愛しい心は千歳よりさらに

はなおくら

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「あっ…あの…今吉さんっ…。」

 慌てて離れようとするきよを今吉は強く抱きしめた。

「私…私っ…‼︎」

 何か言おうと声を上げるが、悲しくて涙が出て何も言えない。

「…きよ……。」

 きよは目を見開いて固まった。
 名前を初めて呼ばれた。

 正直なところ、きよは自分の名前を知っていてくれてるなんて思いもしなかった。

「…今吉さんは私の名前を…?」

 すると今吉は頬を赤くして言った。

「覚えてる。……きよ…。」

 今吉に名前を呼ばれると嬉しくてまた涙が出てくる。

 それを彼が、不器用に頭を撫でてくれる。

「言いたいことがあるなら我慢せず言え。」

「…えっ?」

 泣きながら問い返すと今吉がまた言う。

「何か言いたげにいつもしてるのは、わかってた。…これからはなんでも聞くようにするから言え。」

 そう言うと今吉はニコッと微笑んだ。

 その顔を見た時、我慢していた糸が切れたようにきよの口から出てくる。

「…もっと…今吉さんと話したい…。私に笑顔を向けてほしい…。私だけを見てほしい…。」

 すると今吉はいつもすまし顔でいたが頬を赤くして話し出した。

「悪かった。だが俺が好きなのは……お前だけだ。」

 切長の目が照れた顔をして応える。

 それから今吉はきよを自分の膝の上に乗せた。

「あっ…あのっ…!」

 きよははじめての事で焦って驚いた。

 離れようとするきよをぎゅっと抱きしめて止める。

「…俺はお前が好きだ。」

 そう言って、台所で見たかんざしをきよに差し出した。

「お前に買ってきたんだ。」

 きよは震える手でかんざしを受け取り袋を開けた。

 中には、薄桃色のかんざしだった。

 笑顔でかんざしを見ていると、今吉がきよの髪に差し込んだ。

「よく似合ってる…。」

 きよは嬉しくなり、今まで嫌われないようにと隠していた本性を出した。

「嬉しい…今吉さんありがとう…!」

 きよは振り返り今吉を抱きしめる。
 その勢いで敷いていた布団に倒れた。

「ごっ…ごめんなさい!」

 状況を察知したきよは慌てて起きあがろうと、すると今吉がそれを押さえてきよを見つめる。

 きよも見つめ返す。
 そして2人どちらからともなく唇を重ねた。

 この時きよはどうしようもないほど幸せだった。

 長い長いキスが二人の距離を縮める。

 片方が求めれば、もう片方も、もっともっとと求め合う。

 唇を離した時、きよが今吉の顔を見ると、熱く情熱的な表情でこちらを見つめてくる。

 そして互いの手を絡ませて握り合った。

「今吉さん…私…。」

 これからの展開を期待してるようで不安になる。

 今吉を見つめると、彼はニコッと微笑み言った。

 
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