4 / 38
4
しおりを挟む
きよの胸はずきりと傷んだ。
「…今吉さん…もしかして…あの人の事…。」
その続きは言えなかった。
二人に分からない様に、家に戻った。
身体が温まったおかげか、涙が流れてくる。
きよが泣いているのをきつなときつめが気付き、頬に流れる涙を舐めながらふわふわの毛で温めてくれる。
「…ありがとう…。」
その時、今吉が帰ってくる音がした。
二匹の狐が今吉を怒る様に見据えて居る。
今吉はそれには動作なかったが、きよが泣いていることに気がつき、近づいてくる。
「どうした…?」
きよは慌てて涙を拭いて微笑んだ。
「いえ…なんでもありません…。」
そう言って立ち上がったが、今吉がきよの腕を掴み見つめる。
何も発さない今吉に居た堪れなくなり、きよは一言。
「ご飯の準備をしてきます。」
そう言って支度を始めた。
だが今吉は自分も台所に向かうときよが支度をしている後ろでじっと見続ける。
見られることに気まずくなったキヨは笑顔を作り返した。
「すみません、実家が恋しくなりまして…時期慣れると思います。」
そう言うと今吉はほっとしたのか居間に戻っていった。
きつなときつめが今吉を叱る様に見つめているが今吉は訳がわからないと言った表情をしている。
そして二人でご飯を食べ、眠りについた。
それから半年、きよもようやく日々の生活、田んぼ仕事など慣れてきた。
嫁に来た頃には、稲を植える作業が今、収穫の時期を迎えた。
今吉の家では、米の十分一を国に納め、残りを家用と売る用に分けて、売る分を持って都会に行き、交換してもらうのだ。
この半年できよは今吉が何を思っているのか表情でわかる様になった。
だが笑顔を見たことは一度もない。
キヨは見知らぬ女性に笑いかけた今吉の姿を思い出すと胸が傷んだ。
明日は今吉が街に米を売りにいく。一週間は戻らないだろうと伝えられた。
下がる気持ちを忘れようと、明日長旅になる夫の為、精のつくものを作った。
そして夜、早めに床に入った。
しかしきよは目が冴えてしまい、今吉が眠ったのを確認すると、今吉が体を冷やさないようにと、実家から持ってきた布を重ねて縫った。
「明日…今吉さんが無事辿りつけますように…。」
そう祈りを込めて呟いた一言を心配して見守っていた今吉には聞こえていた。
今吉はまた顔を赤くして悶えてベッドに入ったのだった。
次の日の翌朝、多めのおにぎりを持たせて見送る。
「いってらっしゃいませ。道中お気をつけて…。」
そう言ってきよは火打石を打つ。
「……何かあれば村長を頼れ。私からも言ってるから…。」
今吉の優しさについつい笑顔になってしまう。
「はい。」
そして火打石を打って夫の安全を願った。
「…今吉さん…もしかして…あの人の事…。」
その続きは言えなかった。
二人に分からない様に、家に戻った。
身体が温まったおかげか、涙が流れてくる。
きよが泣いているのをきつなときつめが気付き、頬に流れる涙を舐めながらふわふわの毛で温めてくれる。
「…ありがとう…。」
その時、今吉が帰ってくる音がした。
二匹の狐が今吉を怒る様に見据えて居る。
今吉はそれには動作なかったが、きよが泣いていることに気がつき、近づいてくる。
「どうした…?」
きよは慌てて涙を拭いて微笑んだ。
「いえ…なんでもありません…。」
そう言って立ち上がったが、今吉がきよの腕を掴み見つめる。
何も発さない今吉に居た堪れなくなり、きよは一言。
「ご飯の準備をしてきます。」
そう言って支度を始めた。
だが今吉は自分も台所に向かうときよが支度をしている後ろでじっと見続ける。
見られることに気まずくなったキヨは笑顔を作り返した。
「すみません、実家が恋しくなりまして…時期慣れると思います。」
そう言うと今吉はほっとしたのか居間に戻っていった。
きつなときつめが今吉を叱る様に見つめているが今吉は訳がわからないと言った表情をしている。
そして二人でご飯を食べ、眠りについた。
それから半年、きよもようやく日々の生活、田んぼ仕事など慣れてきた。
嫁に来た頃には、稲を植える作業が今、収穫の時期を迎えた。
今吉の家では、米の十分一を国に納め、残りを家用と売る用に分けて、売る分を持って都会に行き、交換してもらうのだ。
この半年できよは今吉が何を思っているのか表情でわかる様になった。
だが笑顔を見たことは一度もない。
キヨは見知らぬ女性に笑いかけた今吉の姿を思い出すと胸が傷んだ。
明日は今吉が街に米を売りにいく。一週間は戻らないだろうと伝えられた。
下がる気持ちを忘れようと、明日長旅になる夫の為、精のつくものを作った。
そして夜、早めに床に入った。
しかしきよは目が冴えてしまい、今吉が眠ったのを確認すると、今吉が体を冷やさないようにと、実家から持ってきた布を重ねて縫った。
「明日…今吉さんが無事辿りつけますように…。」
そう祈りを込めて呟いた一言を心配して見守っていた今吉には聞こえていた。
今吉はまた顔を赤くして悶えてベッドに入ったのだった。
次の日の翌朝、多めのおにぎりを持たせて見送る。
「いってらっしゃいませ。道中お気をつけて…。」
そう言ってきよは火打石を打つ。
「……何かあれば村長を頼れ。私からも言ってるから…。」
今吉の優しさについつい笑顔になってしまう。
「はい。」
そして火打石を打って夫の安全を願った。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる