愛しい心は千歳よりさらに

はなおくら

文字の大きさ
上 下
2 / 38

2

しおりを挟む
 それから今吉の家ではささやかだが、結婚式が行われた。

 何故か今吉の隣には大きな狐二匹が大人しく座っている。

 きよが夫になる人の顔を盗み見たが、相手はこちらをみようとはしない。

 少し寂しい気持ちになった。

 参列者の男たちは祝いだ、祝いだと踊り周り、女達は食事のおかわりやなんやらで動き回っていた。

 目の前には豪華な食事が並べられていたが、気が進まず喉も通らない。

 心細い気持ちになった。

 それから宴会は深夜まで続いた。
 
 ずっと座って居ると、横から今吉がぶっきらぼうに声をかけてきた。

「……もう寝ろ…。」

 キヨは嫌われて居るのかと気持ちが沈んだ。

「…はい。明日からよろしくお願いします。…お休みなさい。」

「………。」

 正座して手を前につき頭を下げるキヨに返事もない。

 キヨはそろりそろりと母に付き添われて部屋で寝巻きに着替えた。

 キヨが去り、無表情の今吉に村長は呆れて話しかけてきた。

「今吉、お前きよさんに惚れてるだろ?わしにはわかるぞ。大方恥ずかしくて話しかけることもできないんだろ。」

 村長にそう言われた瞬間今吉は顔を手で覆い、赤い顔を隠した。

 そう。今吉はきよに興味がなかったわけではない。
 むしろ初めて姿を見た時から見惚れて固まってしまい、この様だ。

 村長は小さい時から面倒を見てきており、息子のように思っていた男の表情に喜び微笑んでいた。

 それから親戚が散り散りに帰宅した。

 最後に両親が帰る時見送りをした。

「頑張るんだよ。」

 母はそれだけ言って去って行った。

 静かになったこれから住むと自分の家を見上げた。

 心細かったがとりあえず寝ようと家に入り布団に横になった。

 目を閉じて眠りを待って居ると、襖が静かに開く音がした。

 今吉が入ってきた。
 キヨは布団から起き上がり、口を開く。

「すみません…わたしだけ先に休ませていただいて…。」

 キヨが遠慮深げに見つめて居ると、今吉は背を向けたまま動かなくなった。

「………今吉さん…?」

 きよの呼ぶ声に今吉は一度肩を揺らした後言った。

「…今日はもう寝ろ……。」

「…はい…お休みなさい…。」

 そうしてキヨは布団に横になった。

 眠るキヨの横で今吉は顔を真っ赤にして悶えていたのだった。

 翌朝、日も開け切らぬままキヨは台所を見て周り、朝食を作り出した。

 今吉の仕事は田んぼが主流で、米はたくさんあったが他の調味料や食材は少ない。

 キヨは使い切らないようにちょっとずつ付け足し料理の味付けに工夫をする。

 お米を炊いて釜と睨み合いをして居ると、足音が聞こえてきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

パパのお嫁さん

詩織
恋愛
幼い時に両親は離婚し、新しいお父さんは私の13歳上。 決して嫌いではないが、父として思えなくって。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

パート先の店長に

Rollman
恋愛
パート先の店長に。

処理中です...