愛しい心は千歳よりさらに

はなおくら

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 今吉が家を出てから二、三日後、きつなときつめと洗濯物を干していた時。

「ごめんください。」

 誰かが訪ねてきた。
 急いで庭から顔を出すとキヨは目を見張った。

 それは今吉が笑顔で会話をしていた女性だった。

 以前見かけた時と変わらず綺麗に手入れされた黒髪を紐どめでゆるく括っている。

 きよは、平静を装って口を開く。

「すみません…どちら様でしょうか?」

 相手の女性はハッとしていった。

「すみません!私は村長の娘の花枝と申します。今吉さんとは幼馴染でして…。」

 この時きよの胸は嫉妬でいっぱいだった。

 今吉さんはこの人と本当は結婚したかったのではないのか。

「妻のきよと申します。…すみません…主人は今街まで言っており留守でして…何かあればことづけますが…。」

 キヨがそう返すと花枝は慌てて手を振り言った。

「いえ!大したことではないのです。また伺わせていただきます。」

 そう言って頭を下げて帰っていった。

 キヨの胸の中はもやもやが治らなかった。

 それから少し早めに今吉が帰ってきた。

 背中のかごには、沢山の野菜が並んでいた。

「お疲れ様でした。夕飯の用意はできています。準備しますから、お風呂にでも…。」

 今吉は、うんと頷くと風呂場へと入っていった。

 きよは急いで夕飯を並べて今吉を待つ。
 野菜や食材を台所で直しているとふと包み紙のようなものが下に落ちた。

 慌てて拾い見てみると贈り物のようだった。

 手の感触からするとかんざしだろう。

 きよは悲しくなってきて俯く。

 今吉がお風呂から出た頃、きよはご飯をよそって待っていた。

 そして食事始め、食べ終わる頃にきよは意を決して口を開いた。

「……今吉さんには想い人がいらっしゃいますか?」

 今吉が驚いてキヨの方を向く。

 そこでキヨは先程台所で見つけたかんざしを差し出した。

「…もし…今吉さんに想い人がいらっしゃるのでしたら…。」

 目に涙が出てくる。

 これ以上醜態を見せたくないと、寝床に逃げた。

 今吉は、今まで食事の時でも何も言わずにただ微笑んで自分を見てくれたきよを思い出す。

 そして何故急に想い人がいるのかと話し出したのか…下を向いてきよが差し出してきたかんざしを眺めて考える。

 だが全く心当たりがない。
 それにこのかんざしはキヨに贈り物として買ってきたものだった。

 泣いてるきよをほっとけないと立ち上がり今吉も寝床へと入った。

 目の前には涙を我慢しているキヨがいる。

 今吉は、戸惑ったが後ろからきよを抱きしめた。

 後ろからの温もりにきよは顔を上げた。
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