愛しい心は千歳よりさらに

はなおくら

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 きよの胸はずきりと傷んだ。

「…今吉さん…もしかして…あの人の事…。」

 その続きは言えなかった。

 二人に分からない様に、家に戻った。
 身体が温まったおかげか、涙が流れてくる。

 きよが泣いているのをきつなときつめが気付き、頬に流れる涙を舐めながらふわふわの毛で温めてくれる。

「…ありがとう…。」

 その時、今吉が帰ってくる音がした。

 二匹の狐が今吉を怒る様に見据えて居る。

 今吉はそれには動作なかったが、きよが泣いていることに気がつき、近づいてくる。

「どうした…?」

 きよは慌てて涙を拭いて微笑んだ。

「いえ…なんでもありません…。」

 そう言って立ち上がったが、今吉がきよの腕を掴み見つめる。

 何も発さない今吉に居た堪れなくなり、きよは一言。

「ご飯の準備をしてきます。」

 そう言って支度を始めた。

 だが今吉は自分も台所に向かうときよが支度をしている後ろでじっと見続ける。

 見られることに気まずくなったキヨは笑顔を作り返した。

「すみません、実家が恋しくなりまして…時期慣れると思います。」

 そう言うと今吉はほっとしたのか居間に戻っていった。

 きつなときつめが今吉を叱る様に見つめているが今吉は訳がわからないと言った表情をしている。

 そして二人でご飯を食べ、眠りについた。

 それから半年、きよもようやく日々の生活、田んぼ仕事など慣れてきた。

 嫁に来た頃には、稲を植える作業が今、収穫の時期を迎えた。

 今吉の家では、米の十分一を国に納め、残りを家用と売る用に分けて、売る分を持って都会に行き、交換してもらうのだ。

 この半年できよは今吉が何を思っているのか表情でわかる様になった。

 だが笑顔を見たことは一度もない。
 キヨは見知らぬ女性に笑いかけた今吉の姿を思い出すと胸が傷んだ。

 明日は今吉が街に米を売りにいく。一週間は戻らないだろうと伝えられた。

 下がる気持ちを忘れようと、明日長旅になる夫の為、精のつくものを作った。

 そして夜、早めに床に入った。
 しかしきよは目が冴えてしまい、今吉が眠ったのを確認すると、今吉が体を冷やさないようにと、実家から持ってきた布を重ねて縫った。

「明日…今吉さんが無事辿りつけますように…。」

 そう祈りを込めて呟いた一言を心配して見守っていた今吉には聞こえていた。

 今吉はまた顔を赤くして悶えてベッドに入ったのだった。


 次の日の翌朝、多めのおにぎりを持たせて見送る。

「いってらっしゃいませ。道中お気をつけて…。」

 そう言ってきよは火打石を打つ。

「……何かあれば村長を頼れ。私からも言ってるから…。」

 今吉の優しさについつい笑顔になってしまう。

 「はい。」

 そして火打石を打って夫の安全を願った。



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