が愛おしくてたまらない。

「貴方と家族として一緒に過ごしたいです…。」

 きよは今吉の体を抱きしめる。

 抱きしめてわかる。
 彼の筋肉質な胸がどくどくと音を鳴らしている。

 村一番の男前と言われ、どんな女の子にも靡かない人。

「きよ…。」

 低く優しい声、心が満たされる気持ちになる。

 だがふと幼馴染の顔が出てくる。
 キヨは今吉の胸を押し俯いた。

 今吉はキヨの顔を見つめる。

「今吉さん…花枝さんのことどう思っていますか?」

 きよは意を決して今吉の目を見る。

「ここへきて初日の時に、今吉さんの帰りがあまりにも遅かったので、見に行ったんです…。」

 そこ時の事を思い出すと胸がズキっと痛む。

「貴方は彼女に満面の笑みで楽しげに話している姿に…どうしようもない想いになりました。」

 きよは自己嫌悪に陥った。
 妻という立場で自分の感情を曝け出す醜態を見せてしまった。

 心配するきよの横で今吉は、大笑いを浮かべた。

 きよは驚いた。
 自分と一緒にいる時にはニコッとも笑わず、彼の表情を見て察するしかなかったからだ。

 腹を抱えて笑う今吉は、深呼吸をして息を落ち着かせ、口を開いた。

「きよ、かわいいな…。そんなに俺の事を思ってくれていたなんて嬉しいよ。だがきよが心配することはない。花枝とは唯の幼馴染だ。」

 そう言って今吉はきよを抱き寄せながら頭を撫でる。

 きよも今吉の腕に固まっていた体の力がスッと抜ける感覚がした。

「聞いてるかもしれないが、俺は親を知らない。この村の人間も誰も知らないんだ。」

 今吉は俯き、遠い日の事を思い出しているのか哀しい目をしている。

 きよはそっと彼の目を見つめた。

「そんな孤児だった俺を引き取って面倒を見てくれたのが村長家族だったんだ。俺を実の子同然に可愛がってくれたんだ。」

 きよは今吉の顔を持ち上に向かせた。

 そんなきよの行動にフッと笑って話を続ける。

「だから花枝とは何もない。俺から見れば年も一緒だから兄妹としか見ていないんだ。だから安心しろ。」

 今吉が信じてほしいという顔で見つめてくる。

「すみません…今吉さん…。私嫁として失格ですね…。情けない姿しかお見せしていません…。」

 すると今吉はまたもや笑い出した。

「それがきよのいいところだ。それに…キヨをはじめて見た時私は、君に一目惚れしたんだ。こんな歳の離れた男がと思うかもしれないが…。」
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