愛しい心は千歳よりさらに

はなおくら

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 田んぼの前を長い行列がしとしと降る雨の中、傘を指して進む。

 行列の中の今日の主役の花嫁が白無垢を着て馬に乗っている。

 彼女の名は、きよと言った。
 実家には両親と下に弟二人と暮らしていた。
 貧しい中でも家族力を合わせて畑仕事に精を出していた。

 そんなある日、隣村と自分の住んでいる村長達が、お見合いを進めてきた。

 村長は相手の事を話して聞かせた。

 寡黙で大人しくはあるが働き者の青年だと言う。
 天涯孤独な者で年は30代との事だった。
 そして田んぼ仕事で生活の生計を立てていると言う。

 名を今吉こんきちといった。

 きよは今年で18歳、かなり年上だ。

 両親は、何も言わずに自分で決めろと言って畑仕事に出て行った。

 返事をしたのは、それから一週間後だった。

 悩みに悩んだが、自分もお嫁に行って両親を安心させてあげたい気持ちが強かった。

 そして今、馬に揺られながら正直緊張していた。

 白無垢の袖に雨が濡れても気にもしなかった。

 そして夫となる人の家へとたどり着いた。

 きよは顔を見上げて家を見ていた。
 広くはないが、暖かい雰囲気のする所だと感じた。馬から降りようと、参列者の手を借りて降りる。

 その時、これから住むという家の中でから二匹の大きな狐が走ってきた。

 混乱する行列の横を気にも留めずきよの元へ近づくと、前足を上げて飛び回っていた。

「きゃっ‼︎」

 きよは思わずに固まってしまった。

 しばらくすると狐たちはまた走って家の中へと戻っていった。

 なんだったのか固まっていると、心配した両親が隣に立っていた。

「大丈夫かい?」

「うん…驚いただけ…。」

 両親は獣を飼っているなんてと怒っていたがきよはそんなに腹が立たなかった。

 そうしていると、中から隣村の村長と若い青年が家から出てきた。

 きよは青年の姿を捉えた瞬間、ポッと頬が赤くなった。

 というのも青年の容姿が、息を呑むほどカッコ良かったからだ。

 長い黒髪を上に一つに纏めており、太くしっかりした眉毛、目はキリッと切長で、唇は締まったいた。

 赤くなるきよとは対照的に、笑わず前を見ているだけでなんの反応もしない。

 隣村の村長がフォローに入る。

「ちょっとおとなしいやつではあるんですが、まぁ顔だけは一人前で、こいつを見る女人はいっつも頬を赤くしていますよ。」

 その言葉が逆に両親からしてみれば心配になったのだろう。

 村長を見つめたまま動かない。
 事を察した村長が慌てて弁解する。

「あ…安心してください。こいつは働き者で娘さんを不幸にするやつではありませんから!」

 その言葉に両親は少しばかりほっとしていたのだった。

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